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6月17日公開オススメ映画『峠 最後のサムライ』

映画ライターの松 弥々子が、今週末、6月17日に公開されるオススメ映画をご紹介します。
ぜひ、映画館へのお出かけ前の参考にしてみてください。

峠 最後のサムライ

今日紹介するのは、小泉堯史監督による時代劇『峠 最後のサムライ』です。
司馬遼太郎が1966年から1968年にかけて毎日新聞に連載していた小説「峠」を原作とし、幕末という激動の時代に、越後長岡藩の家老を務めていた河井継之助の姿を描いています。

激動の時代に中立を目指した河井継之助

この映画は、東出昌大演じる徳川慶喜による大政奉還のシーンから始まります。
ここで、長く続いた徳川の世が終わりを告げ、新しい時代が始まりました。

やがて討幕派によって王政復古の大号令が発せられ、日本は薩摩藩・長州藩・土佐藩らによる新政府軍と、会津藩・桑名藩を中心とする旧幕府軍(奥羽越列藩同盟)の二手に分かれ、戊辰戦争という内戦になだれ込んでいきます。

役所広司演じる主人公・河井継之助は越後長岡藩の家老を務めていました。
江戸遊学など、広い見聞を持つ継之助は、この有事に外国人商人からガトリング砲やライフル銃などの西洋の銃器を購入し、藩士たちに近代式の戦争訓練を実施。
実は、彼は「武装中立」を目指していました。長岡藩は、尊皇でも佐幕でもなく、独立した道を歩むべきだと考えていたのです。

しかし、新政府軍はそんな長岡藩の思惑など関係なく、会津藩の討伐を目指していました。会津を朝敵と定めた新政府軍は、各藩に会津討伐のための献金と出兵を求めます。しかし、長岡藩はその命を拒否し、「武装中立」を表明します。

そんな長岡藩を敵とみなし、新政府軍は小千谷へ侵攻してきました。
そこで河井継之助は、開戦を避けるため、二名の供を連れただけで、新政府軍の本陣を訪れます。そこで新政府軍と旧幕府軍の調停を申し出たのですが、その申し出は拒否されてしまいます。

この「小千谷会談」の決裂により、長岡藩は奥羽越列藩同盟に参加することとなります。そして戊辰戦争の中での最大の戦闘の一つといわれる「北越戦争」へと突入していくのです。。。

役所広司が演じた河井継之助という侍

この河井継之助という人物、若い頃から江戸に遊学するなど、広い見聞を持つ人物。
日本が世界のどこにあるのか、世界の情勢なども知っている人物として描かれています。
決して剛一筋の人間ではなかったようで、遊郭なども好きだったようです。

役所広司が演じていることや家老という役職から、かなり年配に思えますが、この時41歳という若さ。
この若さで家老に取り立てられるということは、その才を藩中で認められていたということでしょう。

そんな広い視野を持ち、卓越した見識で時代や世界情勢を知っている彼は、「侍」の世が終わりに近づいていることを、はっきりと見抜いていたはずです。
それなのに、「常在戦場」の心を忘れず、武士としての本分を貫いて、越後長岡藩と命運を共にした……。

この精神こそが彼を「最後のサムライ」と呼ぶ理由なのかもしれません。

実力派俳優陣が出演する本格派時代劇

本作は、役所広司のほか、多くの実力派俳優が出演しています。

妻のおすがを演じるのは、松たか子。
さらに、仲代達矢、榎木孝明、田中泯、香川京子という、その立ち姿だけで画面を支配してしまうベテランのほか、永山絢斗、芳根京子、佐々木蔵之介、吉岡秀隆といった、これからの日本映画界を背負ってたつべき若手・中堅俳優が出演。

黒澤明監督の愛弟子とも言える小泉堯史監督のもと、黒澤組ゆかりのスタッフが多く結集し、全編フィルムで撮影したというこだわりの時代劇と聞けば、多くの俳優にとっては垂涎の作品と言えるでしょう。

また、多くのシーンが歴史的な重要文化財や古戦場などで撮影されており、フィルムに映るその深い陰影やそこはかとなく感じられる歴史の重みなども、見ごたえたっぷりです。

個人的にぜひ観てほしいのは、芸者遊びのお座敷で継之助とおすがが「カンカン踊り」を踊るシーン。
松たか子といえば、二代目松本白鸚を父に、十代目松本幸四郎を兄にもつ梨園の出身。日本舞踊松本流名取でもあります。そんな彼女の美しい所作、しなやかな手の動きなどは、一朝一夕の練習では出せないものがありました。

この映画『峠 最後のサムライ』には、小泉堯史監督の本物へのこだわりがつまっていることが、このシーンを見るだけでも、理解できるはずです。

『峠 最後のサムライ』(114分/日本/2020年)
公開:2022年6月17日
配給:松竹、アスミック・エース
劇場:全国にて
Official Website:https://touge-movie.com/
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会

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