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【ブルーノ・ペルナーダス】「ポルトガルのスフィアン・スティーブンス」5年ぶりの新作をリリース!

6/20発刊号intoxicateにてジャズ・ギタリスト、ブルーノ・ペルナーダスに取材しました。本誌には収まらなかったロングヴァージョンのインタヴュー記事をnote限定公開いたします!

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©DIANA MENDES

「ポルトガルのスフィアン・スティーブンス」5年ぶりの新作をリリース!

interview&text:佐藤英輔

大学ではジャズを学んだギタリストであり、優れたソングライターでもある才人はなんとも甘美な玉手箱のようなポップ・アルバムを作ってしまい、一方では流麗にストリングスを使った映画音楽もお手の物。そんなまさにマルチにしてしなやかな歌心を満載するポルトガル人クリエイターが、ブルーノ・ペルナーダスである。2021年作『Private Reasons』は、かような彼のポップ・アルバム。往年のJポップの大ファンでもあるペルナーダスに、オリジナル作としては5年ぶりとなる新作の意図やその近況を聞いてみた。(翻訳:山口詩織)

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——Covid-19が蔓延して1年以上経ちますが、現在のポルトガルやリスボンの様子はいかがでしょうか(取材は5月初旬になされた)。
「緊急事態宣言も明けて、リスボンは日常を取り戻しつつある。みんな街に出て、カフェやレストランで食事をしたりできるようになってきたし、バーやクラブも時間短縮や椅子席のみでの営業など、まだ制約はあるけど、営業を再開し始めた。コンサートやフェスティバルも椅子席のみではあるけど、開催できるようになった。そして、ワクチン接種も高齢者の1回目接種がほぼ終わって、2回目の接種を開始しつつ、中高年への接種案内も始まっている。うん、明るい兆しが見えてきているよ。僕のコンサートも一度は延期になったけど、今回は無事開催できそう(リスボンでの『Private Reasons』お披露目コンサートは5月21〜22日の2公演で、どちらもソールドアウト)」

——『Private Reasons』のレコーディングは昨年の6月から8月にかけて行われたようですね。まさに日々の活動の制限がなされるなかのレコーディングであったと推測されますが?
「そうだね。レコーディングは1度目のロックダウン解除の2週間後に始めた。大勢の人と同じ部屋にいたくないというメンバーもいて、その分は別に録音したりした。とはいえ、事前に検査を受けてみんな陰性で安心してレコーディング入りできたし、リラックスした雰囲気で進めることができたよ」

——レコーディングのことをもう少し教えてください。
「レコーディングは4箇所で行った。(所属するレーベルの)パタカの15Aスタジオ、ドラムとパーカッションはドラマーのジョアン・コレイアの家のガレージ、そして僕のホーム・スタジオ。あとは、リスボンにある別のスタジオでピアノとストリングスを録音した。そこのピアノをどうしても使いたかったからね。その後、ミキシングやマスタリングなどの後工程は9月〜11月頃に行ったんだ」

——曲はどれもあなたが書いていますよね。ここのところに書かれた曲なのでしょうか?
「そうでもないね。書き始めたのは2019年だから。2020年1月〜2月にはほとんど書き上げていて、そこからレコーディングを始めようと思ったらロックダウンが始まってしまった。その間は書き上げた曲のディテールやアレンジメントを変えたりしていたよ」

——曲順もかなり練られていると思います。アルバムとして大きなテーマはあったのでしょうか?
「インストゥルメンタル作品ではなく、曲そのものや、歌や、ソングライティングの作法にフォーカスした作品にしたかった、というのがまずある。そして、テーマを挙げるとすれば、収録されたすべての曲には、そこに存在する“プライベート・リーズンズ”がある、ということかな。たとえば、「Family Vows」は家族についての曲だね。家族の一員として責任を持つこと、と言っても、形式張った意味ではなく、感情的/心理的に、家族の一員であることについての歌なんだ」

