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第16回:思い出し笑い「ちょいと若旦那!」(&ツルコ)

落語#69 『キクキクラクゴ』COCJ-32685-86-林家


第16回:ちょいと若旦那!

執筆者:&ツルコ
*intoxicate vol.69(2007年8月発行)掲載

落語に登場するおなじみさんといえば、熊さんに八っつあんにご隠居さん、与太郎、定吉、お侍。そして忘れちゃいけないのが、若旦那。芝居にうつつを抜かしたり、花魁に入れ込んだり、お金を湯水のように使うことはしても、働いて稼ぐなんて生産的ことは一切せず。小僧の定吉は10歳にもならないうちから奉公に出され、朝から晩まで働いてるというのに、生まれた所が大店だったラッキー若旦那は、自分がやりたいことだけやっていればいいという、たいそう羨ましいニートな身分。甘やかされて育ち、何不自由ない暮らしをしてますから、人はいいんです。悪いことをする若旦那は、落語にはいません。船を漕いだり、かぼちゃを売ったり、お湯屋さんで番頭をしたり、幇間に針を打ったり、夏にみかんを欲しがったり。周りにかけてる迷惑なんてなんのその、今日も元気にろくでもないことばっかりしている若旦那。でも落語の世界では最も愛すべきキャラクターかも。ビバ!若旦那!


今年の落語界で話題になっているのが、林家木久蔵&きくお親子のW襲名。「笑点」のキクちゃんとして長年愛されてきた名前を息子に譲り、自分は新しい名前になって、落語界初のW襲名をやってしまおう!と思いついたパパは、さっそく「笑点」で自分の名前を公募し、新名「木久扇(きくおう)」を決めました。扇子は噺家につきものですし、落語界に新しい風を送りたいという気持ち、末広がりなおめでたさなど、理由はあったようですが、なんといっても、きくお→木久蔵、木久蔵→木久扇という、名前を取り替えっこしたようなシャレがあるのがさすがですね。そんなわけで、2007年9月から、きくおは二代目・林家木久蔵に、木久蔵は初代・林家木久扇になります。


春風亭小朝師匠が「異例の生前贈与」とうまいこと言ってましたが、父が一代で大きくした名前の木久蔵を譲られることになった、21世紀の若旦那きくおさん、もちろんプレッシャーはあるのでしょうが、気負いすぎることなく、浮かれることもなく、とても自然体。若手噺家が出演している「笑点Jr.」(日本テレビ系CSデジタル放送局)での、父を受け継ぐ天然ぶり大発揮な姿からは想像しにくいかもしれませんけれど、落語の腕も磨いてます。父は“木久蔵落語”ともいえる芸風を確立してますが、息子は落語の基本はまず古典、と様々な師匠のところに稽古にいき、日々勉強中。父の病気がきっかけでより真剣に落語に取り組むようになったそうですが、その成長ぶりが認められ、この秋、単独での真打昇進が決定しました。寄席でのW襲名披露興行では、新真打として40日間連日トリを務めますし、親子で北から南まで日本全国回りますから、平成の若旦那の晴れ姿、どうぞお見逃しなく!


『キクキクラクゴ』は、落語では初の親子カップリング作品ですが、きくおさんは、自分の芸はまだ残せるものではないから、と固辞していたのを、お祝いだからと押し切られ、若旦那が登場する「幇間腹(たいこばら)」で初CD登場となりました。父は十八番の「彦六伝」の新バージョンなんですが、“パンの秘密”“お餅がかびる理由”“初めてのキムチ”“アーモンドチョコレート”など大爆笑エピソードが満載。観客がものすごく笑ってるのを聴くと、一体どんな“震えるおじいさん”なんだ??と観たくなっちゃいます。さらにボーナストラックは、キクちゃんが歌う、あのばかばかしい名曲「いやんばか〜ん」! だれでも知ってる曲なんですが、フルバージョンを聴いたの、初めてかも。これがなかなかよくてビックリ。


P.S.キクちゃんといえば、「木久蔵ラーメン」。落語会などの会場では、サービス精神旺盛なご本人がラーメンを売ってたりしてお客さまを驚かせてますが、今回、W襲名を記念したWスープのラーメンが期間限定で新発売!

CD 『キクキクラクゴ』
林家木久扇 、 林家木久蔵[二代目]
[Columbia COCJ-39038]
DVD『ザッツ・エンタテインメント スーパースター林家木久扇 爆笑編』
林家木久扇
[Sony Music House MHBW-225]

思い出し笑いライン


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