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第79回:思い出し笑い「特撮と落語をマニアックに楽しむ」(&ツルコ)


©円谷プロ

第79回:特撮と落語をマニアックに楽しむ

*intoxicate vol.135(2018年8月発行)掲載

面白い本が出版されました。『なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?』。さん喬にとって喬太郎は初めての弟子、総領弟子で、弟子入りを認めた時のさん喬は41歳、喬太郎は大学卒業後、会社勤めを経た20代半ばでしたが、師匠と弟子として30年経った今、二人に改めて問いかける「なぜ?」。本書は、師匠と弟子としての二人の対談、師匠・さん喬へのインタヴュー、弟子の喬太郎へのインタヴュー、芸に関する二人の対談の4章で構成されています。師匠は弟子を、弟子は師匠をこんな風に見て、考えて、接しているんだということがわかる、興味深い内容です。さん喬の師匠である五代目柳家小さんは人間国宝にもなった名人。その23番目の弟子で若手真打として古典落語の実力を認められていたさん喬に弟子入り志願してきたのは、落研に所属していた大学時代に2つの学生落語大会で優勝し、1つの大会では他の出場者が全員古典落語をやる中、新作落語《純情日記横浜編》で見事優勝した経歴を持つ青年でした。本では、さん喬が初めての弟子に対する思い、個性を潰さずに育てることができるだろうかと葛藤したことなどを語っていますが、小さんからの教えや師匠と過ごした経験なども踏まえた上で、今度は自分が師匠として弟子に落語を継承していくということを、ご本人も悩みながら対峙してきたことが伝わります。落語は型を伝えればいい芸ではないので、自分が師匠たちから教えられた本質は後継の者にきちんと伝え、それに付随するものも提示し、あとはそれぞれ個人が試行錯誤していくのを見守る。師匠になるというのは、人の人生を預かるという重いこと。第2の親子関係なんですね。


 喬太郎は正当な落語を伝えてくれているか、という問いに対して、師匠は「彼は変質させていくと思う」と答えています。その喬太郎が、本の中で「落語以外のものだと、都筑道夫、横溝正史、つかこうへい、赤塚不二夫、あとはウルトラマンとゴジラ。そういったもので僕はできています」と言っているのですが、喬太郎の一部であるウルトラマン、すでに落語になってます。


 2016年7月に行われた「ウルトラマン」放送開始50周年記念のイヴェントで、喬太郎と弟弟子の柳家喬之助がウルトラマン落語を披露。さらに鈴本演芸場で10日間の〈ウルトラ喬タロウ〉興行を企画し、そのマニアックぶりはウルトラファン、特撮ファンをざわつかせました。記念イヴェントでの高座はDVDとしてリリースされ、内容もさることながら充実したブックレットが素晴らしい! 


 そして2017年は、「ウルトラマン」の翌年に放送された「ウルトラセブン」が50周年ということで、6月に鈴本演芸場で〈ウルトラセブン落語〉の落語会が行われ、それがこのたびDVDで登場です! もちろん今回のブックレットも素晴らしすぎの24ページ! 


 喬太郎は《私情最大の侵略》と《セブン段目》(!)の2席で、両方合わせると、ウルトラセブンに登場する20もの怪獣がでてきます。《私情〜》は創作落語ですが、《セブン段目》はご想像通り《七段目》がベースで、芝居好きな若旦那は、特撮好きの設定に。こちらは落語とウルトラセブンの両方をわかっていないとぼんやりしちゃいます。マニアックすぎて、聴き終わった後にウルトラセブンを観て確認したくなるくらい。ウルトラファンで落語に馴染みのない方は、先に《七段目》を聴いて予習しておくといいかも。さん喬も演じているので、師匠の《七段目》を聴いて、弟子の《セブン段目》を聴くと、その変質ぶりがわかるかと(←そういう意味ではないですね。スミマセン)。


 喬之助は古典落語《子ほめ》をベースにした《子ほめM78》、紙切りの林家二楽(「週刊文春」で喬太郎と連載中)は、ウルトラセブン関連お題での紙きりがお見事! 出演者3人ともそれはもう楽しそうで、マニア大受けネタをこれでもかと披露しています。中入り前のトークタイムにゲストでモロボシ・ダン役の森次晃嗣が登場すると、四十路、五十路のおじさんたち大喜び!


 怪獣ごっこをしていた少年が、芸人になって子供の頃から大好きなヒーロー、モロボシ・ダンと寄席で対面するなんて! ウルトラファン、特撮ファンに落語への入り口を開いた喬太郎の功績は落語の歴史に残ることでしょう。


DVD『ウルトラセブン落語』
柳家喬太郎「私情最大の侵略」
柳家喬之助「子ほめM78」
林家二楽「ウルトラ紙切り セブン編」
柳家喬太郎「セブン段目」 
[Columbia COBA-7042]

BOOK「なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?」
柳家さん喬/柳家喬太郎
徳間書店
ISBN:9784198646332

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