【翻訳】ヴェジェイ・アイヤー・トリオ、《Uneasy》4/9 ECMからの発売を発表。
ヴェジェイ・アイヤー・トリオが、4/9 にECMから《Uneasy》を発売すると発表しました。
https://vijay-iyer.com/uneasy/
こちらの翻訳記事をnote限定で公開いたします。
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Linda May Han Oh, Vijay Iyer, Tyshawn Sorey ©Craig Marsden / ECM Records
ヴェジェイ・アイヤー・トリオ、《Uneasy》4/9 ECMからの発売を発表。
翻訳:高見一樹
テイショーン・ソレィ、リンダ・メイ・ハン・オーとによる《Uneasy》は、ECMでのヴェジェイ・アイヤー二枚目のトリオであり、リーダーとしてこのレーベル、7度目の登場となる。次から次へと形を変化させていく(sshape-shift idea)アイデアを操りながら、アイヤーは、アルバムを出すたびに境界を押し広げ続ける。
彼のユニークな音楽のアプローチは、さまざまな栄誉と国際的なメディアからの賞賛を浴びてきた。ニューヨークタイム誌は彼の個性を「社会的良心であり、マルチメディア・コラボレーター、システム構築者、吟遊詩人、歴史思想家、多文化への通路」と総括する。
《Uneasy》では、アイヤーは音楽の歴史を紐解きつつ、一方ではそれを前進させる。この試みの過程で、今日のアメリカの地景を席巻する社会的政治的な騒乱が、音楽的黙想と張り詰めた空間に反映されていく。アルバムのライナーノートで、今日いかに’Uneasy (気がかり) ’という言葉が、この恐るべき時代にあまりにも穏やかで、冷酷で、抑えた表現のように感じるかについて、ヴィジェイは詳説する。
しかし、おそらく、世界はそれと対峙するものを孕むのだから、最上の心地よい、癒しの音楽は深淵な不安から生まれ、その中に居るのだということを気づかせてくれる。そして逆に言えば、極端に騒々しい音楽は、静寂や、冷静さ、そして知恵さえ孕んでいるのだ。
ティショーンとヴィジェイの共演は、ヴィジェイのアルバム《Blood Sutra》を録音して以来の2002年までに遡り、《Uneasy》は、この三人で2019年いっぱい共演した後の、初のスタジオでのセッションを描きだす。ECMでの二作品、2014年のライブ映画《Radhe Radhe: Riots of Holi 》のスコア、2017年のセクステットの画期的なアルバム《Far From Over》をはじめとし、以来この二人は度々共演してきた。
リンダ・メイ・ハン・オーは、ヴィジェイにとって比較的新しいコラボレーターだが、この二人のプロフェッショナルな関係は何年もかけて進展してきた。バンフ・インターナショナル・ワークショップのジャズと、カナダ、アルバータ州のクリエイティヴ・ミュージックの常勤の講師でもあるベーシストは、ワークショップの共同芸術監督であるヴィジェイとティショーンとは馴染みと言える仲になっていた。
リンダとティショーン二人ともが、以前にECMでレコーディングを経験していた。ソレィはロスコー・ミッチェルの《Bells for the South Side》、オーはドイツのピアニスト、フローリアン・ウェーバーのECMデビューとなった《Lucent Waters》に、彼女らしい演奏を披露している。彼女の展開の読みの速さ、ティショーンの堅固だが、ディープで音楽的なスイングは、《Uneasy》をヴィジェイのそれまでの作品と一線を画し、2015年の、絶賛された《Break Stuff》のECMトリオの音楽と印象的なコントラストを構築し、総仕上げとなるピースを揃える。
「このグループは、とても異質なエネルギーを併せ持つ。異質な推進力、際立つ衝動、色彩の異質なスペクトラムがある」とトリオのパートナーたちについてヴィジェイは熱弁をふるう。
