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「計算は、世界を救う」遊ぶだけで自然と数学の力が身に付くトランプゲーム「計算ブリッジ」について【完結編】

「算数好き?嫌い?」

 2017年。学研教育総合研究所さんが、小学生1200人を対象に「好きな科目」と「嫌いな科目」についてのアンケートを取りました。そうしたところ「好きな科目」と「嫌いな科目」の両方の1位になったのが「算数」であり、この現象は4年連続で続いているということでした。

 この結果を、どういう風にとらえますか?

 単純に「算数ができる子はテストでいい点数が取れるから1番好き」で、「算数ができない子はほとんど点数を取ることができないから1番嫌い」と、好き嫌いがハッキリ分かれる科目だから、という理由がすぐ思い浮かびます。言い換えると「他の科目に比べて100点も0点も取りうる科目だから、好き嫌いの度合いがハッキリ分かれやすい」とも言えるでしょう。

 確かに算数はそういう側面があると思います。計算ができる子はいい点数が取れるし、計算ができない子はどうやって頑張って考えても、ポイントがずれているので全く点数を取ることができない。だから嫌いになる、という事実はあるでしょう。

 ただ、僕はこの結果を見て、こうも思うわけです。

「算数とは、ちょっとしたことで、すぐ好きにも嫌いにもなる科目である」

と。

 算数が好きな子は、1年生から6年生までずっと好きであり続けるのでしょうか?また嫌いな子も6年間ずっと嫌いなままでしょうか。話はそう単純じゃないと思います。「分数の計算」から算数が嫌いになった子もいますし、「文章題が全く分からない」から苦手になったという子もいます。逆に、ある瞬間で計算する方法が理解できたとき、そこから問題が面白いように解けるようになって好きになった子もいるでしょう。その時々で、ちょっとしたきっかけで、好きにも嫌いにも触れてしまうとてもナイーブな科目なんだと思います。

 皆さんは、「算数」と「数学」は、いったい何が違うと思いますか?単純に呼び名が違うだけと思っている人もいるかもしれませんが、算数と数学は明確にその目的が違っています。

 算数とは「算+数」で、算とは「計算」のことです。つまり小学校時代に習う「算数」というのは「日常生活において正しく【計算】することができるようになるための勉強」であり、数学とは「数+学」で、学とは「学問」のことです。つまり「数学」というのは「数にまつわる理論的な事象を【学問】していくための勉強」です。このように、算数と数学では、その目指すべき目標が違うのですね。

 小学校時代の算数で、数に対して苦手意識を持ってしまうと、そのまま中学校の「数学」に入っても嫌いであり続ける可能性は高いかもしれません。であるならば、なるべく長い時間で算数を「好き」で居続けてもらうためには、小学生時代は「計算する能力が高まっていること」を最優先にして目指すべきではないかなと感じます。


算数や数学する「目的」を作ろう

 小学校に留まらず、中学校でも高校でも「どうして算数や数学をやる必要があるの?」という問いは起こりえます。実際に、数学が嫌いだったり苦手だったりする子が、特にこのような問いを先生に投げかけることが多いようにも思います。

 さて、皆さんはこういう質問が来た時に、どのように答えますか?

 「いずれ将来の役に立つから、今はそういうことは疑問に思わずに勉強しなさい!」

 少し前の時代では、このように答えていた先生も結構多かったかもしれません。確かにその通りではあるのですが、実際に算数や数学が自分の人生の中で役に立っているという実感が持てない時に、このように言われても生徒たちはなかなか納得しないかもしれませんね。

 「受験で必要なのだから勉強しなければならないのです!」

 確かにこれもその通りと言えばその通りです。最近では、理系志望の生徒については医学部を目指す人数が増えてきています。医学部に合格するためには数学を鍛えなければいけないというのは確かに理に適っていますし、納得しやすい理由ではあるのですが、少し打算的な言われ方のような気もしてしまいます。こう言われると「本当は勉強したくないけれど、仕方ないからやるしかない」という気持ちが沸き起こってしまいそうです。

 「実は、算数や数学の力は生活のありとあらゆる部分で使われているので、逆に数学の力無しでは現代の生活は全く立ちいかなくなります。特にコンピューティングやAIの研究に興味ある人は数学の能力は必須のものだから勉強しましょう!」

 今はこのような説明が多いのではないでしょうか。もちろんこれも大正解。まったく反論の余地のない意見だと思います。情報化社会の現代において、数学の論理体系が全てのベースになっているということは言うまでもないことでしょう。生徒の中にはこの話で数学の必要性を感じ、そこから数学に目覚めるという人も多いかもしれません。

それでも、と、僕は思うのです。

 どれも正しい指摘なのですが、果たして子供たちの「心に届く」理由になるでしょうか?論理的に理解はできるかもしれませんが、ではそれが子供たちの中で算数や数学を学ぶための「目的」になるでしょうか?

