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「魔法が解けたあと」公募インタビュー#28

(みなとさん 2020年12月中旬)

みなとさんは、ご自分のこれまでや考えについて整理できたらということで応募してくださいました。
ご自身の中で大きなウェイトを占めるお仕事の話が中心となりましたが、何のご職業かは伏せております。その理由の一部は本文の中に。読者のみなさまも、ご想像の内に留めていただけたら幸いです。

求められる自分を答えてきた

──これまでのことを整理してみたいと思うきっかけが何かおありだったんですか?

みなとさん(以下、ミ) 自分が取り組んでいた大きなことがひと段落したタイミングだったのですが、これからどうしようか考えたり、何かやらなきゃいけないんじゃないかなと思いつつも、日常が忙しくて(進まなかった)。それでご連絡してみたんです。

 私、職業柄、人に取材していただくことがあって。コンスタントに取材されることを重ねるうちに、(取材者が)ほしがっている答えを言うような人になっちゃったんですよ(笑)。素の自分として素直に答えるとあからさまに相手ががっかりしたり、メモをとらずに「ああ……」みたいな感じで終わられることもあるし。
 取材に来た方があらかじめ穴埋めみたいな原稿を作ってきていたこともありました。その人の書きたいことはもう決まっていて、私が答えたことをそこにはめるだけという状態ですね(笑)。

 私は小さい頃からちょっと優等生気質なところがあって、先生がほしい言葉を言っちゃうみたいなことがあったんですけど、想定外のことを聞かれた時に素の自分で答えたら「あ、は〜い」って感じで流されては、あ、これだめなんだなと思ってまた軌道修正を繰り返して……という感じです。

 それで、一度フラットな感じで自分を振り返りたいなと思いました。
 
──そういった取材後に記事を読むとどう感じる?

ミ なんか、自分のことじゃないみたいで。職業のイメージで「この仕事の人って、すごい!」みたいな、誰にでも当てはまりそうな書き方で。私は自分のだらしなさも知ってるし、すごく普通の人間だなって思うんですけど、「仕事に向かって一心不乱にストイックに」、みたいなニュアンスできれいに書いてあるんですよ(笑)。

 美化されてて、自分もインタビューされた時にかっこいいことを言わなきゃなっていうプレッシャーがすごくあります(笑)。本当の答えを言うとたぶん相手はがっかりするんですよ。実際の何倍も仕事のために努力しているようなことを言わなきゃいけなくなって、インタビュー用の自分と本当の自分がすごく離れちゃった

 その積み重ねで、プロジェクトをご一緒することになった外部の方もそういった記事を見てあなたはすごいですよね!って感じで来てくれて、困ってしまうようなことがよくあります。
 今は全部素直に答えたくなってしまって(笑)。 

夢を叶えたら、向いていなかった

ミ 人が私に聞く時に求めるのは、「ずっと仕事のことを考えている」みたいな姿なので、実際に自分が仕事に対してどう思ってるか、本当に素直なところって人に言えなくって……

──実際には仕事のことをどう思っている?

ミ 私は、その仕事に就くと決めてからずっと努力して、そして実現して。その後も数年間死に物狂いで、それこそ1日10数時間練習を重ねて、実力もついてきた感触があったんですけど、そんな中、だんだん、人生が進んでいかない感覚を覚え始めたんです。

 1日10数時間も仕事に向き合ってたら、誰ともごはんに行けないし本も読めないし、自分の人生ってこのままなのかなーみたいなところでメンタルを病んでしまって。それから数年間はいわゆる燃え尽き症候群のような感じでした。でも仕事は途切れずやるべきことはあるし、取材ではキラキラした自分を求められ続けて。
 
 夢を叶えて何年間も努力し続けて、数年前、やっとこの仕事に向いてないことに気付いてしまったんです。だけど言えないじゃないですか(笑)、誰にも。なので、そこから割り切ってしまいました。

 自分はもう仕事で上を目指すような気持ちはないんだけれども、周りの人は私がまだ輝いていると思っていて、それが苦しい、そんな状態です。

魔法が解けて/人生を取り戻す

──仕事においてレベルを上げていくことはもう目指していない?

