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【ライヴレポート】ASKA premium concert tour-higher ground-アンコール公演初日-見開いた目と前のめりになっている観客を前に、再会の喜びを歌う!

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撮影:新井秀幸

中止・延期を繰り返しながらも、大雪にみまわれながらも、初日を迎えた全国ツアー
見開いた目と前のめりになっている観客を前に、再会の喜びを歌う!

text:桑原シロー

 府中の森芸術劇場どりーむホールにおいて行われたASKA全国ツアー〈ASKA premium concert tour-higher ground-アンコール公演〉の初日の夜。そこに集った面々の表情には(全員マスクを着用しているので目から判断するしかなかったが)、この大切な機会を目一杯満喫せねば、といった執念にも似た想いが滲む。そして不本意ながら声援を禁じられていた彼らは、歌に込められた思いをしっかりと受け止めることが使命、とでも言うように、前のめりの姿勢でステージと対峙している。そんな客席からのただならぬ視線を集めるASKAはと言うと、クワイエットな状況にいささか戸惑いながらも、届けたくても届けられないという、長きに渡ってロックされ続けたストレスを吹き飛ばすかのように、ワイルドで威勢のいい風を巻き起こしていく。それにしても「待たせたね!」というフレーズがこれほど沁みるとは。感無量とはまさにこのことである。

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撮影:新井秀幸

 ライヴの初っ端から、ASKAの背中を押す風がめっぽうパワフルでやけに分厚い。さすがは<ASKA×バンド×ストリングス>だ。とにかく飛び出してくるサウンドがどれも立体的で、目の前に描き出される画もやたらと大きく感じる。なかでもさまざまなシーンをドラマティックに演出するストリングスの威力は絶大で、とりわけ新曲《笑って歩こうよ》のようなスウィートなナンバーでその効果を発揮していた。そんな演奏に支えられながら、再会を祝う歓喜の歌を次々に披露していく彼だが、どの立ち振る舞いも威風堂々とみえてならなかった。つまりこのうえなく快調だったというわけだ。MCで「今夜のライヴが今回のツアーの基準となる」とASKAは話していたが、メンバー全員の呼吸はしっかりと出来上がっていたし、アンサンブルの鉄壁さをアピールすることにみごと成功していたと言えよう。

 ツアー・タイトルに〈アンコール〉と記されているとおり、本公演は2019~20年に行われたライヴ・スタイルを踏襲したもの。その前回ツアーだが、新型コロナウィルスが蔓延し始めたせいで、終盤の大阪と熊本公演が延期、のちに中止という憂き目に遭っている。実はこのツアーも2021年秋からのスタートが計画されていたものの、感染拡大が収まらないために延期を余儀なくされていたのだ。再会が果たされるまでにこれほどの日数を要してしまうとは、誰も想像すらできなかっただろう。というわけで1年10か月ぶりの有観客ライヴとなったこの日。さらなるアクシデントがASKAを襲っていたことがMCで知らされる。前日の1月6日、首都圏は大雪に見舞われ、その影響で交通機関があちこちで大混乱に陥っており、例に漏れずASKAもその状況に巻き込まれていたとのこと。結局新宿で車を乗り捨て、電車で会場入りしたそうだが、その大変さよりも、いったいどこの駐車場に車を置いてきたのか思い出さなきゃならないことのほうが大事な問題、とASKA。容赦なく降り注ぐさまざまな試練。でもきっと大丈夫、と、当の本人はいたって楽観的なご様子。しかしその裏にはしっかりと、今日を迎えるにあたっての覚悟も垣間見えていた。コロナ感染者がふたたび増加しはじめ、困難な時期はまだまだ明けきらないけど、だからと言って負けるわけにはいかない。僕らはひたすら進むしかないのだから。そんな気概がこの日のどのパフォーマンスからも感じられ、いちいちこちらの気持ちを揺さぶってかかる。まさにASKAがいつも詞に込めるような熱い心意気がステージ上に漲っていたのだ。

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 撮影:新井秀幸

 音の洪水が迫力満点で押し寄せる《ID》から、めっぽうエモーショナルな《PRIDE》、そして力強い生命力に溢れた《歌になりたい》へと続く中盤の流れはひとつのクライマックスと呼べるものだった。めっぽうスリリングなバンド・アンサンブルと相対するASKAの歌声の響きにも次第に伸びやかさと艶やかさが増していくのがわかる。「喉を壊したことがあって歌唱法を変えたんだけど、一度戻してみたら、いまと昔の両方いけるようになった。いまの言葉でいうとハイブリッドって言うんですか?」とMCで話していたが、この先もまだまだ新しい引き出しを見つけていかねば、といった高いモチベーションが歌唱の端々からこぼれていたのがたしかに見えた。《はじまりはいつも雨》や《月が近づけば少しはましだろう》といった代名詞的な名曲もキラキラと光り輝いていた。アンコールでの光GENJIの《パラダイス銀河》の祝祭感(ローラースケートの物真似パフォーマンスまで飛び出す)、ラストを締め括った《WALK》の高揚感も忘れがたい。

