【社会起業家取材レポ #08】 地域価値創造チャレンジャーが活きる世をつくる。
SIACの学生が東北で活動する社会起業家の想い・取り組みを取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2018卒業生の五十嵐淳さんにお話しを伺いました!
1. 五十嵐淳さんについて
秋田県秋田市出身。26歳で秋田を出て上京。2016年に宮城県仙台市へ”東北Uターン”。現在は、青森県南部エリアにある人口約1万人の三戸町(さんのへまち)在住。本業では仙台に本社がある会社の会社員として、テレワークでITを活用した地域活性事業に従事。また、フリーランスとして、三戸町及び周辺地域の農家や事業者の販路開拓、商品開発、IT導入の支援などを行う。
2. インタビュー| 事業&これからについて
はじめに、現在の取り組み、SIAプログラムへの参加について伺いました。
● 現在の取組について&SIAプログラムに参加して
Q. SIAプログラムに参加していた当時から、活動や想いは変わりましたか?
A. 活動は変わらないですが、ターゲットの見方が少し変わりました。
2018年度のSIAに参加し、「地域価値想像チャレンジャーが活きる世をつくる。」をVisionに掲げ活動していた五十嵐さん。当時は、青森県三戸町の地で、様々な挑戦を行う地域プレイヤーと地域の方々とのギャップを課題としていました。地域の価値を見出し、最大限に活用することを目標に挑戦する活動を当たり前に応援してもらえると考える地域プレイヤーと、活動理由も何をやっているのかなかなか理解できないために不信感を抱く地域の方々との関係性です。
「あの人はよく動いてるけど何がしたいの?」
「そんなことやって何になるの?」
このように、頑張りを地域の方々に認めてもらえないことが原因でやりがいをなくし、やる気がなくなり、最悪の場合その挑戦をやめてしまうケースもあったそうです。
そこで、五十嵐さんは、
・地域の方々との目線合わせ
・挑戦する機会の提供
・挑戦できるフィールドの整備
を行うことで、地域挑戦者と地元の人たちとのギャップを解消することを決めました。
具体的には、地域資源の新しい価値づくりを行ったり、イベントや講座などを開催し、挑戦者と地域の方々、課題を抱える事業者等の目線合わせを行った上で挑戦者の活動を支援したりしました。60代の農家さんと協力して、三戸のリンゴを海外へ輸出したり、高単価の商品を開発する活動など行ったそうです。
このように、SIAプログラムを通じて、想い・取り組む課題・事業を明確にし、青森県三戸町でさまざまな活動を行ってこられました。そして、活動を続けていくうちに、五十嵐さんはあることに気づきます。
そもそも、挑戦したい人が気軽に挑戦できないことが一番の問題ではないか?
外の地域からIターンで三戸町に来た自分は、三戸町で○○したい!と言葉にするとほとんどの方々が肯定し応援してくれます。それに対し、Uターンで帰ってきた人や地元にいる若者たちが、新しいことに挑戦したい!と言葉にしても「そんなのできるわけがない」などと否定され、古くから続く活動への半強制参加、ボランティアなどの人数合わせに使われるケースが多く、その活動自体を楽しんでいるのかが見えない。そうではなく、挑戦したい人が自由に、もっと気軽に挑戦してほしい。そのような想いから、現在ではVisionを「地域で挑戦したい人があたりまえに挑戦できる世の中」に更新して活動しています。
また、五十嵐さんは「箱」を撤去したいといいます。
「箱」とは、役所の窓口だったり、相談受付だったり、用事のある人がわざわざ足を運んでお願いしに来るような固定の場所のことです。五十嵐さんは2016年に三戸町に来て以来、自分を受け入れてくれた町の雰囲気、地域の方々の優しさ、リンゴのおいしさなど、三戸町の虜になってしまったそうです。その一方で、地域の方々は「三戸町の魅力は何もない」と話す方が多かったそうです。
町の魅力はたくさんあるのに、それが活かされていない
そこで、「箱」の中で挑戦者を待つのではなく、五十嵐さん自身が畑等の現地に出向き、雰囲気や土の様子、作物の栽培方法やにおいに至るまで情報発信することで、三戸町の魅力を「見える化」する活動を行いました。そのような活動をしていく中で、今まで気づかなかった新たな魅力も見えてきたそうです。例えば、カットした断面がきれいなピンク色になっているリンゴがあり、ジュースにすると非常にきれいなことや、青森県ではわざわざ船に乗らなくても海岸から大きな魚が釣れることなどなど。
このように、五十嵐さんは、「箱」を撤去し自らが現地に足を運ぶことで、たくさんの魅力を発掘し、「見える化」しながら、地域の挑戦したい人を巻き込みながら活動を進めています。