ミ 仕事の最中に、自分のどこを探してもモチベーションが見つからなかった瞬間があって、絶望しました(笑)。その時は。

──やる気が起こらないという感じ?

ミ 自分に対する自分の解釈なんですけど、私、思い込みが激しいタイプで、その仕事のことを知ってからそれしかなかったんです。地元を抜け出したかったし、将来の夢1つだけにしがみついて全部やってきたんですね。地元を離れるために大学にもがんばって入って、その職業が合っていると自分に言い聞かせて努力して、本当に就職してみて、魔法が、暗示が解けてしまった感じ。でも、もうなっちゃったしどうしよう?って思うじゃないですか(笑)。

 で、親にいろいろ聞いたら、昔から好きで目指してるようにも見えなかったし、その職業になるとも思ってなかったよ?みたいに言われて(笑)。もともと性格的に向いていないというか。今はどっちかっていうと小さい頃の性格に戻りつつあるのかもしれないです。

 (仕事に就いてから死に物狂いでがんばった数年間は)視野がすごく狭くて、でもそれって上を目指すとなるとある程度は必要だとは思うんですけど、でもほんとに何も見えてなくて、その間の記憶があんまりないんですよね。ストイックにしすぎて。

 人生っていろんな楽しいことがあるじゃないですか。でも(その数年間は)メイクもしなかったし、娯楽と言われるものは全部悪だ!って思ってたんで、自分が何が好きかもわかんない、みたいな状態まで行っちゃったんですよね。
 だから、あきらめてからの方が楽しい……いや、あきらめたというか……。
 
 (人生における楽しいことを)取り戻している作業が最近ようやく終わりに近づきつつあるんですけれども。

 ただ、自分でもそういうことにしたいのかなって。だって人生のうちたくさんの時間をかけてきたことから離れるから、防御本能的にもともと自分に合っていなかったと思いたいのかな、本当はどうなんだろう?って思っちゃうところはあります。

 でも、(自分に合っていないにしても)結局仕事からは離れられないんです。

──そうなんですね。

ミ この仕事しかやっていないので、転職先がないんですよね。よくつらくなると転職サイト見てるんですけど(笑)、雇ってもらえるのかな?って。

 まあ、自分の心としては区切りがついていますが、私は普通にばりばり働いている人たちと一緒のラインにずっといることはいて、それなりに実績も出しているんですけど……

 ただ、区切りをつけてから数年経っているので、自分の中では、もう(上を目指す気持ちは)戻らないんだろうなあとは思っています。

仕事仲間・業界への絶望

──そういう状態になってからも、そのお仕事自体は好きなんでしょうか。

ミ なんか……わかんなくなってしまって。

 仕事の核になる部分に対しては純粋な気持ちみたいなものはあるんですけど、私の仕事は人との関わりが必須で、同業者がどうしても視野に入ってきちゃうんですよね。でも、その人たちの価値観は私にとって尊敬できるものではなく、非常に違和感を覚えるもので。当然のように男尊女卑だし、セクハラがセクハラとも思われていないような感覚。ハラスメントがあっても、言うあてもない。それに業界内では、仕事の実力がないと発言権はないんです。

 業界内の人と外の人の感覚が違いすぎて、怖くなってくるくらいです。

 なので、私はたぶん仕事の内容自体は好きなんですけど、取り巻く人間関係が無理。という感じがあります。
 
──今のところ内部からそれを問題視して変えていこうという動きはない?

