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第50回:思い出し笑いinterview 古今亭菊之丞 「仕草で見せる場面が多い噺なのでDVDでよかったです」(&ツルコ)


第50回:interview 古今亭菊之丞 「仕草で見せる場面が多い噺なのでDVDでよかったです」

*intoxicate vol.105(2013年8月発行)掲載
執筆者:&ツルコ

今年は芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞&ご結婚、と公私共におめでた続きの菊之丞さん。待望のDVDが2か月連続リリースです。プロデューサーの十郎ザエモン氏は「〈二番煎じ〉はいろいろな方がやっていますが、視線で人の位置がわかるように演じる人は意外に少なくて。菊之丞さんの〈二番煎じ〉は、誰がどこにいるのかが、きれいにわかる。そこが格段にすごいんです」と絶賛。第一弾にはその〈二番煎じ〉が収録されています。


 〈二番煎じ〉は、夜回り、番屋、侍の各場面が聞きどころ観どころ満載。真冬の噺を真夏に聞くのも一興でした。
 「仕草で見せる場面が多い噺なのでDVDでよかったです。真打昇進した頃に春風亭一朝師匠から習いました。人物の配置を、月番さんを中心にすれば絶対間違えないから、と教わったので、黒川先生はここ、伊勢屋さんはこっち、と最初に全部書いて覚えました。自分がわかっていないとお客様にもわかってもらえないので、そこはきっちりやっています。鍋の位置や猪の肉が何に包まれているか、までね」


 〈明烏〉は師匠の古今亭円菊さんから習った噺ですね。
 「二つ目の早い頃に。うちの師匠は昭和28年に噺家になったので実際の遊廊を知っていますが、お前は経験がないのだから知らないなりのマクラや噺にしなくては、と言われました。“こうです”ではなく“こうだったそうです”という表現になるけれど、今と昔の共通点みたいなものを探して、お前なりの廊像をつくりなさい、と。私の廊噺を聞いて赤い壁の空間を思い描いたというお客様がいましたが、そこまで想像してもらえたのはうれしかったですね」


 第二弾が〈酢豆腐〉と〈景清〉で、夏の噺二席です。
 「先代の桂文楽師匠が好きで、〈酢豆腐〉は文楽の十八番でしたので、文楽の噺を受け継いでいる柳亭左楽師匠から二つ目時代に習いました。〈景清〉は三遊亭金馬師匠からです」


 今回は菊之丞さんらしい江戸情緒が伝わる演目をと選ばれたそうですね。
 「噺には、すっと入ってくるものと、そうでないものがありまして。体に合う、合わないがあるんでしょうね。収録した4席はどれもすっと体に入った噺です。
 〈二番煎じ〉は、皆でわいわいやっている楽しさと、侍も酒を飲みたい欲望には逆らえない、人間ってこうなっちゃうんだ、的な面白さ。〈酢豆腐〉は、二つの場面のどんどん人を追い込んでいくおかしさ、にっちもさっちもいかなくなったときのリアクション。落語の世界で人間というものの面白さを楽しんでほしいですね」


 昨年は円菊師匠が、最後の弟子・古今亭文菊さんの真打披露興行中に亡くなられて残念でした。
 「13人の弟子を全員真打にしてから逝ったんですから、それはすごいことだと思います。抜擢昇進で間に合わせた文菊も偉かったですけどね。
 うちの師匠は、ただしゃべってりゃいいってもんじゃない、と常々言っていました。こう言われたらお前はどう思うのか、驚いたのなら、ちゃんと驚きなさいよ、その人物になりなさい、といつも教えられていたんです。それを真打になって、忘れてしまってたんですねえ。2〜3年前、寄席の楽屋裏で柳家小三治師匠に言われました。お前は落語のストーリーを知っている、だいたいのお客様も知っている、でも登場人物は後の展開を知らない。なぜ知らないようにしゃべらないんだ、と。それを聞いて、うちの師匠の教えを思い出した。芸風は違っても、言うこと、目指していることは二人とも同じなんです。それを忘れると芸が止まっちゃうんだよ、とおっしゃってくださって。師匠はいなくなってしまいましたが、たくさんの先輩が見ていてくださいますから、ありがたいですよね」

DVD『古今亭菊之丞落語集「明烏」「二番煎じ」』
[ 竹書房 TSDS-75550] ※廃盤

DVD『古今亭菊之丞落語集「酢豆腐」「景清」』
[ 竹書房 TSDS-75551]  ※廃盤

思い出し笑いライン


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