第13回：思い出し笑い「しゃべれども しゃべれども」（&ツルコ）

第13回：しゃべれども しゃべれども

執筆者：&ツルコ
＊intoxicate vol.66（2007年2月発行）掲載

落語シリーズ第3弾！って、そんなシリーズはないんですが、'05年「タイガー＆ドラゴン」の長瀬智也、'06年「林家三平ものがたり」の山口達也に続き、今年は国分太一が噺家に！　このたびめでたく映画化される「しゃべれどもしゃべれども」（平山秀之監督）は、いま青春陸上小説三部作「一瞬の風になれ」がヒット中の佐藤多佳子が10年前に発表した長編小説で、若手噺家が主人公の作品です。以前、山田洋次監督で映画化か、と噂されるも実現しなかったので、今回はついに映画化、しかも国分くんの初主演ということですでに話題にはなってたんですが、国分くんが劇中で披露する落語が予想以上に上手いというので、さらに盛り上がってきてます。

映画は、“二つ目”という真打になる前の身分の若手噺家、今昔亭三つ葉と、ひょんなことから彼のもとに落語を習いたいと集まってきてしまった、小学生、若い女性、元プロ野球選手との交流が丁寧に描かれています。自分の人生もまだぼんやりしているような状態なのに、他人の人生のけっこう大事なところにかかわらなければならないはめになる、硬派ながらお人よしの主人公に国分くん、はまってます。今どきの映画なのに、ネットとかメールとか出てこないし、主人公がいつも着物だったり、下町が舞台になってたりするもので、なんだかのんびりした、少し前の時代のような空気が流れているみたい。

そしてやはり注目してしまうのが、国分くんの落語。お弟子たちに教えるのは、ご存じ「まんじゅうこわい」なんですが、映画のクライマックスとなる一門会では「火焔太鼓」という、二つ目にして、大ネタといわれる人情噺に挑戦し、堂々と披露してます。すごい。こういうのって、CGとか、スタントマンでなんとかするわけにいきませんから、稽古しかないですよね。TVやCMで引っ張りだこなのに、いつの間にこんなに！　さらに、落語とは縁のなさそうな香里奈さんの「まんじゅうこわい」も聞けますし、なにより関西から転校してきた村林くん役の子がお見事！　枝雀を師匠と定めての上方落語で笑わせてくれます。ぜひこのままだれかに弟子入りして、小学生噺家として活躍してほしいものです。10月からスタートするNHKの朝ドラは、噺家を目指す女性が主人公らしいですが、村林くんのキャスティング、どうでしょう？　関西だし。

劇中では三つ葉の師匠は伊東四朗演じる今昔亭小三文ですが、演技のため出演者に落語指導をしたのが、柳家小三治門下で昨年真打昇進を果たした柳家三三（“さんざ”と読みます。愛称みみちゃん）さん。「古典落語の正統な継承者として将来を期待される若手噺家」の三三師匠、初弟子が国分くんと香里奈さんってすごいですよね。評判のいいお弟子さんのお稽古はどのように？

「国分さんに対面で指導できたのは5〜6回しかなかったんですが、“噺家”らしく見えるようにというところはアドバイスしました。役者さんが噺家になると、どうしても落語を演じているように見えてしまうのが気になるので、しぐさや間合いなど、実際にはこうしている、と」。そのポイントをちゃんと理解したからこその、あの自然な噺家さんぶりなんですね。一線で活躍している人だけあって、その勘のよさには師匠も感服したそうです。

落語指導者の人選にあたっては、スタッフが何度も寄席に通っていろいろな噺家さんを聞いたり、若手噺家の生活ぶりを取材したりした上で、この人にぜひ！と白羽の矢を立てたのだそう。そして落語指導だけでなく、三三さん、映画初出演なんですよ。新宿の寄席、末広亭のモギリ（チケット売り場）にちょこっと登場するイイ男、お見逃しなくね。この演技が認められて（？）、この秋公開の平山監督の次回作「やじきた道中 てれすこ」（中村勘三郎46年ぶりの映画主演で話題の）にも大工の源ちゃん役で出演するんですって！

というわけで、必見の映画あり、木久蔵師匠の名前が変わって（公募中）きくおくんが木久蔵を襲名したり、今年もなにかと話題ありですね、落語。本もいろいろ出てますし、大御所から若手までCDのリリースも増えてますから、いまが入りどきですよ。寄席全盛の“あの頃”を知るコアなファンにはこちらのCDをどうぞ。昭和の名人たちが健在だった頃、下座をつとめた橘つやさんの寄席囃子を収録した貴重な音源。これ、噺家さんもほしがるかたが多いんじゃないでしょうか。寄席囃子については、もう少し触れてみたいんですけど、TO子さん、〈次号に続く〉にしてもいいですかー？

CD『寄席囃子』
ひので会
[日本伝統文化振興財団 VZCG-636]