——おっしゃったように、『Private Reasons』はあなたの『How Can Be Joyful In A World Full Of Knowledge』(2014年)と『Those Who Throw Objects At The Crocodiles Will Be Asked Retrieve Them』(2016年)の流れを汲むポップ・アルバムです。新たにこうしたいなと意図したところはありましたか。
「今までとまったく異なるものを作るのではなく、ポップ・ミュージックのアプローチは続ける、というのがまず念頭にあった。メロディや、まずヴァースがあって、次にコーラスがあって……というポップ的な曲構造を持つ音楽で構成されたアルバムにしよう、というのがゴールだったね」

——エヴァーグリーンなポップネスを抱えつつ、ヴォーカルや楽器の音色にも凝り、新作はよりコンテンポラリーになったようにも思います。
「そうだね。このアルバムが完成した後、ある友人に聞かせたら、彼は「この作品は、『How Can Be Joyful In A World Full Of Knowledge』と『Those Who Throw Objects At The Crocodiles Will Be Asked Retrieve Them』両方の要素を持ち合わせている、ポップ三部作の最終章みたいだね」と言ったんだよね。制作中、そういう考えに基づいてアルバムを作っていたわけではなかったけれど、改めて考えてみて、今は彼の視点に同意しているよ」

——<蜃気楼のような音楽>とも形容したくなります。メロディアスで親しみやすいのに、もう一歩入り込んで吟味するとすごい知識や技が効いており、とても遠くで輝いているような表現にも思えてしまうからです。
「それに、特に何も付け足すことはないよ! 君の言うことに同意できるね」

——ポルトガル本国を超えたインターナショナルな受け手とか、聞き手の年齢層であるとか、アルバムの聞き手については設定しましたか?
「いや、そういうことはしないね。ただ、過去の作品以上に、この作品が今までにはなかった層や地域の人たちにも届いている、と感じ始めているよ」

——この新作は、ソニー・ミュージックが配給をしているようですが。
「その通り」

——収録曲は英語で歌われている曲が中心となっていますが、「Lafeta Uti」は何語で歌われているのでしょうか。「Jory1」や「Jory 2」は韓国語でしょうか。複数の言語を用いた理由を教えてください。
「「Lafeta Uti」は僕の創作言語で、「Jory1」と「Jory2」は韓国語だね。今回複数の言語を使用した理由は、声とメロディに対して、今までと異なるアプローチを試してみたかったからなんだ。「Lafeta Uti」は当初ブラジルのポルトガル語で歌う想定だったけれど、しっくり来なくて、結局創作言語版のほうを採用した。本当はポルトガル語やドイツ語も使いたかったのだけど、残念ながら最終的にアルバムには収録しなかった。もっとも、「Fuzzy Soul」にはドイツ語の科学的スピーチが入ってるけどね」

——たくさんの人たちがレコーディングに入っています。過去のアルバムに参加している人も見受けられますが、どいういう方々が参加しているのでしょう?
「ジャズ・シーンで長年一緒に仕事をしてきたジャズ・ミュージシャン達にも、この作品に参加してもらっている。このアルバムでダブル・ベースを弾いているペドロ・ピントや、ヴァイブラフォンのパウロ・サントの2人は古くからの知り合いで、長いこと様々なプロジェクトで共演してきた。ジョアン・ピント・コエーリョは本当に素晴らしい、若く才能溢れるジャズピアニストなんだ。「Step Out Of The Light」のピアノは一聴すると自然で簡単そうに聴こえるけれど、実際は弾くのがすごく難しいんだ。ライヴ演奏するのはほぼ不可能なんじゃないか、ってくらい。でも、彼は見事にやり切ってくれた。そして、ストリングスのメンバーは、僕が映画音楽制作時に演奏を依頼している、クラシックのミュージシャン達だね。今回、僕のソロ作品に参加してもらいたくて声をかけた。過去作から参加しているメンバーに関しては詳しく説明しないけど、この作品に関わるミュージシャンは、それぞれジャズか、クラシックか、オルタナティヴ・ロックのバックグラウンドを持っているミュージシャンたち、と言えるだろうね」

——あなたが関与したサウンドトラック『Patrick』がソニー・ミュージックから昨年出ていますよね。それは、ストリングス音が横溢するクラシックの素養が活きたものになっており、あなたのもう一つの才能を知らせてくれます。『Patrick』はあなたにとって、何作目の映画音楽になるのでしょうか? 
「映画音楽というカテゴリでは、『Patrick』は6作目になるのかな。過去にも、ドキュメンタリー映画の音楽や、コメディ映画の音楽も手がけてきた。それ以外に映像作品への音楽提供や劇伴、シネマ・コンサート向けの音楽なんかも含めると、かなりたくさん作ってきたね」

