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2022年、映画ライターが選ぶ個人的おすすめ映画10選

2022年もとうとう終わります。今年も、たくさんの映画を紹介させていただきました。
本記事では、映画ライターの松 弥々子が選んだ2022年のおすすめ映画10作品をご紹介します。

ウクライナの戦争や終わらない新型コロナウイルス、気候変動など、今年も世界は大きく変化しています。映画やエンターテインメントの世界では、そんな世相を反映した作品が多く登場しました。
映画業界では、いち早くウクライナ映画の上映を企画したり、心あるロシア人監督が製作したロシア映画が配給されたりも。

本記事では、私が2022年に観た映画の中から、好きだった作品を10作品選んでみました。
ランキングではなく、観た順番に並べています。
こうしてみると、自分の心が動かされる作品の傾向がよくわかりますね。

アネット

この作品は『ポンヌフの恋人』『ポーラX』で知られる鬼才レオス・カラックスが監督を務め、バンド「スパークス」が原案・音楽を担当するこの映画。
男女の愛憎、親子のすれ違い、ある身勝手な男の破滅を描く、衝撃の衝撃のロック・オペラです。

ミュージカルとして歌で物語が進行していくこの作品、アダム・ドライバーの、上手く歌おうとするのではなく、その心情を吐き出すような歌声は必聴。この作品がミュージカルである意味がわかるはずです。

鬼才のクリエイティビティ、変革者のあふれ出るエネルギー、そんな魂を感じさせてくれる、情熱あふれる一作です。

『アネット』(140分/フランス=ドイツ=ベルギー=日本=メキシコ/2020年)
原題:Annette
公開:2022年4月1日
配給:ユーロスペース
劇場:全国にて
Official Website:https://annette-film.com/
© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

アトランティス

2018年のマリウポリで撮影された映画『アトランティス』

この作品の舞台となるのは、2025年のウクライナ。ロシアとの戦争が集結して1年後のウクライナが描かれています。
日本でロシアによるウクライナ侵攻が話題となったのは今年ですが、2014年にはすでにウクライナ紛争は始まっていました。本作の監督であるヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督は、このウクライナ紛争下で映画を製作していたのです。

戦死者の遺体を掘り起こして身元確認をしたり、戦争で荒廃した街を彷徨ったりする様が、淡々と長回しで映し出された本作、現代の戦争の悲惨さを我々に突きつけてきます。

「生きている」ということ、それ自体が強い力を持つ、奇跡的なことである……。そんなことを実感させてくれる最後の映像に、強い衝撃を受けた一作でした。

『アトランティス』(108分/ウクライナ/2019年)
原題:Atlantis
公開:2022年6月25日
配給:アルバトロス・フィルム
劇場:シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開
Official Website:https://atlantis-reflection.com/
© Best Friend Forever

マイスモールランド

是枝裕和監督門下の新人監督・川和田恵真が、モデルとして活躍する嵐莉菜を主演に迎え、17歳の在日クルド人少女・サーリャの物語を描いた『マイスモールランド』

“国家を持たない世界最大の民族”と呼ばれるクルド人。弾圧から逃れて日本にやって来た彼女たちですが、難民申請は却下され、父親は入管に収容されてしまいます。
恋愛やオシャレなど、楽しいことがいっぱいあるはずの17歳でありながら、彼女は妹と弟を食べさせていかなければならないのです。

この日本で、のんきに暮らしている日本人を尻目に、辛い思いをしながら生きている在日外国人がいる……。
国家に翻弄される一個人を描き、社会の問題を炙り出しつつも、エンターテインメント作品としても成立させた川和田監督の才能と手腕を実感できる作品でした。

『マイスモールランド』(114分/日本/2022年)
公開:2022年5月6日
配給:バンダイナムコアーツ
劇場:新宿ピカデリーほか全国にて
Official Website:https://mysmallland.jp/
©2022「マイスモールランド」製作委員会

