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第12回:思い出し笑い「たいへんよくできました!」(&ツルコ)

落語#69 『キクキクラクゴ』COCJ-32685-86-林家


第12回:たいへんよくできました!

執筆者:&ツルコ
*intoxicate vol.65(2006年12月発行)掲載

年の瀬ですねー、

あっというまに。「光陰というのは、ああ、矢のごとしだなあ」という志ん朝師匠の声が聞こえてくるような。って去年も書きましたっけ? 落語オタクの時候のあいさつみたい...。反省。


落語には季節が折り込まれた噺がいろいろあって、春はお花見の噺、夏は花火の噺とか、春夏秋冬それぞれに楽しめる噺があります。年の暮れだと、「芝浜」とか「文七元結」などでしょうか。今年ももう終わりだなーと思いながら聞く。年中行事の1つかも。


「芝浜」は、芝の浜で大金の入った財布を拾った魚屋さんとそのおかみさんを描いた古典落語。人情噺の名作ですが、今この「芝浜」といえば、林家たい平さんなんですよ、みなさん。といっても、まだ“三木助といえば「芝浜」”ってことではないんですけど。


たい平さんは、司会が変わり、若手参加でリフレッシュした日曜夕方の『笑点』大喜利で、いちばん端っこにオレンジの着物で元気に座ってるあの人です。寄席や落語会などで見るたい平さんの高座はほんとに明るくて、なによりもとにかくひたすら楽しませたい!のオーラがあふれてます。柳家喬太郎さんと2人で抜擢真打昇進した実力者で、林家一門では希少な、落語のできる噺家さんですが、電車の社内放送の物まねや、全身をつかっての花火の擬音、人形が登場したりまでして大爆笑させてくれます。林家のサービス精神と落語への真摯な姿勢がたい平さんのなかに両立していて、いちばん大切なこと=お客さまを楽しませること、というゆるぎない気持ちが感じられます。まだの人はぜひ1度、たい平さんの落語を聞いてみてください。できればライヴで。落語の楽しさが一発でわかっちゃいますから。


で、「芝浜」ですが、たい平さんは年末に“たい平の芝浜を聴く会”と銘打ち、毎年恒例の会を行っています。今年もやります。10回めです。2006年のたい平の「芝浜」です。30代、40代、50代と、そのときの「芝浜」があるはず、という思いで会を続け、2年前に初めてリリースしたCDにも、たい平39歳の「芝浜」が収録されてます。


若手の噺家さんたちは二人会とか、数人で会を立ち上げて定期的に落語会をやっている人も多いのですが、そういえばたい平さんはほとんどそういう会に参加していなくて、どこか孤高な感じもします。ひとりで極めていく、みたいな厳しさももっているような。最新の著書『たいのおすそ分け』は、日々の出会いや身の回りで感じたことなどを書き綴ったエッセイですが、周りも自分も大切に思う、たい平さんのやさしさ、まじめさがみえてきます。ひとりのときに思うこと、家族ができたからわかること。気づかない人は一生気づかないようなところにも目がいく。思う。幸せを感じる。こうした毎日の積み重ねがきっと芸にも反映していくのだろうなと思います。そうしてみると、毎年暮れの定点観測のような「芝浜」は、ひとりの噺家さんを追って聞く楽しさも体験できる、季節のお楽しみかもしれません。そして今年はもう1つ「芝浜」の発展形で、歌手デビューしちゃったんですよ、たい平さんは。日テレ系の深夜番組「歌スタ!!」で、なんと合格。これはヤラセではなく、ホントに歌が上手かったから。このデビュー・シングルとなる『芝浜ゆらゆら』は、たい平さんが「芝浜」を現代に置き換えて創作した新作落語「SHIBAHAMA」(必聴!)をベースにつくられたんだそうですが、たい平さん、爽やかに歌ってます。これ、「紅白歌合戦」にもいいんじゃないですかね、「芝浜」の最後は大晦日だし。「笑点」出演者で「紅白」初登場の快挙、なるか!? 辞退者多いみたいだし、代わりにたい平さん、どうですか? 


CD発売後、歌手として日比谷野音のイヴェントで歌ったとき、そこにはフアネスも出演していたそう。その後、あのフアネスと同じステージに立った
だった!と自慢したいのに、噺家仲間でフアネスを知ってる人が皆無だったそうでしょんぼり。がんばれ、たい平さん!

CD『~林家たい平 落語集~ たい平よくできました』
林家たい平
[Columbia COCJ-32685]
CD『芝浜ゆらゆら』
林家たい平
[Columbia COCA-15937]
BOOK『たいのおすそ分け ちょっと、いい噺』
林家たい平
ISBN:978-4-391-13315-8

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