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膝で階段を駆け降りて
はじまりはちいさなことだった。
「放っておけばそのうち治る。」という私に、あなたはいつも必要なものをくれました。
荒れ果てた手も、傷だらけの足も、頑張っている証拠だと言ってくれました。次々とできる痣を、空に浮かんだ星をなぞるかのように丁寧に撫でてくれました。
「頼れるものには頼ればいい。」と、緑や水色の軟膏薬を出してくれたこともあったね。その方が早く良くなるからと、傷痕が残りにくいからと。
仕事柄だと言っていたけれど、全部優しさだったの知ってるよ。お風呂上がり、必ず用意してくれるそれに、何度も助けられました。
おかげで全てが意味のあるものに思えたし、認めることができました。そして、美しいという語の言意を考えるようになりました。
軟膏薬あげようか?って、そういうことじゃないんだよ。あなたの代わりはいないから、あなたの代わりはいらないから。
私のどんな傷にも対応できるあなたは魔法使いだったんじゃないかと、今でも思います。人を思いやる気持ちと愛することに長けているあなたはきっと、また愛してくれる人に出会えるよ。
だからもう、寂しい顔しないでね。
両膝にできた大きな痣は、星というには無理があって。月と太陽を勝手に背負って生きているつもりだったけれど、あなたの前ではどちらもその手に覆われて見えなくなってしまいました。私にとってあなたは、それくらい大きな存在だったんだよ。
膝から伝わるあなたの体温が気持ち良くて、同じ速度で消えていく2つの痣に名残惜しささえ感じました。朝よりも夜よりも、私が一番生きていたのはあなたとの時間でした。
何もなくなったまっさらな両足を放り出して、何もなくなった真っ暗な空の下で泣いてくれるのは、月がいなくなった星たちと太陽がいなくなった雲たちでした。
もう関係ないけれど、どうでもよくはないみたい。
両膝が丸ごと開いたデニムから覗く私の体の一部を見ながら書いたお手紙。「相変わらずおしゃれだね。」というあなたの声が聞こえてきそうな薄明の空の下からお届けします。
これはどこかとおーい、よそのうちゅうのはなしだよ。わたしたちのちきゅうではこんなことはないよね。
まさか、まさか、まさか
ね。
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