Q. 今、一番力を入れていることは何ですか?
A. 地域の人材育成です。
地域には、五十嵐さんのように積極的に活動できる人ばかりではありません。
「挑戦してみたいことはあるけど、勇気が無くて誰にも言えないです…。」
という人がたくさんいます。
そこで、五十嵐さんはMissionを2つ掲げています。
Mission #01 地域で生きるを実践し、次世代の夢の種を増やす。
まずは、自分が楽しい・やってみたいと思えることが大事です。
自分が笑顔で活動することで周りも笑顔になり、「次はこういうことやってみたい」だとか、「どうやったらできるんだろう」と、向上心の醸成につながります。
Mission #02 地域の翻訳家になる
「翻訳家」とは、「見える化」した地域の価値観を「外へ広げてくこと」です。
このMissionに基づき、五十嵐さんは次のような事に挑戦しました。
(取り組み)賞金制のライティングコンテスト
テーマに沿った記事を書き、最も優秀だった記事を三戸町の特設Webサイトに掲載するという企画です。三戸町外から参加者を募り、「三戸町に行ってみたい理由」をテーマに記事を書いてもらいます。予選を通過した人には三戸町に滞在してもらい(滞在費用等は全て事業予算で負担)、「実際に触れて気づいた三戸町の魅力」をテーマに記事を書いてもらいます。記事を書くライターさんの中にはファンを持つ方が多く、ライターさんの活動を一緒に見届けてもらえていたので、一過性のものではなく継続的に記事に関連する情報を見てもらうことにつながりました。
さらに、これらの取り組みを通じて地域の方にも変化がありました。
今までどうしてもネックだったのが、地域の方々の新しいことに対する拒絶でした。ITなど、なかなか触れる機会が無かったものに対しては、使うことを拒んでいました。しかし、五十嵐さんが実際にやって見せることで、「ITはこんなこともできるの!」という感動に変わりました。例えば、今まで紙で扱っていたため間違えたら書きなおしということも多かった資料も、スマートフォンを用いたレジを導入することで、楽に扱えるようになりました。データ整理も楽だし、文字も大きく表示できるので、周りの住民からも「使ってみたい!」という声があがってきました。
まずは、自分が楽しんで活動することで、周りの人も活動しやすくなります。そのようにして、五十嵐さんは様々な人を巻き込んで三戸町の魅力を外へ発信しています。
Q. 地方創生への一番の課題は何ですか?
A. 挑戦することをためらわせてしまう田舎独特の環境です。
地方において挑戦をためらってしまう要因について、五十嵐さんは次のように語ります。
都市部:コミュニティが狭すぎるということがないので、ある程度自由に挑戦でき
る。失敗しても、噂になって広まったり、住みにくくなる事はない。
地 方:コミュニティが狭いため、突飛な事をやろうとすると、白い目で見られ
る。失敗すると、すぐに広まり住みにくさを感じる事もある。
「一回失敗したら、挑戦しなくなる環境」ではなく、
「七転び八起ができる環境」を作っていきたい!
五十嵐さんは、この課題を解決するために、地域の人が挑戦する人を応援する環境を作ろうとしています。そのために、何かに挑戦しようとしている人に、町民のみなさんの前で思いを発表する機会の提供をしています。ただ発表するのでは無く、町民の皆さんからのフィードバックをもらうことで、挑戦する人はより良いアイデアにすることができます。また、地域の人に挑戦したい事を知ってもらうことで、地域の理解も得る事ができます。
この一連の流れで、挑戦する人には小さな成功体験(人前で発表する事)と、地方でもやりたいことに挑戦できるという先行事例を提供したいと五十嵐さんは考えてらっしゃいます。
Q. 五十嵐さんの考える、地方に暮らす事の価値は何ですか?
A. 可処分所得が増えること。そして、ストレスフリーな生活です。
それぞれの価値について、次のようにおっしゃっていました。
(地方に暮らす価値①)可処分所得が増える事
地方では、地域の方々に農作物や使わなくなったものを譲っていただける機会が多くあります。収入は減っても、可処分所得は増えることがあります。
(地方に暮らす価値②)ストレスフリーな生活
満員電車に乗ることも、無機質な建物に囲まれて生活することも地方ではほとんど無いです。人込みが苦手な人、自然を身近に感じて生活したい人にとっては、都市部よりもストレスの無い生活ができます。
続いて、五十嵐さんの働き方「パラレルワーカー」について伺いました。
● パラレルワーカーの活動
パラレルワーカーとは、複数の仕事やキャリアを持つ労働者のことです。五十嵐さんは、株式会社コー・ワークスと、個人事業主との2つの仕事をしています。株式会社コー・ワークスでのお仕事は、ITコーディネータとしてITの知識を用いて、フルリモートで本社や顧客と事業計画や企画を考えながら地方自治体での仕事を行っています。例えば、秋田県鹿角市と協働でIT人材育成事業を行っているとのこと。また、個人事業主のお仕事は地域の困りごと解決や、挑戦の支援を行っています。他にも、三戸町と日本全域を繋ぐ情報発信を行っているといいます。事業を2つ抱えていたら「仕事が重なる」などの難点が考えられますが、五十嵐さんは、「苦労したことは全くなく、むしろ良い感じに合わさる」と仰っていました。