 自分の子供時代のことを思い返してみます。子供の時代は、何か行動を起こす時の目的は、もっと単純で直情的な理由が大半だった様な気がします。「楽しいから」「面白いから」「友達に負けたくないから」「大会で優勝したいから」などなど・・・。そういうシンプルな理由を与えてあげることができたら、もっともっと算数や数学を「やりたい!」と思えるようになるんじゃないかなと、僕は思うのです。

 そこで、この計算ブリッジです。

 元々は「計算の練習が楽しくできるようになったらいいな」という想いで、誰もが知っているトランプを使ったゲームを作りました。しかし、このゲームをやればやるほど、「単なる計算練習のためのゲーム」という側面ではなく、「ゲーム自体がとても面白く、大人も子供も真剣勝負できて、思わずハマってしまう」ということに気づくようになりました。次は、計算ブリッジの特長についてお話させていただきます。


●計算ブリッジの特長①

「ルールは幼稚園生でも、おじいちゃんおばあちゃんでも、1回やったらすぐに理解できる」

 これから何回かに分けて計算ブリッジのことについて説明させて頂きます。まずは、この「計算ブリッジ」という名前の説明からいたしましょう。

 「計算ブリッジ」とは、読んで字のごとく「計算」と「ブリッジ」の2つの組み合わせによってできています。「計算」は足し算、引き算、かけ算、割り算の四則演算を使って数を「計算」するところに由来しています。もう1つの「ブリッジ」ですが、これはイギリスの伝統的なトランプゲームである「ブリッジ」のルールを元に作ったのでブリッジと名付けました。一般的に、「ブリッジ」というと「コントラクト・ブリッジ」というゲームを指すのですが、「計算ブリッジ」のベースになったのは「セブン・ブリッジ」というトランプゲームのルールを元にして作りました。

 ルールはとてもシンプルです。

1:1人7枚ずつ配り、残ったカードはテーブルの真ん中に「山札」として置いておく。

2:山札から1枚めくって「場のカード」を決定し、プレイヤーはその場のカードの数になるように手札を「計算」しながら出す(Aは1、Jは11、Qは12、Kは13とする)。

3:1回に出せる手札は3枚まで。1枚でも2枚でも出せる。例えば、場のカードが「7」だったら、手札に「7」があったらそれを1枚で出せる。手札に「9」と「2」があったら「9引く2」と言いながら出すことで「9」と「2」の2枚出せる。手札に「J」と「4」と「A」があったら「J(11)引く、4かけるA(1)」と言いながら出すことで「J」と「4」と「A」の3枚出せる。(手札は自分の目の前に出す)

4:手札をどうやって計算しても場のカードの値にならない場合は、山札から1枚取って終了する。(1枚引いて計算ができるようになったとしても、その時は手札を出せない)

5:手札を出す、もしくはカードを引くということを時計回りでプレイヤー全員が行ったら、山札から1枚めくって新しい場のカードとし、次はその新しい値になるようにまた手札を計算して出していく。

6:1番早く手札が無くなった人の勝ち。(負けた人は、残った手札の値を計算したものが「ペナルティポイント」となる。例えば「3」「8」「K」が残ったら、その人のペナルティポイントは3+8+K(13)=24となる。)上がった人はペナルティポイントは0となります。

7:ゲームを5回繰り返して(これを1セットと呼びます)、ペナルティポイントの合計が1番少なかった人が勝利となります(1回のゲームで勝敗を決めてもいいです)。

 細かい決め事はもう少しあるのですが、基本ルールはこれだけです。

 文章で書くと難しく思うかもしれませんが、1回ゲームをしたら幼稚園生でもルールを理解することはできます(幼稚園生の子供に教える時には、足し算と引き算だけを使ってゲームをしたらいいでしょう)。そして、おじいちゃんやおばあちゃんでも、このゲームを楽しむことができます。ということは、幼稚園生とおじいちゃんおばあちゃんが一緒に同じゲームをすることができるのです。5歳から105歳の人が一緒に遊べるゲームだと、僕は考えています!

 ルールはたったこれだけですが、なかなか奥が深く、何度やっても新たな発見のあるゲームなのです!


