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黄金色のビールの向こうに、沢山の人生を見た。キリンビールサロンでの出会いについて


2020年の夏、大学時代の先輩から久しぶりにメッセージが届いた。

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先輩とは、関西での大学生活をともにした。自分が上京してからは、お互いに誘ったり誘われたりしながら、たまに銭湯や居酒屋に行っては一緒にビールを飲む仲だった。

「飲みに行こうよ、の誘いかな?」と思ったけれど、どうやら今回は違うみたいだった。

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ビールと人が大好きな先輩のSNSを見て、先輩が少し前から『キリンビールサロン』という楽しげなコミュニティに参加していることを知っていた。


「これからのビールを考える」をコンセプトに立ち上がった『キリンビールサロン』の第一期は、ビールを楽しみながら学ぶ全5回の連続講義。

月に一度の講義が開催されるたびに、SNS上には「#キリンビールサロン」のハッシュタグとともにメンバーの楽しげな思い出がシェアされていった。

ビールの味を飲み比べたり、ホップの香りを嗅いでみたり、工場で自分のビールを造ったりと…ビールを通していろんな人と繋がっていく姿がとても楽しそうで。そこには新しいものに出会う高揚感が溢れていた。

ただ、これはコロナ禍よりも前の出来事。多くの人が楽しんだこのサロンをなんとか続けることはできないかと、第二期のサロンは全ての講義をオンラインに切り替えて行われることになった。

「めちゃくちゃ講師の先生もアツくていい人たち、美味しいビールもたくさん飲めて、素敵な仲間もできるという最高コミュニティなのですが、よろしかったらnote枠で参加しませんか?」

そんな先輩からのお誘いにつられて、僕は二つ返事でサロンへの参加を決めた。

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第二期は全5回すべてオンラインでお届けします。今回も全講座を通じて、キリンの人気講師と様々なゲスト登壇者とともに、これからの時代の新しいビールの楽しみ方を参加者一体となって見つけていきます。毎月多様なビールやビールを楽しむためのキットをご自宅にお届けし、ビールの奥深さを感じながら参加できます。

正直に言えば、オンラインを通してこんなにもたくさんの興奮と、愛着のある思い出ができるとは思っていなかった。「同じ場所に集まれない」ことへの心配も、毎月家に届く、はじめましての銘柄のビールをプシュッと開けるごとに、泡のように消えていった。

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PC画面に向けて乾杯のグラスを掲げる時の物足りなさと寂しさも、画面の向こうにいるサロンメンバーと「いつか、本当に乾杯しましょうね」と約束するためのいい口実になっていった。そんなキリンビールサロン第二期での思い出を、少しだけ振り返りたい。


ビールを通して、たくさんの人生を見た

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初回の講義で、事前にサロンメンバーが回答した「好きなビール」を全て取り揃えてくれた講師の草野さん。あとでスタッフのみなさんで美味しくいただいたんだろうな…(うらやましい)

「講義では、きっとビールの知識を洪水のように浴びるんだろうな」と思っていたし、実際に情報量に溺れかけたのも事実だ。

けれどそれ以上に強く心に残ったのは、たくさんの「ビールが大好きな人たち」との出会いだった。

キリンビールサロン第二期に参加したメンバーは全部で37人。オンライン講義が始まると、サロンの挨拶や前置きもそこそこに、少人数に分かれてのグループトークが始まった。

初めましての数人同士で交わす短い自己紹介と、ソロソロとはじまるビール談義。「ビールの楽しみ方は人それぞれ」なんて言葉はすぐに出てくるけれど、本当にそう感じるほど多種多様だった。

「ドイツに旅行に行った時、初めて飲んだこの白ビールが忘れられなくて」と語ってくれる人もいれば、昼の2時から始まる講義の時間に合わせて「昼から飲むなら、これがいいかなと思って」と好きなビールを選ぶ人も。「子供の頃は生ビールなんてなかったから、親父が飲んでいたこれが親しみやすくて」とラガーの大瓶を用意してきた人もいた。

あとから聞いた話によると、他のグループでは「大西洋横断に挑戦し、ゴール地点で友人から渡されたよく冷えたビールが忘れられない」なんて大冒険の思い出を語ってくれた人もいたという。

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そんなサロンメンバーたちの話を聞いていると、頭の片隅に澱のように溜まっていた「ビール好きの集まりに入って、自分より詳しい人たちに向かって何を話せばいいんだろう」という考えが、綺麗に洗い流されていくみたいだった。  

ビールについて語ることは、「私があのビールを飲んだ時のこと」を語ることで、それはつまり相手の人生のワンシーンを切り取って話してもらうことだった。

よかった。それなら自分にもできる。

もちろん、ビールの銘柄や造り方、歴史に郷土性、思想について知っていくことは大きな楽しみだ。ただ、その少し手前にある「ビールを通して、人の思い出を聞く」という体験の楽しさをとてつもなく気に入ってしまった。

誰が語るビールとの思い出にも、「このビールを飲むと、こんなふうにご機嫌になれるんだ」というちょっとした気の緩みのような、安心感のような感情が滲み出ていて。その人の愛すべき部分を浮き彫りにしてくれている感じがした。