ミ ない、ですね。これからよくなる未来がまったく見えないです。これまで、いろんな人のいろんな言動でショックを受け、失望してきました。私も始めた時からいろんな目に遭ってきたので、はあ……(ため息)みたいな絶望が同業者に対してありつつ、業界をよくしようと戦えるだけの愛はもう残ってない、って感じですね。
 
 (業界は)実力重視なので、どれだけ人間性に欠落があっても、倫理的にどうなんだろうという言動があっても、実力があればオッケー!、どんなにひどいことを私が言われていても、この人実力があるから何の問題もないよー、とされてしまうような世界です。うーん、愛せないです(笑)。(業界の中で)すごく変な噂が広まったりも多いので……そこにいる人たち誰も好きになれないな(笑)って思います。

 何かしら犠牲にしながら仕事に打ち込んだら、どこか歪んでしまうのはしかたがないのかもしれないんですけど。人間的にアンバランスなんですかね。

──みなとさんはどうして同業者の方々と違って広い視野で見られるようになれたんでしょうか?

ミ どうなんですかね……なんか自分が、どっちかに振り切れていたらよかったなって思っていて。周りが見えないくらいずっとこれだったら(集中して視界が狭まっている仕草)誰を傷つけてても見えないじゃないですか。そのまま突き抜けていって、許されるぐらい実力をつけちゃえばよかったんです。周りを踏みつけても何も言われないほどになれればよかったんですけど、中途半端に、これからという時に下手に周りが見えていたので。例えば気遣いがなくても実力があれば許されるんですけど、一度気が遣える人だなって思われたら、いつも周りが見えないといけない。(周囲との)バランスの中で、周りが見える方に流れちゃったんです。
 なのでなんか、うん……見えなかったらどうだったのかなって思います。(いっそ)偏った人間だったらよかったなあーっていう(笑)。

──今のわかっている状態より、そこまで突き進んだ方がよかったですか?

ミ いや……誰かを傷つけて上にいるよりは今の方がいいですよね(笑)。自分が傷つけられてる方がまだ許せるというか、うん……そうですね……。

 突き進んだであろう自分はどれくらいの実力でどんな感じかは想定しているんですけど、でもやっぱり今の自分の方が好き、ですね。うん。

 だから、今はあんまり実力は高くないけど、総合的に人間としては幸せだし、あと、以前うまくいかなくなった時に相当不安定になって精神科に通ったり、胃も悪くしましたし、過食嘔吐みたいな感じになったり、眠れなくて薬をもらったりもしてたので、そのまま進んでたらどうなってたか(笑)って思います。たぶん、相当やばいことになってたと思うので、そういう意味でも向いてなかったなって。自分はそこまで耐えられる体でもなかったし、耐えられるメンタルでもなかった。

好きなことは好きなことのまま

──プライベートで好きなものを取り戻し始めて、バランス的に今どんな感じですか?

ミ 今……そうですね、この数年で好きなものもだいぶ増えて。昔好きだったものは仕事を目指し始めたときに全部やめたんですが全部まだ好きで(笑)。ずっとやれるわけないと思っていたことも、急に「あ、やろっかなー」と思い立って習い事として始めました。最初に言った、ひと段落した大きなことというのも習い事のイベントで、その後も継続して通っていて充実していますね。
 (今までの生活全体を)トータルすると今が一番楽しいです。

──習っていることの比重を増やしていって、いずれお仕事にするようなことは?

ミ あー…いやー……それはなくって。ずるい考え方なんですけど、私は今の仕事で普通に生活していけるだけのお金を得ていて、その安定感のもと習い事をしてるんですよね。でも周りを見てると、その(習い事の)道でプロとして食べていきたい人は一生懸命バイトをやりながらクラスに来ていて。仕事をするようになってもバイトを続けている人もいるし、下積みの話とか読んでも、この世界で食べていくのは私には無理。と思います(笑)。他の人がどうとかじゃなくて、さすがに自分にはその仕事は無理とも思うし、どこかの段階でその習い事に対しても折り合いをつける日が来るのかもなっていう気持ちでやってます。

