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文章読本のクラシックから岩波新書の深さを知る

清水幾太郎『論文の書き方』(岩波新書)が、胸に刺さったよ。とても知的で誠実な説教をされた気分。編集者だったときに、ここまで真剣に言葉に向き合ってなかったなあと反省した。

著者の清水幾太郎は、戦前から活躍する社会学者で60年安保闘争の指導者でもある。

本書はいわゆる「文章読本」としては珍しく、例文がほとんど出てこない。How to本を期待した読者の多くは、そこで肩すかしを食らったような気になるかもしれない。

では、例文なしでどのように「論文の書き方」を説明しているのか。本著で展開されるのは、「知的文章を書くとはどういうことか」についての深い考察だ。「書くとは?」 「日本語の特徴とは?」 「言葉の裏側にある本質的な何かを伝えるのは?」 そういった、知的文章を書くために根源的に向き合わなければならないことのひとつひとつを、著者の経験や古今のエピソードなどをもとに、誠実に深掘りしている。そこから導き出された実践方法は、「日本語を外国語のように扱う」「建築物のように、文章を構築する」「『が』を警戒する」といったものだ。一見すると、抽象的すぎると思うかもしれない。しかし、本著を読むとこれらが「書くこと」と「書くために思考すること」の本質をとらえた、普遍的な方法論であることがよくわかるだろう。

発行は1959年。読みながら「古典と言っていいような普遍性をもっているなあ」と思っていたら、この手の本の中では古典なんだね。岩波新書の中でもベストセラーだとか。自分が本著を手をとったきっかけが、岩波書店のキャンペーン「はじめての新書 岩波新書80周年記念」で、大澤聡が紹介していたからだ。大澤はこの本以外に、吉野源三郎の『職業としての編集者』も紹介していて、こちらもおもしろかった。岩波新書は、深いよね。いまの新書のあり方とは、まったく違うなあ……。


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