Q. ITコーディネーターの資格を取った理由は何でしょうか?
A. 会社の要請でした。
ITコーディネーターは、経営者などに対しIT知識を用いて助言するための資格です。会社の要請で資格を取ったそうですが、その勉強は大変だったとのこと。「資格自体の重要性は現在それほどありませんが、ITに関しての知識は大事なので覚えておくべきではあると考えています。」と仰っていました。また、経済産業省が取得を推進している資格でもあるので、対外的な信頼度が上がるというメリットはあるそうです。
最後に、私たち大学生に向けてコメントをいただきました。
● 大学生に一言
大学生の間にいろいろな経験をしたり、話を聞いたりすることで自分が「やってみたい!」と思える仕事を見つけることが良いといいます。ただ、「大人になっていろんな仕事に就いてからでも、やりたい仕事を見つけるのが遅いといったわけではない」とも話します。五十嵐さん自身、最初はオフィスだけで仕事が完結できるような職種に就いて活躍もしていましたが、何のために仕事をしているのかとストレスを感じて仕事を辞め、現在コー・ワークスで働いているそうです。「今は仕事を辞めても後ろ指を指されにくい世の中になってきているので、例え在学中に本当に就きたい仕事が見つからなくても、入社後に探し出せるチャンスが多くあります。他にも、ネガティブなことは恐怖(ストレス)に繋がるので、ネガティブなことは切り捨てて、ポジティブなことだけを取り入れることが大事です。」と温かい後押しをいただきました。
3. 編集後記
この取材は、渡邊真佑、杉峰正悟、檜山大輝が行いました。
最後に、取材を終えてわたしたちが感じたことや気づきを書いていきます。
■渡邊真佑(宮城大学3年)
五十嵐さんの生き方に憧れました。自分が楽しいと思える仕事を見つけ、生き生きと働く。そして、好きなタイミングで趣味の釣りをし、みんなでお酒を飲む。まさに、人生をめちゃくちゃ楽しんでいる人です。これだけ聞くと、本当にちゃんとした人なの?と思う方もいるかもしれませんが、五十嵐さんの仕事は働いた時間ではなく「成果」で評価されるのだそうです。また、仕事をこなすだけではなく、「住民さんの感謝」も成果の大きな要素となっています。私は今就活をしていて、どんな企業に入ろうか迷っていましたが、五十嵐さんのこの生き方を見て、まずは「なりたい自分を想像してみよう」と思うようになりました。理想の生き方は人によって違います。自分はどんな暮らしをしてどんな人生を送りたいのか。五十嵐さんも三戸町と出会ったのは40歳くらいのときだとおっしゃっていたので、私も焦らずに、小さなことから考えていこうと思えるきっかけになりました。
■杉峰正悟 (東北大学4年)
将来、漠然と地方暮らしをしたいと考えていたので、今回の取材はとても貴重な話が聞けたと思っています。特に、活動を続けていく中で、課題が別にあると感じてターゲットを変えたというお話が印象に残りました。活動していく中で、気づいていく部分も多々あると思うので、最初から完璧じゃなくてもいいから、活動してみるということが大切なのだと気づかされました。今後、リモートワークが普及して五十嵐さんのように田舎暮らしを選択する人が増えてくると思うので、そのように考えている人達にこのインタビュー記事を見つけてもらえたら幸いです。
■檜山大輝(東北学院大学2年)
取材をしていて1番印象に残ったことは、五十嵐さんが仕事をお金稼ぎで行うというよりも生活の一部として行い、楽しく生活することが前提だと感じられたことです。自分に合った仕事を見つけ出すことは難しく思いますが、五十嵐さんのように楽しく生き生きとした暮らしを行うことは絶対参考にしたいです。最初は事業を2つ行うことは困難に思っておりましたが、実は全くそうではないことを知りました。そして同時にリモートでのお仕事が増えたことによって選択の幅が増えたのではないかなと考えました。僕は地方創生に関する仕事が気になっていて、今回の取材で地域の方々との接し方や信頼が何より大事だということを学ぶことができてよかったです。これから様々な勉強や経験をして、地方でも活躍していきたいと考えています。
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マガジンはSIACプログラムに参加する大学生が執筆しています!
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