●計算ブリッジの特長②

「勝つためには『計算力』×『戦略』×『運』が必要!」

 計算ブリッジのルールはとても簡単なのですが、このゲームに勝とうとすると、意外と色んな事を考えながらゲームをしなければいけないということに気づきます。このゲームに勝つために必要なものとしては、大きく3つに分けることができると思います。

1:計算力

 名前が「計算ブリッジ」であるので、手札を上手く使って「計算」することが求められます。幼稚園生や小学校の低学年の子にとっては足し算と引き算しかできないことが多いと思うので、計算する手段が限られてしまいますが、かけ算や割り算を導入することで、より幅広い計算をすることができるのです。「ゲームに勝つために、かけ算や割り算という『新たな武器』を手に入れる!」という考え方ができるので、子供たちにとってはとても大きな「学ぶ理由」が生まれます。

2:戦略

 このゲームは「最初に手札が無くなった人の勝ち」というルールです。なので「どうやったら1番早く手札を無くすことができるか?」という考え方が自然と生まれます。この「自然と生まれる」というのが、実はポイントなのですが、その件についてはまた今度詳しくお話致しましょう。このゲームをやり始めた子供たちは、おそらく最初は計算ができたらすぐにそのカードをポンポンと出すことが多く、使いにくい手札が手元に残ってしまい、なかなか上がることができません。逆に、このゲームの本質をちょっとコツをつかんだ子は上手くカードが出せるようになるので、連続して勝てるようになります。「どのカードを出せるか?」という考え方から「どのカードを残すか?」という考え方に移っていくと、「考える力」が養われてくると思います。

3:運

 トランプゲームは、囲碁や将棋と違って「次にどのカードが出るか?」という「運」の要素が含まれます。なので、どんなに計算力が優れていて、どんなに賢い戦略をとったとしても、「運」のある人にはかないません。これも「計算ブリッジ」というゲームの大きな魅力だと思っています。やりこめばやりこむほど実力が上がり、強い人が必ず勝つようなゲームも大切だと思いますが、誰でも楽しめて、誰でも勝つ可能性のあるゲームという要素も、「計算」という世界中の人たちが共通にできることを使って楽しむゲームには必要な要素じゃないかなと思っています。ゲーム会をたくさんやっていく中で感じるのですが、どれだけ本気で大人がプレイしたとしても、大抵は子供が勝ってしまうという事実があることも、また面白いなぁと感じています。


●計算ブリッジの特長③

「追加ルールを導入しやすい」

 今は鹿児島県を中心として、計算ブリッジのゲーム会を各地で開催しています。大会ルールは前の記事で書いたルールで行っているのですが、もう少し戦略性を高めたり駆け引きを楽しんだりしたいという人たちが、新しい追加ルールを作り出してくれています。その中のルールをいくつかご紹介致します。

1:stay(ステイ)ルール

 このルールではジョーカーを使います。まず7枚ずつ手札を配り終え、最初に手札を出す人が決まったら、時計回りで1番最後に手札を出す人がジョーカーを持ちます。このゲームの特性上、1番最初に手札を出せる人が有利になるので、そのバランスを補正するためのルールでもあります。

 ジョーカーを持っている人は、場のカードが決まったあとに、ジョーカーを使うかどうかを選択することができます。ジョーカーを誰かに使う際には「ステイ」と言いながらそのジョーカーをその人に渡します。ジョーカーを渡された人は、そのターンは手札を出すことができなくなります。また、仮に場のカードの値になるように手札が計算できなかったとしても、山札から1枚カードを引くことも無くなります。場のカードが開き、その数が出せそうな人がいたら、このstayルールは威力を発揮します。そのターンが終わったら、次はジョーカーを渡された人が誰にstayルールを利用することができます。

2:open(オープン)ルール

 1セット5ゲームの中で、各プレイヤーは1回だけ「open」と宣言して自分の手札を全員に見せることができます。openを宣言した人は自分の手札を他のプレイヤーに見せながらプレイすることになります。もしopenを宣言した人が上がることができたら、他のプレイヤーのペナルティポイントの合計分だけ、今までの自分のペナルティポイントを減らすことができます。

 通常ルールでは、ペナルティポイントを減らすということはできないのですが、openルールを使って上がることによってペナルティポイントを減らすことができるので、一発逆転の可能性が出てくるルールになります。

3:two cards draw(2枚引く)ルール

 各プレイヤーが自分の手札を出すときに、同じカードを2枚使って出すことがあります(例えば「3」足す「3」で6として出すなど)。その時は、誰か他のプレイヤー1人に山札から2枚カードを引かせることができます。こうして他のプレイヤーのカードの枚数を増やすことによって上がりにくくさせ、またペナルティポイントを大きくするという戦略を取ることができます。