 (同じ習い事の場で)年下の人たちが人生に折り合いをつけて去っていくのも見てて。今の自分の仕事も、かつてそれで食べていこうっていう思考になってその世界に来ましたけど、だめだったから(笑)、好きなことで食べてかない方がいいんじゃないかなって今は思ってます。いつでもやめられる位置にいたい、っていう(笑)感じです、かね。

──やっぱり本業は今のお仕事で。

ミ そう、ですね。突然無職は無理(笑)なのと、核になる部分の仕事の他に、そこから派生したような仕事もいくつかあるんですね。それが全部自分の立場から来る仕事かはちょっと判断がつかないんですけど、誰も私がやめたいと思ってるなんて知らないので、かなり先を見据えた、ずっと続くような仕事も多くさせてもらっています。派生した方の仕事は好きで、やっていきたいなあと思いますね。

 それに、仕事の核になる部分も、やっぱり嫌いじゃないんですよ。うまくいってもいかなくても、嫌いじゃないんです。ただその部分で上を目指すために時間を使うのが無理だなと思うだけで。なので、嫌な仕事を的確に回避して自衛しつつ、できることはやっていきたいなーっていう感じなんですね。

ズレはあっても/職業を明かすと遠くなる人間性

ミ 自分はこの業界の中だったら割と普通の人寄りのポジションなんですけど、外の世界ではたぶん、ズレてるんですよ。どっちでもスタンダードじゃないっていうか。なので、転職しても働けないだろうし、この業界にいてもズレがあるし(笑)、仕事的には自分はどこにいる方がいいんだろうっていう気持ちはありますね。

──どちらにもズレを感じるというのは、嫌なことですか?

ミ 嫌ではないんですけど、モデルケースがいるわけではないので、全部自分で決めてかないといけなくて。例えば転職だと、人生の節目で辞めてまったく違う職業に就いたり、結婚を機に仕事のしかたを変えたり、といった人がいる感じなんですけど、自分の場合、何だ?(笑)っていうのはあるんですよね。

 なのと、自分は思い詰めやすいところがあるので、できるだけゆとりを確保しつつスケジュールをこなすようにしていて、(異業種の)友達が朝から働いてるレベルで働けるか?って言われるとそれは無理なんじゃないかと(笑)。
 まあやってみたらできるかもしれないですけど、この(今の仕事しかしたことのない)経歴で普通に働かせてもらえるところがあるかなっていうのもある。もしバイトをしてみようかなって思った時に、履歴書になんて書いたらいいのかな?って思って。それで自分はどうやって普通に生きていこうか?って思うことがあります……うん……

──普通に生きるとは?普通に生きたいということ?

ミ 普通に生きたい……うーん。自分のことをスタンダードだとずっと思っていたんですが、「変わってるね」とはよく言われるんです。職業柄というのもあると思うんですが。でも自分って本当に変わってるのかもしれないということを受け入れ始めたのはここ数年で。
 
 普通に生きたいとは思わないんですけど、今の仕事の業界で見てきた「この人普通じゃないよ!」と思うような、突拍子もないズレみたいなのは自分の中にはないものであってほしい、という意味で普通に生きたい。突拍子もなく人を傷つけてたりしたくないなみたいな感じです。

──私がこんなこと言うのはあれですけど、みなとさんはとても真っ当な感じが。

ミ よかったです(笑)。
 何の職業かを言うと、それまで普通に話してくれていた人も、あがめてくるまではいかなくても「すごいですねー!」みたいな感じで来るので、職業を言った瞬間、自分を職業でしか見てもらえないのがあって。そうすると人間性にたどり着かないじゃないですか。今日は貴重な時間を過ごしてます。人として接されてる感じがします(笑)。

 大体、職業を言うと、「え、その仕事ってどんな感じなの?どれくらい稼げるの?」とか、職業の話ばっかりになってしまって、それまで日常会話してたのがどこに行ったのかって思ったりするので。今後出会う人、みんなそうなのかなって思っちゃいます。そうなると友達になるのが難しくなりますね。
 それに、自分が職業を言ったらそこから仕事モードにならないといけないことがあるので、(その人との会話が)この場限りと思ったらできるだけ言わないですね。

呼び覚まそうとする(?)声

──お仕事とか習い事とか好きなことのバランスは、これからも今の感じでやっていこうかなと?

