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ロハスフェスタのたっぷりチーズナン

先日ロハスフェスタというものに行った。手作りの雑貨をはじめ、アクセサリーや家具など「人と地球にやさしい」というテーマに沿った出店が500程集まった、なかなか大掛かりなイベント。最近分別を学んだレベルのサステナブルの対義語のような僕にとっては、とても新鮮すぎるイベントであった。

まず驚いたのが、店に貼ってある出展者のコメントだ。そのロハスフェスタでは、各店舗が店先の看板に、一言コメントを書くことがルールになっているようで、それぞれの店舗が手書きでコメントを書いていた。

そこには、「端材を極力出さず、使えるものはくまなく使っています!」や「本来は捨てる部分でアクセサリーを作りました!」など、よくわからない僕でも「サステナブルなんだろな」と思うコメントが並んでいた。「エコからインスピレーションを得て、作品にしています。」というコメントを見た時には「おっ!サステナってんね!」と言いながら暖簾でもくぐってやろうかと思ったが、やめておいた。30歳だし。

驚いたのが、こういったコメントが300程の店舗すべてに書いてあるというところであった。このサステナブルという考え方が、これほどまでに浸透し、関心を持たれているということに、いまさらながら驚いた。僕のような、ルール通り分別やもったいないからちょっと再利用するくらいの、どちらかと言えば無関心層からすると、これほどまでに関心を持った人が多くいることが、かなりの驚きだったのである。

もちろん僕は、そんな意識の高い方々の空気感に堪え切れるわけもなく、終始空気階段のかたまりの持ちギャグ、「サイコォ!サイコォ!!サイコォ!!」とただ叫ぶギャグを、永遠と真似していた。大阪のロハスフェスタで、やっべぇやつ見かけたなと思ってる方がいればおっしゃってください、それ僕です。

そんなロハスフェスタだが、昼時だったこともあって、キッチンカーコーナーを訪れた。そこはさすがロハスフェスタで、大豆ミートの唐揚げや自然食品のお店など、あまり祭りなどでは見かけないような出店が並んでいた。その中で僕は、インドカレーを見つけた。

そのインドカレーは、カレーとチーズナンがセットになっていて、かなりの列になっている。早速僕も、その最後尾に並び自分の順番を待っていると、列の先のインドカレー屋の方から、何やら声が聞こえてくる。


「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン!!」


見るとおそらくインド人のおじさんが、テントの中でナンにチーズを掛けながら、陽気に声を上げている。だが何かおかしい。


「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン!」


おそらくインド人のおじさんは、続けざまにチーズナンを作り「たっぷりたっぷりたっぷり」とものすごい早口で言いながら、陽気にチーズを振りかけている。5分ほどたったが、僕の順番はまだ来ない。


「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン!」


さらに5分ほどたった。もうすぐ僕の順番も来るだろう。インド人のおじさんは、まだチーズナンを作っている。依然として高速たっぷりを繰り返して、チーズを振りながら陽気にチーズナンを作っている。おじさんの前で、喜んでいるお客さんはいない。


「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン!」


次の次の番が僕だ。レジのおばさんは、陽気なおじさんを見ようともしない。


「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン!」


僕の番が目前に近づいた。さっき料理を受け取ったお姉さんは、逃げるように陽気なおじさんからチーズナンを受け取って去っていった。レジの横にはもう一人インド人のような人がいる。たまに、スナイパーくらい鋭い目で陽気なおじさんをにらんでいる。


「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン!!」


違和感が分かった。

この周辺にいる全員が、おじさんに飽きたのだ。


おじさんは、永遠と面白いことを言っているテンションで、「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン」と連呼している。とてつもない早口で、たっぷりを連呼した後、チーズナ~ン!と言って、少し変な顔をする。おそらくだが、この陽気なおじさんは、面白いと思って言っている。

もちろんこのたっぷりチーズナンギャグ、別に面白くはない。別にトルコアイスみたいに、腹が立つわけではないが、決して面白いものでは無い。「陽気だね。」と思うくらいのものだ。関西人が標準語で「陽気だね」というくらいのそんな絶妙な温度のパフォーマンスである。

おそらく並んでいる人もみんな、同じことを思っていたと思う。別に面白くはないが、陽気で不快でもないので、インドカレー旨そうだし並ぼうかなと。でも、だんだん気づき始めるのだ。おじさん一生本気だし、やたら多いぞと。

何ならこのおじさんなら、喜んだらもっと「たっぷり」を言ってきそうだし、「チーズナ~ン」時の変顔をもっと強くやってきそうな感じもしてくるのだ。一度親父ギャグをほめると、おじさんが止まらなくなるように、このインド人に楽しそうなそぶりをすると、えらいことになるんじゃないかという、謎の緊張感が、この周辺を包み込んでいたのだ。


それが、レジのおばさんの無視だったのだ。

それが、お姉さんの逃げるような態度だったのだ。

それが、横のインド人のスナイパー視線だったのである。



「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり、チーズナ~ン!」

僕はチーズナンをひったくるように受け取ると、一度ペコッとだけして、逃げるようにその場を後にした。

頭の中には「たっぷりたっぷりたっぷりたっぷり」という言葉が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれ、さっき覚えたサステナブルという言葉は、もうどこかに消えてしまっておりました。


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