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マンガを実写化するということ~後編~ 『ただ離婚してなだけ』で検証してみる

前回、「マンガを実写化するということ~前編~」ということで、「どんなマンガが実写化されるの?」「アニメと実写との違いは?」「実写化することの意味」という括りで解説しました。

私が現役で映画やテレビドラマを作っていた頃から、すでに10年以上経過してしまいましたが、今でも友人の脚本家やプロデューサーには、「こんな原作があったよ」と勝手に推薦しています。マンガや小説を選ぶ時は、いつまで経ってもそういう目線で選んでしまいますね。

さて、今回は「原作マンガをどんな風に脚本にするか」「2021年夏ドラマの中からピックアップし検証してみる」という点で解説していきたいと思います。あくまで、個人的な見解なので、その辺はご了承ください。

原作マンガをどんな風に脚本にするか

さあ、実際にマンガをもとに実写化するには、どう進めていくのでしょうか。実写化でも、ドラマ化する場合と映画化する場合ではアプローチが異なります。

まず、映画の場合は、日本映画ですと通常90分~120分くらいの尺で1本の作品を作ることが多いようです。ドラマの場合は、1クールにつき10~12回、1話につき30~60分枠(CMを含みます)で放送されます。

原作マンガが数冊ある場合、映画ですと、その要素をぎゅっとかいつまんで1本の作品に仕上げていきます。ドラマは、1話ごとに話を分けていきながら、最終回に向かってまとめていく作業となります。

どちらもポイントは、大枠でどういう物語の流れにするかということ。すでに完結している作品なのか、連載中の作品なのかで大きく変わってくることもあります。たとえば、原作で決まっているラストに向かうのか、実写作品オリジナルの展開にするのかどうかなどです。

また、原作で必ず必要な部分はどこか、カットする部分はどこか、キャラクターの役割や配置など、こちらも大きな流れで決めていきます。これがプロットと呼ばれるものになりますが、実は最初に作ることもあります。このプロットを原作権獲得や営業ツールとして使用するのです。

実際に製作が決まると、ここから脚本に落とし込んでいきます。(場合によっては、何も決まっていない段階でいきなり脚本にすることもあります。)実写化する際に、原作者の許諾を得ることができる範囲で、キャラクターや物語、設定などの変更を伴いながら、脚本化していきます。

たとえば、原作に海外での撮影が盛り込まれていても予算的な問題で行けない時は、その部分を日本での話に変更することやキャストの都合でキャラクターの性別を変えることもあります。多少の変更は致し方のないこともありますが、絶対に死守しなければならないのは、作品の世界観を変えないことではないかと思います。

原作者サイドからも原作ファンや映画・ドラマファンからも納得のいく形で実写化されることが最も望ましく、それを目指しながら制作できるのが理想ですね。

2021年夏ドラマの中からピックアップし検証してみる

これまで、マンガを実写化することについて解説してきました。さて、ここからは現在放送されているテレビドラマの中から1本を選び、具体的にどんな風に作られているのか検証してみたいと思います。

今回私が選んだのは、テレビ東京、毎週水曜日深夜0時から放送されているドラマホリック枠『ただ離婚してないだけ』です。原作は本田優貴の同名マンガ。2017年から白泉社の「ヤングアニマル嵐」で連載が始まり、「ヤングアニマル」に移行後、2020年2月まで連載が続きました。全5巻にて完結しています。

主人公の柿野正隆はフリーライター。妻の雪映は小学校の教師をしています。2人は結婚7年目ですが子どもはおらず、正隆の雪映への愛はすでに冷え切っていました。2人は「ただ離婚してないだけ」の夫婦だったのです。

正隆には新聞配達員をしている萌という不倫相手がいました。萌にせがまれて行った旅行で、衝撃の告白をされる正隆。そこから、運命の歯車が狂っていくのでした。

普通の家庭にみえていた柿野夫妻には、大きな溝がありました。しかし、2人で同じ罪を背負うことに。罪を犯した共犯者として、2人の絆が深いものになっていくという、悲しく残酷な物語です。

『ただ離婚してないだけ』が放送されているドラマホリックという枠は、30分のドラマを放送しています。通常のドラマは12回放送が主なので、30分×12回という中で、原作マンガ5巻分の物語にすることになるわけです。

ちなみに、この原作の最後の5巻目は、もし悲劇が起こらなかったらという“if”の物語となっています。ドラマ化する際に、この物語はおそらくまるごとカットするだろうと思われるので、4巻までのお話になるのではないでしょうか。そこまでの物語は24話分。この24話分の物語を360分=6時間で消化していくことになります。

限りある時間の中での放送となるので、今回のドラマではオリジナルの設定がいくつか設けられています。特に大きな部分では、正隆の生い立ちです。

原作マンガでは語られていない部分ですが、正隆自身が複雑な家庭環境で育ってきたという設定が加わっています。そうすることで、正隆の人となりがわかりやすくなり、短い時間で説明することもできます。それにより、キャラクターの性格に多少の変化も生じているように見えます。

ドラマでの正隆は、よりリアルな人物とし描かれています。また、正隆のキャラクターの変化により、雪映もまたマンガよりも弱い部分が顕著に。そうすることで、こちらも、より人間的に描かれています。実際に罪を犯した人間の弱さや心の揺れが感じられ、演者として演じやすい脚本になっているように思います。

こうして、実写化する際に大事なことは「リアルさ」です。架空の物語であることはもちろんですが、より「リアル」に見えることで、視聴者の共感を誘うドラマとなり得るのです。

それぞれのメディアごとに適した表現が存在します。この『ただ離婚してないだけ』のマンガでは、普通に暮らしているように見える夫婦が、ある日突然大きな罪を犯してしまいます。

そこから犯人たちをまるで観察しているような、殺人共同生活〇〇日目という記録のような形で物語が進行していきます。非常に秀逸な構成と展開になっていきます。人間の恐ろしさがより感じられる気がします。

ドラマではそういった部分はカットされていますが、冷め切っていた夫婦が共通の罪により、また繋がっていくという原作の世界観は変わらず物語が進行していきます。ドラマはまだ折り返し地点にきたばかり。今後の展開も注目していきたいと思います!


ざっと説明してきました。少しでも、マンガという原作をもとに実写化することがおわかりいただけましたか。原作のある作品は見比べてみることで、新たな発見へと繋がることがあるかもしれません。ご興味のある方はぜひチャレンジしてみてください。

kayser


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