ミ そうーですね。自分を追い詰めるとあんまりよくないのがこの数年でわかったので、このバランスでやっていきたい、やっていけたら一番いいですかね。
 
 ただ、元々は自由な感じでゆったりと生きたいタイプだったとは思うんですけど、一回ストイック期を数年はさんでるんで、今の生活に対して、たまに根っこの方でめちゃくちゃ罪悪感っていうか、こんなに遊んで幸せになれると思うなよみたいな(笑)ことを自分で思う時があって。ストイックな時期には楽しいことは悪だと思っていて、それがたまに疲れた時なんかに出てきますね。世間のみんなはがんばってるのにお前は遊んでばかりいて、だから結果を出せないんだよーみたいな(笑)。

──その罪悪感についてどう思いますか?

ミ うーん……正直、もしかしたらその感情の手をとって、ストイックな方にまた自分が戻る日が来るかもしれないという可能性を感じるのと、そのストイックさって実はそんなに正しくないんじゃないか、今の私の方が正しいっていう気持ちが、どっちもあります。
 
 この業界にいる限りまたもう一回やろうと思うかもしれないし、そうじゃないかもしれないんですけど。
 
 その罪悪感に対して意味を見出しすぎちゃうんですよね。私を呼び覚まそうとしている?ぐらいに(笑)思っちゃう時があります。やっぱり戦っていかないとだめかなあ?みたいな。でももうしんどいんだよなあ、ストイックにやるの。だって(取り戻したのは)全部好きなことなのに全部やめるの?みたいな気持ちもあって、って感じですかね。

自分会議─5人いる

ミ 私の頭の中にはいつも自分が何人かいるんです。何か1つの出来事があった時に、5個ぐらい自分の意見が出るんですよ。で、それが戦い合ってすごく迷っちゃうんですよね。他の人だとそういうことはそこまでないらしいって最近聞いて。こういう私はこう言うけど、昔の私の考えてることはこうで、でも、こういう考えもあるし、って全部自分の意見なんです。それが一度に来るんで、どうしよう?人に決めてもらおっかなって思うぐらい悩んじゃいますね(笑)。

──5つあったら悩みますね。最終的にどうするんですか?

ミ その時々で違うんですけど、例えば疲れてる時の決断なら、じゃ、この声とこの声無視してよしみたいなのがあって。疲れてると出てくる「ひがみの自分」(笑)みたいのを無視して、小さい頃の自分の人格に近いところで選ぶことが多いですね。直感っぽいところですかね。

──5人の中でも、選択する役割の人がいるんですか?この意見を採用しようと。

ミ 今の自分、みたいなのが選びますね。

 例えば、今だと自分自身に対する認識については、自分を肯定する自分が一番近くにいて、でも大人になってきて世間を知った客観視の自分が「そうでもないよ」って言って(笑)、さらにその中でも大人として自分を調えてきた自分が「ま、でもよくやってきたし今後もやっていけるよ」って言ってくるみたいな感じです。自意識に対してはそんな感じで、距離感が違う自分がいる。

 他には、揉め事があった時だと「自分はこう思います。でも相手はこう思ってるかもしれないよ」って言ってる自分がいて、「でも相手は自分がこう思ってることでさらにこう思ってるかもしれないよ」って(笑)、どんどんマトリョーシカみたいに外側に外側に、視点が違う自分がいて。

 なので脳内がうるさい時もありますね。人にほめられた時に「ありがとうございます」って純粋に思う自分と、世間に揉まれてしまって「いや、あの人そう言ってるけどとりあえず場を持たせただけであの言葉に意味はないよ」っていう思考も自分の中で同時にあるんです。「でも、あえてそこをわかった上でほめ言葉を受けとろうよ」っていう自分もいて(笑)、めんどくさいんですよね。

 そういうことってみんなないんですか?