それからは、ビールに関わる人たちみんなの思い出や思いを聞くのが楽しみになっていった。


ビール造りの現場から。プロフェッショナルの声を聞く

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ビールの物語はもちろん、飲む人だけのものじゃない。

講義では、ビール造りのプロフェッショナルをゲストにお呼びし、話を聞くことができた。第二回には、ホップの里と呼ばれる岩手県遠野市にある醸造所と中継をつなぎ、『株式会社Brew Good』『BEER EXPERIENCE社』のメンバーが登場。遠野という街ではビールの原料であるホップがどのように受け入れられてきたのかを語ってくれた。

第三回には、キリンのクラフトビールブランドである「スプリングバレーブルワリー東京」のヘッドブリュワー、古川淳一さんが出演。さまざまな種類がある「ホップ」の特徴とビールの味の違いについて語ってくれた。

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そんなビール造りの現場について沢山の話を聞かせてもらった中でも、忘れられないエピソードがある。

キリンビールは毎年、遠野産のホップを使って造られる『一番搾り とれたてホップ生ビール(通称:とれいち)』という人気商品を発売している。地元・遠野の人々はそのビールの発売を毎年楽しみにしている…と聞いていたけれど、その熱量は予想以上だった。

『BEER EXPERIENCE社』の浅井さん曰く、「あるとき、市役所にご高齢の方から電話がかかってきたらしいんです。それが、『今年の”とれいち”も美味しかったよ』っていう連絡だったそうで。市の方からキリンのほうに『市役所にこんな連絡がありましたよ』なんて教えてくださって」。

なんて愛のあるエピソードなんだろう。地元の方々に「『とれいち』はわが町の誇るビールだ」という思いがあるからこそ、「町に連絡してあげよう。美味しかったことを…」と考えた人がいた。ビールを通して、そんなにお茶目なワンシーンが生まれているだなんて。きっと僕は、『とれいち』が店頭に並ぶ季節になるたびに、友人たちにこの話をする。


ビールの美味しさをもう一歩先に。「注ぎ」に心血注ぐアーティスト

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こだわりを持って造られたビールを、受け止める人もいる。「どう美味しく飲むか」に苦心していくと、「注ぎ方」にまでこだわれると知った。

ビールの注ぎ方から管理方法など、「ビールを美味しく飲む」ための活動を幅広く行う"ビアアーティスト"福島 茶坊主 寿巳さんが登壇した回では、「ビールの注ぎ方、コップの選び方で味が変わる」ことを教えてもらった。

それまで考えたこともなかったビールとの向き合い方の数々。マグカップで黒ビールを飲むと美味しいだなんて、普通に暮らしていて思い至ることはあっただろうか。それらは単なる思いつきではなく、茶坊主さんがビールに向き合ってきた時間と経験、思考の深さに裏打ちされていた。

茶坊主さんの取り組みは、「美味しく造られたビールを、美味しく飲まねば」という使命感のようでもあり、「このやり方だと、こんなに美味くなるんだよ!」と発見に目を輝かせる探求者のようにも感じた。

「ビールには、こういう関わり方もあるんだ」と思えた。ビールの醸造家たちの味と香りへのこだわりを聞いて、まるで人々の舌に新しい体験を提供しようとする"料理人"のようだなと思っていたけれど、注ぎ手もまた料理人のようだった。


沢山の贈り物が、オンライン講義を「体験」に変えた


講義に出るたびに、たくさんの物語をZOOM越しに受け止め続けた。

ただ話を聞いているだけでは、ここまで自分ごととして楽しめなかったかもしれない。

この講義を「体験」に変えてくれたのは、毎月の講義の前に運営サイドから送られてくる4〜6銘柄のビールの数々だった。

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講義の途中、「次はこのビールを飲みましょう」と号令がかかる。その"贈り物"をリアルタイムで開けて飲むことで、メンバーは同じ時間を共有していると感じることができた。

時にサロンメンバー同士で感想を伝えあい、講師の方々による味の表現に納得し、講義を聞きながらこっそりと開いたPCの別タブで、その時飲んでいるビールの取扱店を(どこに行けば買えるんだ…?という思いで)検索した。

ビールが自分たちを繋いでくれた。全てオンラインで行われた講義でも、同じビールを飲むことで「同じ場に居合わせている」と感じることができたんだと思う。


「ビールの前に、人はフラットだった」サロンメンバーとの思い出話


こんな風に「同じ場に集まった」サロンメンバーとの関係性は、不思議なものだった。

遠くは鹿児島、京都、静岡、長野、さまざまな場所に住むメンバーがひと月に一度、休日の昼14時からパソコンの前に集まり、同じビールを開けた。

会ったことはないけど顔見知り、まるで近所に暮らしている人たちのような、馴染みの居酒屋でいつも見かける顔ぶれのような、不思議な距離感だった。

そんな彼らが、この数ヶ月の体験をどう思っていたのか気になる。「キリンビールサロンの振り返り記事を書くから〜」という口実で、ふたりのサロンメンバーと思い出話をさせてもらった。こう言う時に書き手は役得だ。

