「おばあちゃんの話」5/5 私の大好きな人|公募インタビュー#31

まきさん(仮名) 2021年9月初旬〉

・・・4/5 悔いはない。ただ会いたい からの続きです・・・

牧さんは、大好きなお祖母様おばあさまのお話をしてくださいました。お別れから3年が経とうとする今も、寂しくて死を受け入れられないと言います。やさしくすてきだったお祖母様との思い出や、牧さんとのつながりが引き寄せたようなめぐりあわせの数々。時に笑い、時に涙声になりながら語ってくださいました。

おだやかでマメで向上心旺盛で

──お祖母様の性格は?こんな人だった、と表現するとしたら。

牧さん えっと、うちの旦那は、「絵に描いたような理想的なおばあちゃん」って言ってました。
 
──へえー

牧さん なんか旦那のおばあちゃんがちょっとファンキーなんですよ。

──(笑)はい。

牧さん なんかぶっ飛んでて(笑)、今も彼氏いるみたいなおばあちゃんなんですけど、だから、旦那としては、逆に、うちのおばあちゃんのほうが“僕が思ってた理想のおばあちゃん”って感じで、おばあちゃん大好き、って言ってましたね。

──おだやか、とか?

牧さん そうですね、おだやかですね。私が反抗期の時におばあちゃんちに入り浸ってた時も、わーって怒ることもなかったですし。あ、でも、ちょっと怒られたりはしますけど。私がずぼらな性格なんで、お風呂に入りなさいって言われてもパッと入れなくて、「もうちょっと、テレビここまで見たらー」とか言ってたら「はよ入らんとお湯冷めるけんね!」とかは言われてたけど、本当にそれぐらいで。なんかベラベラ偉そうに説教したりとかそういうことはなかったですね。ほんとなんか、控えめでやさしいおばあちゃんでしたね。

──お料理も上手だし、働き者で、でしたよね。 

牧さん ただ、うちのお母さんが言うにはですけど、昔はめちゃくちゃ怖かったらしいです。昔はすっごい厳しかったし、勉強しなかったらめちゃくちゃ怒られてたって。家でお針子さん雇って洋裁の仕事をやってた時も厳しかったって。で、家事は全然できないっていうか、ごはんもすごい適当だったみたいです。

 けど、おじいちゃんが病気で倒れる前、転勤で東京に住んでて、その時はもう娘二人とも家出てたんで、家にはおじいちゃんとおばあちゃんだけになって時間ができたみたいで、その時期に東京で料理教室に行ったそうです。それで洋食がすごくうまくなったって言ってましたね。どっかの大使館で働いてるフランス料理の先生だったかに習ったって言ってました。

──向上心がおありですね。

牧さん そうなんです、おばあちゃん、本当に向上心がすごくて。おばあちゃん、料理とか編み物とか、晩年すごく好きで本をたくさん買って置いてあったんですけど、それだけじゃなくて、新聞にも時々、ちょこっとレシピが載ってるじゃないですか。「クリスマスのおすすめレシピ」とか。ああいうのを切って冷蔵庫に貼ってて、ちゃんとその料理を作るんですよ。

 驚いたのは、私が高校生の時に、おばあちゃんがクリスマスに、今日は新聞のレシピをちょっとアレンジして作ってみた、って言って出してきたのがミートローフだったんですよ。「新聞にはゆで卵を中に入れて焼くと書いてあったけど、うずらの卵とギンナンにしてみた」って言って(笑)作ってくれて、それもすごいおいしかったですね。

 あともう一個新聞のレシピで覚えてるのが、ポークソテーのリンゴソース。なんかリンゴソースって家で作るにはちょっとハードル高い気がするんですけど、おばあちゃんは「食べたことないけん、どんな味かわからんけど、まあ書いてある通りに作ってみた」って、リンゴからソース作って。それもびっくりしましたね。

──洋食がお得意だから、そういう洒落たものも挑戦されるんですね。

牧さん はい。私、ちっちゃい頃からおばあちゃんに料理を教えてもらっていて、遊びに行った時位は一緒にホワイトソースを手作りしてグラタン作ったりとか、シチュー作ったりとかしてました。ケーキも一緒に焼いて、教えてもらったりとか。

 おばあちゃんのレシピの中で一番好きだったのは、カルピスを使ったゼリー。カルピスと牛乳を混ぜて、そこにみかんの缶詰入れて固めて。

──おいしそう。

牧さん はい、それがすごくおいしくて。おばあちゃん、ゼリーとか寒天とか、そういうのよく作ってたんですよ。なんで作るかっていうと、家にヘルパーさんとかお医者さんとかが来た時にお出しするために作ってたんですよ。夏場はずっとそれで。

──おもてなしもちゃんとされてたんですね。

牧さん 本当にマメな人でした。
 そうやって料理もするし、畑でも季節の野菜を育てて。おばあちゃんの畑、なんでもとれるんですよ。じゃがいももとれるし、きゅうり、トマト、なす、かぼちゃ、冬瓜、ピーマン。もう、いろいろ。冬場は、白菜とかキャベツとか、大根とかも育ててた。

