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【落語コラム】第1回:思い出し笑い「すわ、一大事!」(&ツルコ)

コラム『思い出し笑い』は、イントキシケイト52号(2004年10月)から143号までレギュラーコラムとして掲載を続けてきました。音楽雑誌がどうしてお笑いを取り上げるのか?理由は簡単です。笑うことが好きだからです。笑いを芸とする芸能にはさまざまな種類がありますが、このコラムでは、落語を取り上げてきました。どうして? 落語が好きだということ以上に、落語は私たちが日常目にするエンターテインメントにとてもおおきな影響を及ぼしていると気がついたからです。エンターテインメントの喜怒哀楽の基本は落語にあると思うからです。例えば、テレビドラマの『相棒』は、落語の人情話の肌理をとてもうまく、プロットに生かした番組です。そういえば、『タイガー&ドラゴン』は、ドラマ丸ごと落語でした。大袈裟にいえば明治以降、口語体の文学に始まり、いつしか落語のエッセンスは、色々な表現として、感情を引き起こすトリガーとしてあるゆる芸能に浸透して行きました。だから、落語には私たちの喜怒哀楽のエッセンスがあり、落語という芸能が保存し、進化させている私たちの喜怒哀楽、そして笑を思い出してみることで、さまざまな芸能やエンタテインメントの味わいが深くなるのではないか、そんな思いがあって、このコラムの始めました。現在は、笑の国際化、極東の座りっぱなしの話芸の魅力を垣間見るコラム『シュール落語イズム』(尻流複写二)へと引き継がれています。さてさて、『思い出し笑い』の思い出し企画、是非お付き合い願います。

思い出し笑いライン

第1回:すわ、一大事!

*intoxicate vol.52(2004年10月発行)掲載

SWAという新団体ができました。四角い座布団の上で口先三寸のバトルを繰り広げる男たちが、満を持して立ち上げた、熱く、密かに始動するこの団体。春風亭昇太を中心に、落語、講談の若手新作派5人が結集、創作話芸協会(アソシエーション)というたいそうな名前を冠し、今年から活動を開始した模様です。

落語や講談には「古典」のイメージがあるかもしれません。舞台は江戸で、とかね。でも江戸、明治、大正、昭和、平成と、その時代時代で、噺家や講談師が次々に新しい噺をつくってきている、現在進行形の芸なのです。長い年月の間に、様々な人に語られることで、削ったり足したりして磨き上げられてきたものだけが今日まで残り、「古典」と呼ばれています。数多く生み出されながらも、出来のよくない噺はやる人もなく自然消滅していくんですね。つくられた時代には「新作」で、後の世には「古典」になる。落語、講談は一人芸なので、新作を創る場合、ほとんどが自分で書いて、演じる自作自演なのですが、この創作話芸協会では、初めての試みとして、5人が集まって噺をつくり、全員で練り上げていくことで、よりよい新作を世に出そうとたくらんでいるようです。噺を創るには、想像力、構成力など客観的に噺
を分析する力が必要で、それがあれば、古典の作品に対しても細部まで解釈することもできるのだから、自分で新作を創ることは、表現者として必要不可欠である、というのが彼らの共通した思いなのでしょう。

さて5人が集まって、さぞ白熱した議論が行われるのだろうと思いきや、彼らがまず行ったのは、お互いのあだ名を決めることだったというから腰が砕けます。噺家は入門順の厳密な上下関係がありますが、ここではそれはなし。「いち」がつくので1番は林家彦いち。高座で大暴れする、体育会系の肉体派落語家は「コブシ」。そして、湖面の白鳥が数字の2に似ているからと、2番は三遊亭白鳥。古典落語もこの人の手にかかると舞台がムーミン谷になってしまったり、創作にかけてはある意味天才の彼は、新潟出身で「カンジキ」。3番は、この会唯一の講談師、神田山陽は「ハリセン」。映画好きだけあって、鼠小僧とサンタクロースが出会ってしまうという、浅草を舞台にした噺など、江戸の冬の町が目の前に浮かぶよう。「ハナメガネ」春風亭昇太が4番手。つい最近、糸井重里が「初めての落語ならぜひ昇太落語を!」と、あの六本木ヒルズで「ほぼ日」寄席をやって、大入り満員でした。6番が(シラガ)の柳家喬太郎。お客様からお題をいただき、その場で創る三題噺で、彼がつくった「ハワイの雪」は、他の噺家も演じているほどの名作。古典もよし、新作も、の両刀遣いです。5番は「ごひいき」ってことで、お客様の番号なのだそう。メンバーが着ている三本線が入ったSWAお揃いの着物には、それぞれの背番号がついてます。会場では、背番号5のTシャツもちゃんと用意されてるところがぬかりなし。

今年の6月に、東京でSWAの旗揚げ公演が行われました。落語好きな人にとって、この5人というのはたまらない顔ぶれですから、チケットはあっという間にソールドアウト。書き下ろしの5作品を口演し、座布団と柔道したり、着物を脱いだら原始人だったり、小道具も使っての、五人五様の新作は、自由な落語の楽しさをたっぷり堪能させてくれたのでした。この旗揚げを祝い、作家の夢枕獏が、チャンピオンベルトを寄贈。これからはこのベルトを巡って、激しい口先バトルがおこなわれていくことでしょう。

そしてついにこの秋、この新作五人男が全国ツアーをするんです。お待たせしました。これはもう必見です。このintoxicateの発行を楽しみに待っていて、出たと同時に手に取ったあなただけが間に合うんです。行きましょう。間に合わなかった人も、この名前を覚えておいて、もしどこかの落語会に出演していたら、迷わず行って、聞いてみてください。後悔はしません(たぶん。体調とかお天気とか、いろいろありますから)。2004年の落語界に噴出した、創作魂をもつ熱い男たちの心意気。大噴火になるのか、ただの余震で終わるのか。この時代に生まれ合わせた因果で、SWAを見守っていこうではありませんか。5人が飽きてしまわないことを祈りつつ。


ツルコさん

執筆者:&ツルコ

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