アルバムがそのタイトルを拝借する《Uneasy》は、そもそもは2011年に、ヴィジェイと振付師のカロール・アーミテージが創り上げた共同制作の作品名だった。アルバムとしての《Uneasy》は、タイトルが暗示し取り込む、脅威に晒されているという空気感ー10年後 (訳註:2011年からか?)、つまり気の休まらない世界と時間へと深入りして来た十年間を仄めかす、パラドックスの上に構築されている。
《Uneasy》では、二十年もの間に作曲された8曲のアイヤーのオリジナルに、コール・ポーターの“ナイト・アンド・デイ”の解釈と同様に、ジュリ・アレンの“ドラマーズ・ソング”を解釈したものが加えられている。後者は、アイヤーのレコードでは、“フエン・カブヤ・ダンス”のある部分で終わる、彼がクレイグ・テイボーンとともに演奏した《Transitory Poems》以降、二度目のジュリ・アレンのコンポジションの採用である。
これまでの演奏機会の中でも2018年、冬季ニューヨーク・ジャズフェストのジュリ・アレン・トリビュート・コンサートで脚光を浴びた、ヴィジェイの解釈による“ドラマーズ・ソング”の演奏は、ダウンビート誌が「フェスの最初のハイライトとなった演奏の一つ」であり、「催眠効果のある旋律と執拗なポリリズムは強烈」と評した。
このアルバムのヴァージョンでは、コンポジションを規定するオスティナートが断片化され次第にトリオの中で分解していく前に、ピアノが提示する。ヴィジェイはジュリ・アレンとはお互いよく知る仲だが、彼女のトリッキーなコンポジションについてコメントしている。
「ジュリが“ドラマーズ・ソング”をトリオで演奏するときのやり方を身につけようとしていた頃、その曲を集中して練習していたことを思い出す。うまく演奏するのは大変で、バランスを保たないといけない。ジュリは淀みなくやってのける。そんなこと全く気にせずにね。だけど聞こえている以上に、ますます難しくなることに気がついた」。
彼の人生にアレンが及ぼした重要性を、ヴィジェイは強調する。「彼女にはとても影響された。音楽家として、とても優しく、寛大な師として、友人として、同僚としてね。彼女の遺したものをできる限り世に伝え、彼女の記憶に尽くしたい」。
アルバムは、穏やかにせがむようなリズムのドライヴを伴い、和声的にはゴツゴツとした構造の“Children of Flint”で幕を開ける。2019年に作曲されたこの楽曲は、ミシガン州デトロイトの近くの町、フリントから声をあげる子供達に捧げられている。ヴィジェイは、このコンポジションの悲劇的な背景を強調する。
「徹底的な無視と組織的な人種差別によって、街全ての上水道の供給が鉛で汚染され、町の何千という子供達は、その大半がアフリカ系アメリカ人だが、彼らに慢性的疾患や学習障害などの広範囲に及ぶ健康問題を引き起こしている、危険なレヴェルの鉛に晒されてきた。この曲はそんな子供達に捧げられている」。
“Combat Breathing”は当初は、2014年、BLMの初のプロテストに続いてブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックでの政治活動のために書かれた。この曲は11拍周期に基づき構築され、トリオそれぞれのメンバーがアイデアを展開、実験する広大なスペースを提供する繰り返し下降するケーデンスが現れる。特に曲途中からの静かなパッセージが、リンダ・ハン・オーの切々とした、メロディックなソロへとリスナーを導き、トリオのダイナミックな表現の幅を披露している。
《Uneasy》の大半の音楽は、ヴィジェイ、ティショーン、そしてリンダがトリオとして追い求める即興によるインタープレイ、自発的なフォーカスの移行に築き上げられている。
「トリオで演奏する時に探査に必要なあらゆるエネルギーが、我々には常に充ちていたと思う。それは単にフォームのことではないし、誰かに強烈な印象を与えるそんな目的で取り組むようなことではない。それは時に、直観的な空間のようなものと関わってみること、表面下の何か、活性化し、促進する何かを見つけ出そうとすることだ」。