4:four cards draw(4枚引く)ルール

 two cards draw(2枚引く)ルールと似ているのですが、これは同じカードを3枚使って出したとき(例えば「3」かける「3」引く「3」で6として出すなど)に、誰か他のプレイヤー1人に山札から4枚カードを引かせるか、他のプレイヤー2人に2枚ずつ引かせるかを選択することができます。同じカードを3枚使って出すことはとても珍しいので、その分攻撃されたプレイヤーは大きな負担を強いられることになります。

 その他にも、まだまだ細かい追加ルールも考えることはできると思います。このように、拡張性が高いというのもこのゲームの懐の広さかなと思っています。数学の内容で考えると、例えば中学生であれば「ルート記号を使って計算してもいい」というルールを加えてもいいし、高校生であれば「指数」や「対数」を使って計算してもいいというルールも考えられます。面白いルールをどんどん追加して、「計算ブリッジ」のオリジナルルールで遊んでもらいたいなと思います。


●計算ブリッジの特長④

「世界中で、すぐに一緒に楽しむことができる」

 以前、鹿児島市にある鹿児島ユナイテッドFCオフィシャルカフェの「ユナイテッドカフェ」さんで計算ブリッジのゲーム会を開催したことがありました。そこで、香港出身で鹿児島ユナイテッドFCのサポーターだった男性の方が参加されました。その方は英語しか話すことができませんでしたが、足し算は「add」、引き算は「minus」、かけ算は「times」、そして割り算は「divide」という英単語だということを皆で確認したら、すぐにルールを理解することができ、そして一緒になって遊ぶことができました。

 この香港の男性はとても陽気な方で、上手くゲームでは勝つことができませんでしたが、それでもたくさん僕たちを楽しませてくれました。計算ブリッジを通じた交流も生まれて、とても楽しい時間を過ごすことができました。

 トランプ(プレイングカード)は世界共通のカードゲームですし、計算だって世界共通のものです。ルールもシンプルなので、こうやってすぐに世界中のどの国の人たちとも一緒になってゲームを楽しむことができる。例え言葉が通じなくてあまり意思疎通が取れなかったとしても、同じゲームを楽しむことができるというのは、なかなか他のゲームにはない「計算ブリッジ」の良い所なのではないかなと思います。

 日本にいるとあまり感じることが多くないのですが、東南アジアの国々では、トランプゲームは日本よりももっと馴染みの深いゲームです。恐らくそれは、歴史的にヨーロッパ諸国の植民地時代を過ごしたことがあるということが関係していると思います。「ブリッジ」の大本である「コントラクト・ブリッジ」の競技人口が多く、2018年、インドネシアのジャカルタで開催されたのアジア大会で初めて「ブリッジ」が正式種目として採用されたことからも、東南アジアでのトランプゲームの人気を感じさせてくれます。

 「国際交流」という言葉を使われて久しくなりましたが、国籍も、人種も、宗教も関係なく、大人も子供も純粋に楽しめるトランプゲームを通じて親交を深めていくというのもいいのではないでしょうか。


●計算ブリッジの特長⑤

「『体験』から入って、『理論』を後から肉付けてしていく」

 今までいくつか挙げてきた計算ブリッジの特長のなかで、僕が声を大にして1番強調したいポイントは、今回お話しする内容かもしれません。それは

 「『体験』から入って、『理論』を後から肉付けしていく」

 という内容です。

 具体的にご説明します。まず、前にも書きましたが「どうして算数/数学を学ばなければならないの?」という質問が出てくるという話の中で、先生や指導者の方たちは「論理的に」その理由を説明しようとされると思います。もちろん「論理的に」話をすることが決して悪い事では無いと思うのですが、このやり方だと、どうしても生徒たちは「説得された」という印象を持ってしまうのではないかなと思います。もっと「楽しい!」「面白い!」「相手に勝ちたい!」「優勝したい!」という目的を刺激してあげることが、より算数/数学を学ぶ理由になるんじゃないかな?と考えています。

 その中で、「体験から先に入る」ということが、計算ブリッジでは可能であるということを声を大にして強調したいと思っています。例えば、小学校低学年の子供たちは、まだかけ算や割り算を習っていません。なので、計算ブリッジを楽しむ場合は足し算と引き算のみでプレイすることになります。ただ、この時でも、小学校低学年の子供たちにこのように話をすることはできるのではないでしょうか?