WANDA/ワンダ

1970年に、映画監督のエリア・カザンの妻であるバーバラ・ローデンが、38歳という若さで監督・主演を手がけた映画『WANDA/ワンダ』

この物語の主人公のワンダは、自分の人生に関する自己決定権に気づかずに、流されるように状況にあわせて生きている女性です。事件に巻き込まれ、その犯人と共に逃避行に出るのですが、その犯人と別れた後も、そこで偶然に出会った人にフラフラとついていってしまいます。

ワンダは、それまで自分の意思を持つことを剥奪されて生きてきた女性。そんな女性がどうやって生きていくのか、バーバラ・ローデンは残酷で他者に無関心な世間を淡々と描いています。

50年の時を経て、社会は進化しているのだろうか……? そんな疑問を突きつけられる一作です。

『WANDA/ワンダ』(103分/アメリカ/1970年)
原題:Wanda
公開:2022年7月9日
配給:CRÉPUSCULE FILMS
劇場:シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開
Official Website:https://wanda.crepuscule-films.com/
(C)1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS

ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行

映画『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は、1万6千作品以上の映画を観てきたというマーク・カズンズ監督が、2010~2021年の11年間にスポットをあて、映画の世界の変遷・発展・変化を促した(もしくはそれを現した)111の映画を紹介しています。

『ジョーカー』『アナと雪の女王』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』といったメジャー作品や、小津安二郎監督の『麦秋』や是枝裕和監督の『万引き家族』といった日本映画、そしてインド映画、タイ映画、ウガンダ映画、ロシア映画、イラン映画、ニュージーランド映画、ルーマニア映画など、多岐にわたる映画が取り上げられています。

映画の発展や、その奥に秘められたテーマの変遷などを理解することができるこのドキュメンタリー『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は、映画の楽しさや映画の残酷さを教えてくれるとともに、映画の可能性を感じさせてくれる映画でもありました。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(167分/イギリス/2021年)
原題:The Story of Film : A New Generation
公開:2022年6月10日
配給:JAIHO
劇場:新宿シネマカリテほか全国にて順次公開
Official Website:https://storyoffilm-japan.com
© Story of Film Ltd 2020

トップガン マーヴェリック

言わずと知れた大スター、トム・クルーズの衰えない魅力が味わえる映画『トップガン マーヴェリック』

トム演じるピート・“マーヴェリック”・ミッチェルが、36年の時を経てアメリカ海軍のエリートパイロット養成学校、トップガンの教師となって帰ってきました。もう、それだけで胸熱なのに、かつての親友の息子との愛執、不可能なミッションに挑む緊張感、病に冒された旧友との邂逅など、棺桶ポイント満載なのです。

やっぱりトム様はすごい……。自身の代表作を、36年後にこんな形でアップサイクルしてくるとは。ハリウッドの至宝と言わざるを得ません。
そのトム様の映画に対するあくなき情熱を同時代にスクリーンで体験できたというだけで、幸せです。

とにかく、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン〜TOP GUN THEME」が流れてきただけで、問答無用で観たくなる、そんな最高の映画なのでした。

『トップガン マーヴェリック』(131分/アメリカ/2022年)
原題:Top Gun Maverick
公開:2022年5月27日
配給:東和ピクチャーズ
劇場:全国にて
Official Website:https://topgunmovie.jp/
(C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

女神の継承

『哭声/コクソン』のナ・ホンジン監督が製作を手がけた、タイの祈祷師の血を引く一家に起こる悲劇を描くホラー映画『女神の継承』

タイ北部・イサーン地方の土着の女神・バヤンの巫女の血を引く若い女性の体にバヤンが降りてきたことから始まる不可思議な現象の数々を、ドキュメンタリータッチで描いています。

巫女、祈祷師、霊媒などを通じて、霊や神と交信するシャーマニズム。科学的証明が難しい事象の数々は、なぜ起こるのか? その背景にあるものは? 継承されたものは何なのか……。

ドキュメンタリーの取材班が、心霊現象の背景にあるものを解き明かしていく過程は、見応えたっぷり。さらにタイの土着の宗教儀式など、未知の世界を観客に見せてくれます。

実はホラー映画が苦手な私ですが、この作品に関しては、その精神性や今までにない新しい視点が忘れられない一作となりました。

『女神の継承』(131分/タイ・韓国/2021年)
原題:ร่างทรง(Rang Song)
韓題:랑종
英題:The Medium
公開:2022年7月29日
配給:シンカ
劇場:シネマート新宿ほか全国にて
Official Website:https://synca.jp/megami/
(C)2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS ALL RIGHTS RESERVED.