──瞬時にいろんな感情が湧くことはあるんですけど、私の場合は明確な1個1個って感じじゃないですね。混ざり合ったマーブル模様のようになっている気がします。

 1人ひとり明確に意見を言ってくれるんだったら頼りがいありそうな感じがしますけども。

ミ (笑)どれも同じぐらいの強さで主張してくるので、えー!?みたいな困惑が(笑)ありますね。

──それでも、脳内で瞬時に話し合いを終わらせて判断していくわけですか?

ミ それが、人と普通にしゃべってる時はそうでもないんですけど、突然人に何か言われた時は5人ぐらいがパッて出てきて、そして全員黙るんですよ(笑)。全員黙るのに出てくんなよ(笑)みたいな気持ちになるんですけど、全員が出口から出ようとしてる感じになって、結局(言葉として)出てこなくて混乱するパターンもありますし。
 
 複数の感情がいろいろ出てくるのは何か物事があった時だから、1人になって、ちょっと時間をとってひたすら戦わせて(笑)。長く時間をかけていい場合は言い分を全部言ったり、母に電話して、私はこう言ってるんだけど、でも私はこう言ってて、みたいな(笑)混乱した話をします。

──お母さんもそういう感じなのはわかってる?

ミ 母は、自分もそうだったけど妊娠したらなくなったって言ってました。「子供を産んだらそんな暇はない。脳内はうるさくなくなるよ」みたいな、無責任なことを言ってきます(笑)。

母と2人でガラパゴス?

──お母さんとは仲がいいし、理解してくれているんですね。

ミ そうですね。ステイホーム期間は母とよく(電話で)しゃべりました。

 母には何でも話せるんですけど、2人の共通認識でずっとしゃべっていると、2人だけの思考がガラパゴス諸島みたいな感じで育っちゃって、実は世間とズレていたり、その思考がすごく差別的なものだったりするんじゃないかって怖くて。というのもあって今回応募したのもあります。

 母とだけじゃ、2人だけの世界になってしまうなって。依存関係ってわけでもないんですけど、ジェンダーの話とかわかってもらえすぎてしまうので。仕事の話とか、業界内のひどい話はいろんな人に言えない話なだけに、偏っていないかなあと心配になりますね。

 とりあえず今回、他の方に話してみて、自分が盲目的に私の考えは絶対正しい、みたいな気持ちになってないか、は知りたくはありました。

最後に/みんな楽しかった

──インタビューで求められている答えを言うようになっちゃったっておっしゃっていましたけど、今日はそうじゃない話はできましたか?

ミ できたと、思います。さっきの「自分会議」の話でも、話をそろそろまとめた方がいいかなみたいな(笑)インタビュー慣れしてる思考が出てきたんですけど、その時も思い切って自分が話したいことを話せたので。
 あと、優等生的にインタビューを受けると脳が勝手にしゃべってくれるので、「あ、そうですね(キリッ)」みたいな感じで(笑)しゃべってればいいんですけど、今日はちゃんと考えながら…自分がしゃべることで、自分がどう感じるかも見ながらできました。

 ここまで気持ちを整理できていない状態で話すことがあまりなかったので、有意義だったというか、なんか楽しかったです(笑)。

 仕事の話をした後はいつも居心地が悪くて。おんなじ人間だし大してそんなに変わらないのにすんごいあがめ奉られて、それに合わせてちょっとかっこつけちゃう自分、みたいなのがあるんですけど、割といち人間、みたいなとこでいけ、た、なーと思います。

 長時間すごく楽しかったです。あの、ちゃんと“全員”楽しかったって言ってます(笑)。

──(笑)よかった。ありがとうございました。

(終わり)

※インタビュアー田中の発言の前には──がついています。

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