第40回:桂文枝復活!
第40回:桂文枝復活!
*intoxicate vol.93(2011年8月発行)掲載
来年の夏、上方落語の大名跡がめでたく復活することに! この7月
11日に所属事務所の吉本興業が公表し、その5日後、68歳の誕生日というおめでたい日である7月16日に上方落語協会会長・桂三枝が東京で記者会見を行い、来年の同日に六代・桂文枝を襲名することを改めてご本人から発表しました。
長寿番組「新婚さんいらっしゃい」(もう40年! 最初の頃の新婚さんはルビー婚式ですよ。続いていれば、ですが)などでおなじみの三枝は、五代目・桂文枝の総領弟子として早くから頭角を表し、実力と人気を兼ね備えた上方落語界の第一人者。古典落語とともに、昭和・平成の古典落語をつくりたいと数多くのオリジナルな創作落語を手がけてきました。2000年になって、独演会「桂三枝の創作落語125撰」をうめだ花月にてスタートさせ、2003年まで毎月3席を口演し、自身が創作してきた125席を高座にかけるという集大成のような落語会を成し遂げました。そのすべての記録が、映像とCDで「桂三枝大全集〜創作落語125撰」としてリリースされたときには、「円生百席」をしのぐボリュームに驚かされましたが、その後もさらに創作は続き、現在では220席を超えたとか! 上方落語協会の会長を務め、揺るぎない大看板となっている初代・三枝ですが、これだけ大きくした名前と別れ、師匠の名前を継ぐことをようやく決心したそうです。この決断のために唯一相談した相手が、師匠の文枝とも縁のあった立川談志。会見では談志から送られたファックスも披露していましたが、そこに書かれていた「三枝のばかやろう」は、きっと談志流の「おめでとう」なんでしょうね。
先代の文枝は、小文枝時代に、桂米朝、笑福亭松鶴、桂春團治とともに「上方落語四天王」として、戦後、勢いが弱まっていた上方落語の復興に力を尽くし、その後、30年以上も空位になっていた大名跡を継いで五代目・文枝となりました。2005年の逝去後にリリースされた「桂文枝シリーズ」全8巻は、80年代前半の小文枝時代に行っていた東京や関西での独演会の音源など、50代の頃の高座が収録されていて、どれも聞きごたえがあり、これぞ上方落語! な充実した内容。「五代目・桂文枝」は、CDとDVDのボックスセット。60年代から、亡くなる前年の2004年に発表した自作の新作落語「熊野詣」までの高座がセレクトされています。「軽業講釈」など、映像で仕草を見られるのはいいですね。上方落語の特徴である、見台(噺家の前に置かれる小さな机)を張り扇や小拍子でパンパンとリズムよくたたいて話すのも、上方の言葉のテンポとよくあって、なんともにぎやかでリズミカルで楽しい。お囃子さんによる演奏「はめもの」が入るのも、上方スタイル。この大名跡復活を機に、改めて五代目・文枝ならではの芸もぜひ聴いてみてください。
先代・文枝が戦後の上方落語を復興させ、さらに次の文枝となる三枝は、途絶えていた上方の寄席を2006年に復活させるなど、師弟共に上方落語界に尽力してきました。来春には安藤忠雄設計による上方落語協会会館がオープン予定で、夏にはこの大名跡の襲名披露ですから、上方落語に注目が集まる2012年になりそうです。
会見では、「新しい平成の文枝になりたい」と大名跡を継ぐ心意気を語った三枝でしたが、最後まで、どこかでイスから落ちてくれるんじゃないか、と期待せずにはいられませんでした。襲名後はどうなんでしょうね? 三枝の名前とともに、イス落ちのギャグもなくなってしまったら、さびしすぎる!
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