セイント・フランシス

思わぬ妊娠をして中絶を選択した34歳の女性・ブリジットを主人公とするこの映画『セイント・フランシス』

本作は、結婚もせず、持ち家もなく、華やかなキャリアもない34歳のブリジットが、6歳のフランシスのナニー(子守り)として過ごした、一夏を描いています。

フランシスは、ヒスパニック系のマヤとアフリカ系とアニーというレズビアンカップルに育てられている6歳のアフリカ系の女の子。その家族構成や人種などから、道行く人に心ない言葉を向けられることもあります。
でも、フランシスはもっとも大切なことは何か、自分でわかっています。そしてそれを両親やブリジットに教えてくれるのです。

本作の脚本家は、ブリジットを演じている俳優のケリー・オサリヴァン。生理、妊娠、中絶といった、どの女性も抱えているにも関わらず、あまり語られることのない問題を取り上げ、すばらしい作品に仕上げてくれました。

『セイント・フランシス』は、自身の生き方に悩む女性の心を癒やし、エンパワーメントしてくれるような映画でした。

『セイント・フランシス』(101分/アメリカ/2019年)
原題:Saint Frances
公開:2022年8月19日
配給:ハーク
劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国にて
Official Website:https://www.hark3.com/frances/
(C) 2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED

ドライビング・バニー

シングルマザーのバニーが、離れ離れになった子どもたちと会うために爆走する映画『ドライビング・バニー』

ニュージーランドを舞台に、定職もなく、自分の家を借りることもできず、妹の夫・ビーバンの家に居候するバニー。彼女は、ビーバンが妹の連れ子である姪のトーニャを性的に虐待しようとしている場面に出くわします。そのことでビーバンの家を出ることとなったバニーは、トーニャを連れて盗んだ車で走り出すのです。

路上で洗車をして生活費を稼ぎ、家庭支援局の保護監察官をだまし、空き家に忍びこんで豪遊するバニーは、目的のためなら手段を選ばないバイタリティあふれる女性。自身が置かれた絶望的な状況にめげず、試練に立ち向かっていきます。

何があろうと、自分の人生を自分でドライブしようとするバニーの姿に、強く心を動かされた一作でした。

『ドライビング・バニー』(100分/ニュージーランド/2021年)
原題:The Justice of Bunny King
公開:2022年9月30日
配給:アルバトロス・フィルム
劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国にて
Official Website:https://bunny-king.com/
© 2020 Bunny Productions Ltd

RRR

「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリ監督が贈る『RRR』は、あまりに熱い、熱すぎるインド映画。

インドがイギリスに統治されていた1920年代を舞台に、非道なふるまいをする英国人からインドを取り戻そうとする、A.ラーマ・ラージュとコムラム・ビームという実在した2人の英雄の熱い戦いを描いています。

一騎当千の警官ラーマと、虎をも倒す羊飼い・ビーム。彼らの物語は、まさに炎と水のブロマンス。

人を人とも思わぬやつらに、強い意志で立ち向かうインドの英雄たちの姿に、心が燃えたつこと必至の一作。元気がないときに観れば、きっとテンション爆上げにしてくれるであろう、最高のアクションエンタテインメントです。

『RRR』(179分/インド/2021年)
原題:RRR
公開:2022年10月21日
配給:ツイン
劇場:全国にて
Official Website:https://rrr-movie.jp/
©︎2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

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