第56回:思い出し笑い「柳家喬太郎 怖くて笑える『怪談』落語」(&ツルコ)
第56回:柳家喬太郎 怖くて笑える『怪談』落語
*intoxicate vol.111(2014年8月発行)掲載
夏の風物詩といえば、怪談ですが、柳家喬太郎さんの久しぶりの新作CD「アナザーサイド」シリーズ第4弾は、〈耳なし芳一〉や〈雪おんな〉などで知られる小泉八雲の『怪談』を落語化した3席。もうこの季節にぴったりじゃないですか! 今回CD化された3席とも、古典落語に元々ある噺のようでもあり、古典、新作の両方を手がける喬太郎さんの本領発揮という感じです。
八雲作品の落語化のきっかけは、文学作品を落語にして口演する趣向の落語会。2012年に、江戸川乱歩や源氏物語を題材にした落語を披露したこの会で、昨年、八雲の怪談話を落語にした4席を初めてネタおろししたのだそうです。どうして八雲作品を選ばれたのか、喬太郎さんに伺いました。
「八雲の〈むじな〉が元ネタと思われるような〈のっぺらぼう〉という落語がありますし、八雲の『怪談』は日本人にはなじみがありますので、いいかなと思ったんです。昨年の会では、昼と夜で2席ずつ4席をやりました。そのうちの2席は、CDに収録されている《梅津忠兵衛》と《雉子政談》。もう2席は《幽霊滝》と《重陽》(原題〈守られた約束〉)でした」
このような落語化の作業は、新作落語をつくられていた経験が活かされていますか?
「それはありますね。編集作業ができる、というのが強みだと思います。以前、三遊亭円朝の《牡丹灯籠》の通しをやったときにそれを感じたのですが、全体をみて、ここは残す、ここは端折ってもいい、という作業ができたのは、新作落語をつくってきたそれまでの経験があったからだろうと思います」
たとえば、《梅津忠兵衛》は、原作では5ページくらい、ほとんどが地の文の小編なのですが、これが落語になると、登場人物のセリフのやりとりやモノローグ、仕草、喬太郎さんらしい笑いも随所に盛り込まれて、立体化されるような印象で、聴きやすい一席になっていますね?
「この噺は、原作のまま、落ちもつけずにつくっています。わかりやすい話なので、寄席の高座にもかけやすい。トリでは難しいですが、中入りくらいのところでやれるといい噺かなと思います」
《猫屏風》(原題〈猫を描いた少年〉)は、《ねずみ》や《抜け雀》のようなタイプの噺。次の《雉子政談》もそうですが、原作にはもちろんない、落語ならではの落ちもお見事で。
「《猫屏風》は、怖いといえば怖い話なんですが、僕はウルトラマンとかゴジラが好きなので、描かれたものが現れて悪者と戦う、みたいなところがいいなと思って。怖さもあるんだけど、かわいさもあるんですよね」
《雉子政談》は〈雉子のはなし〉と〈かけひき〉という2つの別な話を1つに創作しているんですね。
「どちらの話も、ショートショートのような感じで面白いのですが、落語にするにはちょっと短すぎる。それで、すこし工夫を加えて、1つの話にしてみました。最初に高座にかけたときには、まだ落ちはなく、原作通りの終わり方だったのですが、その後、この落ちを思いついて。初めて演じた高座が、CDに収録されているものです」
今年は、小泉八雲の没後110年。そして『怪談』を発表してからも110年とのことで、それを意識したリリースかと思いきや、「全然知りませんでした」って。でもそこですかさず、「こういう偶然も、因縁なのかもしれませんね」との一言。さすが! ちょっとひんやり、しました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?