ヴィジェイが “周囲のエネルギーに関わろうとする”ことや “我々の身の回りにあるフォースや動き”について語るとき、記譜法が表現できることを超えて起こる探求の精神(exploratry spirit)や、即座の強調(impromptu emphases)について説明している。
こうした瞬間は、 “Cofiguarations”でも起きている。2001年のアルバム《Panoptic Modes》で最初に演奏された彼の初期作品である。「それは南インドのあるリズムのアイデアと取り組むための初期の試みで、テンポが変化する長いコーダがある。ティショーンと私はそのアルバムの録音の後、まもなくして一緒に仕事し始めた。だからこのトリオに曲を合うようにするのに、二人の記憶装置を遡って掘り起こした」。
“Retrofit”は、違う編成を想定していた作品を改作したもう一つの曲だ。2019年に作曲されたが、ピアニストは彼のセクステットを念頭に、リズムが濃密な運動をする曲を書いていた。常に変化するドラムパート、ドラムの、線形に対抗するように断片化された表面、といったコンポジションの諸要素は、セクステットのアルバム《 Far Form Over》の諸部分と対応する。トリオの編曲は、解剖学的にそのトラックの組成を、音楽家それぞれの強靭な資質を凄まじい見世物にしながら、その構造の骨の髄にまで解体する。
コール・ポーターの “ナイト・アンド・デイ”は、このディスク唯一のスタンダードであり、ヴィジェイの、過去やその伝統への共感を表明する。ジョー・ヘンダーソンの、1966年のアルバム《Inner Urge》での解釈に刺激を受け、ヴィジェイはそのアレンジをこのトリオに合わせたものに改作している。
「特に気に入っていたのは、偉大な、故マッコイ・タイナーが、ヘンダーソンの和声的な迷路を導いていくやり方だった。私はタイナーの流動性や、エネルギッシュなグルーヴ、そして深い音響性を何十年と研究してきた。2020年に彼が亡くなったこともあり、音楽家としての私を造った彼の演奏の瞬間へとふたたび舞い戻り、ささやかな信条の表明として、この録音が出来たことを嬉しく思う」。
“Augury”の、ピアノソロの瞑想は、まるで嵐の前の静けさといった雲に囲まれたセッションの雰囲気と気分を捉えている。「タイトルが示しているのは、占いの古い方法のこと。2019年の終わりにレコーディングしていた時、我々は世界的な悪夢となる年の頂きにいた。直観を辿っていれば、脅威はすでに明らかだったのだろうか?」
《Uneasy》は、私たちの時代の、不平等で厄介な社会政治上の地景を顧みながら、《Far From Over》の次を引き継ぐ。しかし、《Far From Over》が「先にはたくさんの仕事」が待ってることを強調するが、ヴィジェイが言うには《Uneasy》は緊急性を増幅する。あるいは多分、もっと正確に言えば、混乱の勃発、地球上で蔓延する扇動と不一致を増幅する。
「このアルバムに収録した私のコンポジションは過去20年に及び、最初の《Uneasy》プロジェクトはその真ん中、10年前だった。プロジェクトは、何か不安定なものを仄めかしていた。私たちはすでに不測の出来事と不安を抱いていた。何か不穏なことが常に進行していたし、我々の眼前にそれが爆発的に広がっているのを、今、我々は目にしている」。
《Uneasy》は、Oktaven Audio Studio、ニューヨーク州のマウント・ヴァーノンで録音され、ヴジェイ・アイヤーとマンフレッド・アイヒャーのプロデュースによる。
『Uneasy』
Vijay Iyer(p)Linda May Han Oh(b) Tyshawn Sorey(ds)
[ECM 352-696(CD)]4/9発売
[ECM 352-6241(LP)] 4/16発売
【ヴェジェイ・アイヤーインタヴュー掲載号】
2021.4.20号
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