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百二十四話 朝鮮ピー

 三日間の大休止は、試験に追われたこともあり、あっという間だった。
 翌払暁、聯隊は米飛行場撃滅に出る。のちに長江と呼ばれる大河・揚子江を汽船で渡り、対岸の武昌に上陸した。
 これが岳陽から始まる一号作戦の目玉、湖南(湘桂)作戦である。

 対岸の武昌には、すでに輸送部隊が待機していた。
 船から降りた兵が、トラックの荷台に乗せられる。浅井は、輸送部隊の手によって、トラックの荷台に乗せられた。
 輸送部隊が笛を吹くと、トラックが次々狭い船着場から前線に出て行く。荷台のふちを固く握り締める浅井。兵隊を満載したトラックは、武昌市街に入らず、砂漠のようなところに出た。

 膝丈くらいの砂岳が点在している。
 広大な砂岳地帯、トラックは砂煙を上げて、一列で南下する。
 砂煙が濛々もうもうと立ち込める中、浅井は、後続の何十台ものトラックを眺め続けた。
 
 歩かず前線に行ける――浅井に限らず、誰にとってもこれほど嬉しいことはない。浅井がこの上なく満足していると、同じ荷台に乗る古兵の話が聞こえて来た。

 古兵たちは漢口での娼婦の感想戦をしていた。娼婦の元締めは朝鮮人。割引券を貰って一戦交えたそうだが、見事に地雷を踏んだそうだ。浅井も実はそのチケットを持っていて、先輩にあげて喜ばれただけに、その末路が気になった。
 それはともかく、殆どの兵曰く、「日本の女郎は、兵の階級でサービスに差をつけるが、朝鮮ピーはそんなことをしない。その上、親切だから、ついチップを弾んでしまう」と、総じて朝鮮ピーに好意的。十七歳の浅井にとって、そのサービスの差や善し悪しを知る由もなかったが、よもや日本に生きて還れれば、朝鮮人の友、林に訊くつもりで居た。
 
 「命が惜しくなったのかよォー!!!」
 突然、古兵が大声で怒鳴った。荷台からである。
 見ると、故障したらしいトラックが一台停まっており、運転手がボンネットを開け中を見ている。
 怒声は、そのトラックの荷台に乗る兵たちに向けたもの。多くの死傷者が予想される戦場だけに、洒落になってなかった。

 トラックの列は、砂丘を抜け、走り続ける。
 しかし、永遠に続くかと思われた走行とその列は、唐突にストップする。 岳州から長沙に向かう幹線道路が、國府軍の手によって破壊されていたのだ。五十メートル置きぐらいに切断された道路は、大量の土も綺麗に持ち去られ、最早走行不能となっていた。

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