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本当にあった(かもしれない)怪談百物語 6.祖母の形見(後)

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「それはおばあちゃんじゃないよ」
 
 わたしは祖父の言葉に衝撃を受けました。
 
 そもそも祖母が貴金属を集めていたのは、私たちが困った時にお金に変えれるよう、遺産として遺すためだったんだそうです。
 
 だからわたしのしたことは間違いじゃないし、謝る必要も無いとそう言ってくれました。
 
「それに、仮にそうじゃなかったとしても、孫の役に立てたと喜ぶことはあっても、恨みに思って化けて出るような人じゃあないよ、おばあちゃんは」
 
 わたしは、許されたことに安心するよりも前に、怖くて震えてしまいました。
 
 たしかにわたしは、顔を見て祖母であることを確認したわけではありません。勝手にわたしが祖母だと思い込んでいただけです。
 
 じゃああの女性は一体誰なのか。
 
 祖母だと思えばこそ、罪悪感はあっても恐怖はありませんでした。しかしそれが全く知らない女性となると話は別です。
 
 わたしは途端に恐ろしくなり、泣き出してしまいました。
 
 祖父は、一度ちゃんと視てもらった方がいいと言って、どこかに電話をかけました。少し話をして電話を切った祖父は、私を車に乗せ、同じ町内にあるお寺へと連れて行きました。
 
 そこは、祖母の葬儀を行ったお寺です。
 
 私たちが到着すると、待ち構えていたようにお坊さんが一人出迎えてくれました。さっきの祖父の電話はこのお寺にかけていたのだと、そこでようやく理解しました。
 
 出迎えてくれたお坊さんは、それこそ祖母の葬儀でお経をあげてくれた方でしたのでわたしも顔見知りでした。
 
「よろしくお願いします」
 
 お辞儀するわたしに、お坊さんはなんとも言えない表情をしていました。優しそうにも見えたし、憐れんでいるようにも、困っているようにも見えました。
 
 お坊さんの案内で、私たちはお寺の本堂ではなく、離れのような場所に連れて行かれました。その方はそのお寺の住職さんで、そこは住職さんがご家族と住まれているご自宅とのことでした。
 
 てっきりお祓いのようなことをするのかと思っていたのに、実際に通されたのは普通の客間でした。
 
「あらましは聞いています。まずは視てみますので、手を出して、心を落ち着けてください」
 
 対面に座った住職さんに言われるまま、私は手を差し出しました。住職さんはその手に触れるか触れないかの位置で、自分の手の平をかざし目を閉じました。
 
 実際には触られていないのに、なにかに包み込まれているような、そんな不思議な感覚でした。
 
「なるほど。ご安心ください。思ってらっしゃるほど深刻な事態では無いようです」
 
 目を開けた住職さんは、にこりと微笑んでそう言いました。
 
「おばあさまの遺品を手放したとのことでしたが、なにか残しているものはございませんか?」
 
 売らずに残している遺品がいくつかあることを告げると、その中に原因のものがあるが、どれなのかは実際に見てみないとわからない、と言われました。
 
 わたしはすぐに祖父の車で自宅に向かい、クローゼットにしまったままにしていた祖母の遺品を全て住職さんの元に持って行きました。
 
 テーブルに並べた遺品を眺めた住職さんは、その中の一つを取り上げ、私たちに見せました。
 
 それは白い石を繋げて作られたブレスレットでした。
 
 よく雑誌の最後にパワーストーンのブレスレットの広告がありますよね。あんな感じのやつです。
 
「これです。その女性はこれを探していたんですよ」
 
 言われてみれば、その女性が這いまわっていたのは、遺品をしまっていたクローゼットの付近でした。
 
 しかしわたしが実際にそれを遺品として譲り受けたのは一年近く前のことです。なぜ今になって?と疑問に思い、住職さんに尋ねたところ、
 
「もしかしてこれを腕にはめませんでしたか?それで女性とあなたの間につながりができて、見つかってしまったのでしょう」
 
 そうおっしゃいました。
 
 たしかに質店から持ち帰った後、試しに一通り全て身につけてみました。その時にブレスレットをはめた記憶があります。
 
「これで大丈夫。今夜からはわたしのところに現れるでしょう」
 
 住職さんはブレスレットを腕にはめて見せて、笑っていました。実際に体験したわたしとしては全然笑えませんでしたが。
 
 そのままブレスレットは住職さんに渡して、供養して頂くことになりました。
 
 女性がなぜそのブレスレットを探しているのか、それをなぜ祖母が持っていたのか、その辺りは住職さんにもわからないし、祖父にも思い当たることは無いそうです。
 
 住職さんの言葉通り、それ以降、あの女性わたしの元に現れていません。
 

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