第74回：思い出し笑い「祝！桂文枝芸能生活50 周年！」（&ツルコ）
第74回：祝！桂文枝芸能生活50周年！
＊intoxicate vol.131（2017年12月発行）掲載
現在放映中のNHK朝ドラ『わろてんか』主人公・てんは、一代で吉本興業を興した女性・吉本せいがモデル。薬問屋の娘てんと米問屋の跡取りながら芸人を目指す藤吉が出会って結婚。これを書いている時点では、2人が天満にある寄席小屋を買い取り、〈風鳥亭〉と名付けて営業を始めています。
実際の吉本せいも夫・吉兵衛と明治45年に大阪天満宮裏の〈天満八軒〉と呼ばれた寄席の中の端席〈第二文芸館〉を買って寄席経営を始めたので、この天満が吉本興業発祥の地なんですね。その後次々と寄席を買収、若くして夫を亡くした後も女性経営者として手腕をふるい、大阪のほとんどの寄席を手中に。さらに昭和初期、和装から洋装へと変化する時代に、スーツ姿で“君”“僕”と呼び合う新しいスタイルで登場したエンタツ・アチャコが大ヒット、民俗芸能の延長だった「万歳」を「漫才」と改称し人気演芸に育て上げました。
漫才の隆盛とは逆に主流だった落語は衰退気味に。大正期には30軒ほどあった大阪の落語の定席が戦争で消失。戎橋松竹が戦後初の寄席として昭和22年に開席したものの、20年代に相次いで大御所が他界し、32年に閉館します。上方の噺家は18人にまで減っており、この年に上方落語の存亡をかけて上方落語協会が誕生しましたが、演芸の中心は漫才で、落語の定席はないままでした。
平成15年に桂三枝が上方落語協会会長に就任する際、「開かれた協会への改革」「社団法人化」とともに「落語の定席建設」を公約としました。若手時代から人気のあった三枝は、〈ヤング寄席〉の立ち上げなど落語発表の場をつくることにも積極的でしたが、東京の寄席では落語が中心で色物がその間に入るけれど、上方では漫才や新喜劇がメインで落語はその間に挟まれる程度の扱いで、高座の機会が少ないことを痛感しており、“いつか定席を”の思いが強かったようです。会長就任後、すぐに寄席復活のために動き出し、協会、地元、行政と、一人の熱意が周りを引き込んで実現に向かっていきます。大阪天満宮の土地を無償で借りられることになりますが、吉本創業の地でもある天満は、三枝が幼少時に父の勤務先だったことや、師匠・五代目文枝生誕地であるという所縁の場所。そして、寄付した人の名入り提灯を寄席に飾るというアイデアに、6200の市民や企業などから2億4千万円の浄財が寄せられ、ついに平成18年、構想から3年で“奇跡の寄席”天満天神繁昌亭が、めでたく開席！〈 繁昌亭〉の名は過去の定席落語会から引き継がれ、「日を重ねて栄える」という定席への想いが込められてます。
すでに開席から10年以上経つ〈繁昌亭〉に今年初めて行ったのですが、天井一面にびっしりと下げられた名入りの提灯が圧巻！ 高座からもこの提灯は客席とともに目に入りますよね。大きな注目を集めたオープン以降、来場者が多く訪れ、いつでも上方落語を聴ける観光名所にもなってます。そして、〈繁昌亭〉に続く上方第２の定席として、神戸新開地に〈喜楽館〉が来年の開席を予定しており、こちらも上方落語協会会長・文枝が尽力されてます。
先輩師匠たちの落語定席への悲願実現であり、これからの噺家たちの芸の研鑽の場の誕生でもある、60年ぶりの上方寄席復活という歴史的大業を成し遂げた三枝は平成23年「公益社団法人」に移行、平成24年に師匠の名を継いで六代 文枝となりましたが、今も精力的に落語創作を続けており、今年芸歴50周年を記念し、文枝になって創作した落語のDVDがリリースされます。収録は今年春〜夏に行われた「文枝の会」での６席なので、最新の高座を観ることができますよ。
《ロンググッドバイ》は、チャンドラーではなく、アルツハイマー型認知症をこう表現するそうで、認知症が疑われる父親と息子夫婦のお話。《友よ》は70代となった長年の友人同士の温泉での一幕。いずれも高齢化社会を迎えた現代の1シーンを切り取ったような落語で、重くなりそうなテーマですが、軽やかな笑いと温かな眼差しに満ちた作品になっています。
先日、大阪市と吉本興業が包括連携するということで、文枝が大阪市24区の創作落語24本をつくることが発表されました。この夏、富士山頂上で奉納落語会を行い、275作目となる《富士山初登頂》を披露、現在278作ですので、大阪の24作ができれば、ご自身が目標にしている創作300席一気に達成！ですねー。
DVD 『文枝寄席～桂文枝創作落語セレクション～』
Disc1「ロンググッドバイ – 言葉は虹の彼方に–」「大・大阪辞典」「Mango」「友よ」
Disc2「優しい言葉」「喫茶店の片隅で」
[ よしもとミュージックエンタテインメント YRBA-90128（2DVD）]
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