——そして、『Private Reasons』にはそれを引き継ぐような弦楽四重奏やブラス音もとても効果的に使われてる曲があり耳をひきます。
「『Patrick』をはじめ、映画音楽や劇伴やシネマ・コンサート用の音楽を作る際には、クラシックのカルテットやオーケストラと仕事をしてきた。だから、今回、自分のレコードにもそういった要素を少し取り入れたいと思ったのさ」

——秀でたジャズ・ギタリストとしての姿を出すインストゥメンタルの『Worst Summer Ever』(2016年)もぼくは好きなんですが、またジャズのアルバムをまた出す予定はあったりはしますか?
「ジャズ・トリオで演奏するのはとても楽しくて好きだね。“3”という人数の色が混ざり合う時の感触は本当に魅力的だ。コミュニケーションはスムーズに進むし。ただ、パフォーマンスとしてはいいけど、ジャズ・ギタリストとしての録音作品を発表することに対して、現時点ではそこまで乗り気でないかな」

——ところで、変わらず日本のポップ・ミュージックは探求していますか。ここのところ、新しい発見はありましたでしょうか?
「うん。日本に行った時に買った榊原郁恵の『スロー・メモリー』と尾崎亜美の『リトル・ファンタジー』、この2枚はいまだに大好き。あとは、民謡クルセイダーズとか。最近インターネットで見つけたのは、Open Reel Emsambleだ」

———もし、そうした日本の音楽があなたの表現に影響を与えているとすれば、どういうところでしょう?
「Open Reel Emsambleに関していうと、彼らの曲の構造は西洋的で、日本の伝統的な音楽っぽくはないけれど、メロディやシンセサイザーの使い方がユニークだよね。そして、うまく表現できないんだけど、潜在的な日本っぽさを持つ音楽や、日本の80年代のポップに対する、日本国外からの注目は高まってきているように思う。この間も、昼過ぎ13時ごろに車を運転していてラジオをつけたら、80年代のJ-ポップが流れてたんだよね。この時間はプライム・タイムで普段はわりとポルトガルの音楽がかかってるから、ちょっと驚いたよ」

——今後のこともお聞きします。どんなことをしたかったり、実際予定されているのでしょうか?
「リスボンで(延期になっていた)『Private Reasons』お披露目コンサートを開催し、その後ポルトガル国内の他の都市でもコンサートを行う予定だね。あとは、Netflixのポルトガル初制作の長編ドラマの音楽を作ったんだ。もう曲は完成していて、あとは放送されるのを待つだけ。そして、今年度末ごろに、<アマチュアのミュージシャンも含むアンサンブルが、自分たちのオリジナル楽曲を制作し、最終的にコンサートで発表する>という中長期的な音楽ワークショップにメンターとして参加する予定だね。自分の次のアルバムのことは、来年以降考えるつもりだけど、ジャズ的な方向性の作品にしたいな」

——最近のポルトガルのポップ・ミュージックやジャズで、あなたが勧めるにたるものがあれば教えてください。
「ポップなら、マリア・レイス(Maria Reis)が今年リリースした『A Flor Da Urtiga』がいいね。ジャズだったら、ジョアン・モルタグア(João Mortágua)の『Axes』。彼は『Worst Summer Ever』でアルト・サックスを演奏しているジャズ・ミュージシャンで、彼のこの作品をぜひ勧めたい。ちなみに彼の妹も、僕の『How Can Be Joyful In A World Full Of Knowledge』と『Those Who Throw Objects At The Crocodiles Will Be Asked Retrieve Them』にフルートで参加してくれているよ。うん、ポップで1枚、ジャズで1枚ならこれかな」

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『PRIVATE REASONS』〈輸入盤〉
BURUNO PERNADAS
[PATACA DISCOS DP00121CD(CD)] 6/16発売
[PATACA DISCOS DP00121LP(LP)] 7月上旬入荷予定


【掲載号】

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2021.6.20号


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