犬のピピの話 265 犬の腕にしみじみする
わたしはお椀かぶせをやめ、同じ手でピピの顔をなでながら、今度は耳を裏がえします。
「みみきー。ぱうみみね」
ぱうみみの「ぱう」は、象の鳴き声からきています。
象のようにおおきな耳、という意味です。
ぱらり。
ぱうみみが、ひっくりかえりました。
ぱうみみの内側は、つやつや光る薄桃いろの硬い肌で、こまかいしろい毛が生えています。
ここは、いつも「ぱうっ」とふたをされ、湿って暗いところ。
なので、少し日にあててあげましょうね。
「ねえ、ぷなちゃん・・・」
ピピの静けさと、暖かい日ざしの平和を乱さぬよう、わたしはそうっと、ピピの前足をにぎります。
ピピは、「手」をにぎられるのが苦手です。
だって、犬がそんなことをされたら、とたんに歩く自由がうばわれ、いざというとき困るので、本能的に恐ろしいことなのでしょう。
でも、このごろピピは、わたしに前足をあずけるようになりました。
それは、まっしろい、短い毛がびっしりと並び、かわいい小さな指たちが先っぽについた、すべすべの腕。
白の中には、よく見ると小さな薄茶いろのポチポチが、星のように散っています。
そんなピピの前足を、そっとじぶんの手のひらに受け、わたしはこう思いました。
「なんて、まるくて、しろくて、やわらかいのだろう」
ほんとうに、しみじみ深く驚いて、そう思ったのです。
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