 当夜はもうひとりの主役がいたことを伝えておかねば。それはドラムスのSATOKO。セッション・ドラマーとしてキャリアを積んできた彼女は、11月にこの世を去った名ドラマー、菅沼孝三の実の娘であり、ASKAとの付き合いも長い。盟友の死がASKAに与えたショックの大きさは、ライヴ中に繰り返し彼の名を口にしていたことからも窺えたが、ダイナミックなSATOKOのプレイに目を配りながら、遠くに行ってしまった彼に何かを語りかけているようなASKAの姿が何度も見られたのが印象的だった(スクリーンに映し出されたありし日の父のパフォーマンスと彼女が共演するという趣向もあり)。エンディングでは感極まって抱擁しあっていたふたり。ASKAは何か言葉を囁いていたようだが、彼女がハイヤー・グラウンドをめざすうえでとても大事になるものを渡していたような気がしてならなかった。
こうしてふたたびロードに立ったASKAと仲間たち。困難に立ち向かいながら結束を深め、前よりももっと遠くまで到達できるはず。そんな実感がたしかに得られた夜だった。


LIVE INFORMATION

ASKA premium concert tour -higher ground-アンコール公演

◆1月7日 (金)開演18:30(開場17:45)府中の森芸術劇場 
※お問合せ:ディスクガレージ 050-5533-0888
◆1月10日(祝・月)開演18:30(開場17:45)仙台サンプラザホール
※お問合せ:GIP 0570-01-9999
◆1月30日(日)開演17:30(開場16:45)神奈川県民ホール大ホール 
※お問合せ:ディスクガレージ 050-5533-0888
◆2月5日 (土)開演18:30(開場17:30)フェスティバルホール 
※お問合せ:YUMEBANCHI (大阪)06-6341-3525
◆2月11日(祝・金)開演17:30(開場16:45)名古屋国際会議場センチュリー
※お問合せ:サンデーフォーク 052-320-9100
◆2月14日(月)開演18:30(開場17:45)福岡サンパレスホテル&ホール 
※お問合せ:BEA 092-712-4221
◆2月16日(水)開演18:30(開場17:45)熊本城ホールメインホール
※お問合せ:BEA 092-712-4221
◆2月18日(金)開演18:30(開場17:45)広島文化学園HBGホール
※お問合せ:YUMEBANCHI(広島)082-249-3571
◆2月23日(祝・水)開演16:00(開場15:15)兵庫県立芸術文化センター大ホール 
※お問合せ:YUMEBANCHI (大阪)06-6341-3525
◆2月24日(木)開演18:30(開場17:30)特別公演・東京ガーデンシアター(特別セットリスト)
※お問合せ:ディスクガレージ 050-5533-0888
◆3月24日(木)開演18:30(開場17:30)ロームシアター京都 
※お問合せ:YUMEBANCHI (大阪)06-6341-3525
◆3月27日(日)開演17:30(開場16:45)いわき芸術文化交流館アリオス・大ホール
※お問合せ:GIP 0570-01-9999
◆4月13日(水)開演18:30(開場17:30)東京国際フォーラムホールA
※お問合せ:ディスクガレージ 050-5533-0888

ASKAアンコール公演公式HP:
www.classics-festival.com/rc/aska-premium-concert-tour-higher-ground-2021/


■ASKA
1979 年 CHAGE and ASKA として「ひとり咲き」でデビュー。「SAY YES」「YAH YAH YAH」「めぐり逢い」など、数々のミリオンヒット曲を世に送り出す。音楽家として楽曲提供も行う傍ら、ソロ活動も並行し、1991 年にリリースされた「はじまりはいつも雨」が、ミリオン・セールスを記録。同年のアルバム「SCENE Ⅱ」がベストセラーとなり、 1999 年には、ベスト・アルバム「ASKA the BEST」をリリース。また、アジアのミュージシャンとしては初となる「MTV Unplugged」へも出演するなど、国内外からも多くの支持を得る。2019 年 6 月には、ソロとしては約 10 年振りとなる台湾、香港での海外公演を開催。


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