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「自分自身は、なんとなくビールが好きで飲んでいて、クラフトビールのことも知ってる方かと思っていました。でも、参加者の方々はビール造りの背景やストーリーまで知り尽くして溺愛する人もいて、『ビール好き』と一口に言っても楽しみ方や知識など、いろんなグラデーションがあるんだなって」。

そう語ってくれたのは、京都と東京の二拠点居住をしながらキリンビールサロンに参加した黒田さん。

「でも、誰かを否定する雰囲気みたいなものは全くなくて。とても安心しました。場所にとらわれず参加できる"全オンライン"だったからこそ、会えた人もいると思います。全国から人が参加できたからこそ、グラデーションが生まれたのかもしれません」。

サロンではビールに詳しい人も、そうでない人も対等に話せていたように思う。そこには、「ビールを溺愛する人」たちのやさしいスタンスがあった。

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「この世の中になって、なかなか前みたいに外出して飲み歩くことも、大人数で集まることも難しくなったでしょう。ビール好きの仲間が集まる場所がここにあるんじゃないかなって、思ったんです」。

そう語るやっほ〜さんはベルギービールの世界にハマり、その知識を深めるために多くのイベントや講習会にも参加するほどの生粋のビール好き。そんな彼にも、発見があったそう。

「あるメンバーの方が『ビールってすごい飲み物なんですねえ!』と言われていたんです。その言い方を聞いて、『この方は今はまだあまりビールのことを知らないけれど、これからビールに関わっていく未来があるんだ』ということを感じさせてくれて。それって楽しくってしょうがないなと思ったんです」

知識の量で人を比べないスタンスは、『ビール』を取り巻く世界に共通するものだという。

ビールの世界は本当にフラットだと思うんです。造り手も売り手も、一緒に肩を並べて飲むことができて、最後には『まあ細かいことはいいから!』と乾杯しちゃう。大らかで、『一緒に飲んで楽しもうよ』を一番大事にしているんですよね」

なんて穏やかな解釈なんだろうと思った。ビールの世界に足を踏み入れたばかりの人に、「これから知れるビールが沢山あるなんて!」「うんちくもいいけど乾杯しよう!」と言って祝福できる。

それは、ビール好きの裾野も広がるはずだ。お話を聞いた黒田さんも、サロンを通して行動に変化があったと話していた。

「クラフトビールはここぞというときにお店で飲むもの、と思っていました。でもキリンビールサロンでたくさんのビールを家で飲んでみて、近くで買える場所がないか探してみたら、家から徒歩圏内の酒屋を見つけて。買って帰るようになったんです」

彼女にとって、キリンビールサロンは間違いなく、ビールの楽しみを広げるきっかけになったようだった。


おわりに

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キリンビールサロンを通してたくさんのものと出会った。
知らないビールの銘柄や、初めての飲み方の工夫、お酒の知識や歴史まで…

こんなにもビールを身近に感じることができたのは、講義がどれも「ビールとはこう」と教えるものではなかったからだと思う。講師も生徒も一緒になって、「あなた(自分)にとってビールとは?」というテーマについて考えてきた。

ビールセミナー講師の草野さんをはじめ、キリンの方々や、遠野の醸造所のみなさん、SVBの方々、ビアアーティストの茶坊主さんなど、沢山の方々が高い熱量を持って、サロンをつくってくれた。

役割としての生徒や講師はあったけれど、そこにいたのはただ「ビール好きたち」だった。本当に好きなものを語るからこそ、その熱量は伝播して、メンバーそれぞれに合う形で刺さっていったはずだ。

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今回飲んだ銘柄やビールの名前をいくつ覚えているか?と聞かれると、正直自信がない。でも、ここで出会った「ビールと誰か」の物語はいくつも覚えている。ビールを通して、多くの人々の思い出や考え方、人柄を知った。それらへの愛着は忘れることはないと思う。

やはり、ビールは人と人の間にある飲み物なんだ、と思えた。相手の好きなビールについて知ると、少しだけ相手のことを知ることができるし、その人との間にビールがあれば、もう「一緒にビールを飲んだことのある相手」になってしまう。

透き通った黄金色の向こうに、たくさんの人たちの人生を見た。きっとこれからも新しいビールに出会うたび、その向こうに誰かの過ごしてきた時間を感じることができるだろう。

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たくさんのビールを僕たちの元に届けてくれたキリンビールサロンが、最後に家に送ってくれたのは『ハートランド』のビール。リターナブルびんを使用したこのビールに、再会の約束を込めてくれた。

また会いたいという約束に「ハートランドの瓶を返さなきゃいけないから、会わないといけないですね」なんて口実をつけるのも、何かにつけて酒を飲もうとするビール好きの習性、と言う感じがして愛おしい。

人と人の間にビールがある場所に、また行けることを祈っている。




このキリンビールサロンの感想を記した、名和実咲さんのnoteもぜひ読んでみてください。


そして、きっと誰よりもこのサロンと参加者のことを思い、どんな体験を共有するかを考え続けてきてくれたキリンビールサロン講師・草野さんの振り返りnoteもぜひ読んでみてください。


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