 「『かけ算』っていう計算ブリッジでとっても有利になる武器があるよ」

と。

 足し算引き算だけよりもかけ算や割り算が使えた方が、明らかにカードの出し方のバリエーションが増えるので、「計算ブリッジで勝ちたい!」と思った子は、かけ算や割り算のことを「ゲームに勝つための新しい武器」という認識が生まれると思います。そうすると、「どうしてかけ算(九九)を学ばなければいけないの?」という質問が出にくくなるのではないでしょうか。

 「小学〇年生だから、九九を覚えないといけない」ではなく、「計算ブリッジで勝つための新しい武器として九九をマスターする」という言い方へと変えることができるわけです。

 また、「相手に勝ちたい!」とか「大会で優勝したい!」という気持ちは単純で直情的なので、そのために学んだことというのはとても強く自分の中に残ると思います。そうやって、学校ではまだ教わらない内容でも、計算ブリッジで遊んでいくことによって、先の分野を「体験」していくことが可能になるのです。その後、学校の授業でその「理論」を学んでいくと、先に体験から入っているので、その理論も定着しやすくなるのではないかなと思います。

 それ以外の分野でも、「体験」から入って「理論」を後から肉付けできることはあります。例えば、計算ブリッジの中で「7」とか「J(11)」というカードはとても使いにくいカードだということが分かってくると思います。その理由は、「7」や「J(11)」は、かけ算や割り算が使えない値だからです。その「使いにくいという体験」を先に味わっておいてから、「約数」「倍数」の話に繋げていくと、子供たちにとっては、内容がとても分かりやすくなるのではないでしょうか。またここから「素数」の話にも広げていくこともできるでしょう。こうやって、ゲームを通じて「体験」として数の特性に触れておいて、その後から理由を「理論」で肉付けしていく。そうすることで数の特性を「体験」と「理論」という両輪で回して身に付けていくことが可能になってくると思います。


「楽しい」は、全てにおいて優先される

 算数や数学は、正解と不正解がハッキリ分かれる科目です。正しく正解が出せる子は、同じような問題が出てきても正解が得られるので、きっと「好きな科目」になると思います。しかしどうやっても正解が出せない、もしくは、正解を出すためのルールを理解していない子にとっては、算数や数学は考えても考えても「どうしてこの答えになるのか?」が分からないので、とても苦痛な時間になるでしょう。そのため「嫌いな科目」になってしまうのではないでしょうか。

 さらに、算数や数学は「どこかで理解するのを止めてしまうと、途中で再スタートしても効果が上がらない」科目だということも「算数/数学嫌い」の子供たちを増やしてしまう原因になってしまっていると思います。

 これほど理解するのに労力が必要で、しかも1か所でも考え違いや計算ミスをしてしまうと途端に正解にたどり着けなくなってしまう科目が算数であり数学なのです。

 だからこそ、「楽しい」を全てにおいて優先させることが大事なんだと思っています。

 「計算ブリッジ」は、計算ミスしても笑ってその計算を修正することができます。時に、計算ミスするとペナルティで2枚カードを引かなければならないこともありますが(公式ルールはそういうルールになっています)、そのペナルティを受け入れることで、「ミスをした」とか「不正解の答えを出した」という事実を帳消しにすることができます。そうやって、周りの子たちと「楽しみながら」自分の計算方法や考え方を修正することができるのが、この「計算ブリッジ」の特長です。

 前に書いたストーリーの中で「自然とそういう考え方が生まれてくる」ということを書きました。ここも大切なポイントだと思っています。このゲームに勝つための戦略を考えようとすると、実はそれが論理的に出来上がっていくということが分かると思います。

 「どうして九九を覚えなきゃいけないの?」

 「どうして割り算を覚えなきゃいけないの?」

 「どうして倍数とか約数とかの性質を知らなきゃいけないの?」

 学校ではカリキュラムがありますので、「教えることが有りき」でこれらの理由を「説明」して、子供たちに理解させて、先に進めようとします。その流れに乗ることのできる子供はいいのですが、もしその疑問に引っかかってしまった子は、その先に進んでいくことが難しくなってしまうかもしれません。

 「楽しい」から「負けてくやしい!」「次は勝ちたい!」「勝ったら嬉しい!」という直情的な気持ちを優しく支えてあげることで、自然と勝負に勝つための思考は論理的になってくるし、またその説明もしっくり理解できるものになるのだと思います。

 まずは、算数や数学を「楽しみ」ましょう。論理は、その後からでいいのです。

 ここまでこのシリーズを読んで頂きありがとうございました。ご意見やご感想など、もしお聞かせ頂けたらとても嬉しいです。「計算ブリッジ」が、1人でも多くの算数/数学好きの子を増やすことができることを、そして1人でも多く算数/数学嫌いの子を減らすことができることを心から願っています。


そして!これから「計算ブリッジ」を世界に発信していくための活動を行って参ります!もしご興味ある方は是非ともご一報頂けたらと思います。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。


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