──すごい。

牧さん おじいちゃんが認知症になる前は、おじいちゃんが種まきの時期を教えてくれるって言ってましたね(笑)。そろそろ、大根の種をまく時期だぞ、とか。そのタイミングでまいて育ててるっておばあちゃん、言ってました。

──お花もきれいに咲かせてたんですよね。

牧さん そうですそうです。春は、庭一面に芝桜がバーッて咲いて。梅とか、木もいろいろ植ってたし、一年中何かしら、まあ冬はあんま咲いてないけど、なんやかんやずーっと咲いてましたね。フリージアとか、ボタンとか、あとおばあちゃんがすごく好きだったランの花

──ランって難しいんですよね。

牧さん そう、難しいらしんですけど、おばあちゃんちの南側の部屋が日当たり良くて、すごくあったかくなるんですよ。なので、そこを温室じゃないけどランのための部屋にして育てて。たぶん20鉢ぐらいあったんですけど、天気のいい日は全部外に出しては、また中にしまって、大事に育ててました。うちのお母さんも花好きなんで、時々ランを株分けしてもらうんですけど、お母さんは全然咲かせられなくて、すぐ枯らしてましたね。言われた通りにしたのにやっぱだめだったー、とか言って(笑)。

おばあちゃんが教えてくれたから

──お祖母様からご自分が受け継いだなって思うようなことはありますか?

牧さん えっと、やっぱ、料理ですかね。おばあちゃんに、ちっちゃい頃一緒にキッチンに立って教えてもらったから、今もけっこう料理好きで。私、大学辞めて行ったのは調理師の専門学校なんですよ(※1/5 私の居場所 参照)。で、その後もずっと調理師として働いてたんですね。今は違う仕事なんですけど、料理は今も好きで、料理本いっぱい買って、新しい料理に挑戦したりとかするのすごい好きなんです。それはおばあちゃんがああやって作って、一緒に教えてくれたからかなあって。お母さんは全然料理しなくって、本当にいまだに料理下手くそで。というのも、お母さん自身は食べることが好きじゃないみたいなんですよ。

──ああ、少食っておっしゃってましたもんね。

牧さん 食べれりゃいい、みたいな。

──(笑)

牧さん (笑) 子供の時は、一緒に住んでた父方のおばあちゃんがずっと家事してたんですよ。だから、お母さんは仕事をしてればいいだけで、家事は全然やってこなくて。
 その父方のおばあちゃんに「何か手伝うことある?」とか「料理教えて」とか私が言っても、父方のおばあちゃんは、包丁とか油が危ないからだと思うんですけど「子供はあっちで宿題でもしときなさい」とか「テレビ見ときなさい」とか言って、キッチンで一緒に何かすることはあんまりさせてもらえなかったんですよ。

 というのもあって、時々遊びに行く母方のおばあちゃんちで一緒に料理をさせてもらうっていうのがうれしかったですね。子供だからまだあんまりやれることないけど、ホワイトソース作る時に「だまにならないようにがんばって混ぜてー」とか言って任せてくれたり、子供用の包丁買って「野菜、こういうふうに切って」って言われて任せてもらえたり、っていうのがすごくうれしかった思い出がありますね。

 おばあちゃんは「そんなんやなくて」とか「そうじゃない、こうしなさい」とかそういうことを言うことなくやらせてくれる、っていうか。それで料理を作るの好きになったのかなって思いますね。

おばあちゃんがいたこと

──今回応募されたきっかけは何かあったのでしょうか?

牧さん インタビュアー田中さんのことは以前から知ってはいたんです。でも最初は応募する勇気とかなくて、時々記事を読ませてもらってたんですけど、もう一度募集されているのをTwitterで見て、思い切ってお話ししてみよっかなって思って。

 というのも、こういう、おばあちゃんの話って、普段あんまり人にしないんですよ。
 話したら私、泣いちゃうし、もし友達におばあちゃんって元気なの?とか聞かれたら、いや、亡くなっちゃったんだとかは言うんですけど、自分からおばあちゃんが亡くなった時こういう感じでとか、おばあちゃんとの思い出とかしゃべったりしないし、する機会もあんまりないんですね。

 けど、おばあちゃんの話は私にとってはすごく大事な話だし、でも私が死んじゃったら、その話って誰も聞けないじゃないですか。おばあちゃんの話もなくなったことになっちゃうから、おばあちゃんの存在とかも……。だから、誰かに聞いていただけて、それを公開してもらえたら、誰かがその話を読んで、おばあちゃんのこと、まあ他人のおばあちゃんだからどうでもいいかもしんないですけど、こういう人がいたんだなって思ってもらえたら、ちょっとうれしいかなって思います。

(終わり)

※インタビューは音声のみの通話で行いました。
※病状などの記述は個人の状態によるものです。万人に当てはまるものではありません。

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