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木桶には夢とロマンが詰まっている

「interval studio(インターバル スタジオ)」の食物販と商品開発アドバイザー、岸菜賢一(きしな・けんいち)が営むセレクトショップ「きしな屋大阪せんば店」は、「木桶とご当地うまいもんの店」と掲げて、木桶が看板商品になっています。

木桶職人集団の代表も務める岸菜賢一は「木桶には夢とロマンが詰まっている」と語っています。

---前編はこちら---
「旅するバイヤー」のこだわりコロナ禍に〝買い支える〟ことの大切さ

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木のぬくもりに魅せられて 木桶の文化を守る仕組みづくり


——なぜ、木桶なのですか。

木のぬくもりはいいですよね。もともと、ものづくりが好きなんです。2015年に、小豆島で木桶職人を復活するプロジェクトに参加して、木桶の魅力に引き寄せられました。


自分でつくってみると木桶の構造が分かります。接着剤も使わず、杉材の板を円筒状に組んで、竹の箍(たが)で止めて、底板を付けただけのシンプルな構造です。

しかし、板のカーブのつけ方や接地面の角度の付け方はとても緻密で、見た目よりも繊細です。醤油などを仕込んで、水分を吸うと木は膨張するので木桶は強くなります。

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——木桶職人集団について、教えてください。

木桶職人集団「結い物で繋ぐ(ゆいものでつなぐ)会」は、木桶をつくる、伝える、繋ぐことを大切にしています。

結い物とは、木の板を組んだ構造の木桶のような木製品を意味します。小豆島で出会った徳島県阿南市の棟梁、湯浅啓司さんと「木桶の文化を伝え残そう」と意気投合したことが結成のきっかけです。


棟梁の湯浅さんと長崎県五島列島の木桶職人、宮崎光一さん、そして代表の私の3人によるチームが有限責任事業組合「結い物で繋ぐ会」です。

大きな木桶は、ひとりではつくれません。木桶をつくる職人の連携が欠かせないので、繋ぐ会と名付けました。


日本に今いる桶職人は20人ほどですが高齢化のため大きな木桶を扱える職人はほとんどいません。醤油や味噌づくりの現場には大きな木桶が結構残っていて修理するニーズはあるのに職人がいない。

だから、しっかりした仕事を残せる職人を育てたい。仕事の注文を受ける、木桶をつくる、木桶の文化を伝える。

3人が役割を分担して木桶のよさを伝える「見える化」と木桶を修理できる仕組みづくりに取り組んでいます。

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「昔の人はすごかった」 学びとチャレンジの連続から


——大阪せんば店にも木桶を置いていますね。


大阪せんば店が2017年にオープンした際、使われていなかった古い十七石の木桶を譲り受けて、店のシンボルにしました。


再生利用された木桶もあります。新潟県の味噌メーカーの三十石の木桶が島根県の醤油メーカーでよみがえりました。

新潟で木桶をばらしてトラックで島根まで運んで3年前に組み直して、2年かけて仕込んだ醤油が近々、出来上がります。結い物で繋ぐ会と醤油メーカーのコラボ商品になります。


三十石の木桶は、高さ約2.3㍍、直径約2.3㍍と大きく、桶を支える底板も分厚い。三十石の桶は、塩も水分も吸い込んでいるので半端なく重いのです。解体して組み直したからこそ、分かることです。


いろんな要素が理にかなっている。昔の人はすごかった。木桶を知れば知るほど、そのすごさがわかります。

当時の図面も教科書もないので正解はわからない。探求心が試されます。こうかなとイメージしながら調べるうちにわかることが少なくありません。


学びとチャンレジの連続です。

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——どんな課題がありますか。


発酵ブームだからでしょうか、木という自然の製品に対する消費者の評判はとてもいい。


いいものを守るためには、材料になる木材も、地方の自然環境も気になります。奈良・吉野など国内各地の産地で伐採された杉が材料です。山林が整備されないと、ひねて曲がった杉になります。

枝打ちしないと節ができてしまう。節が残る板だと桶に穴が開くのです。その意味でも、材料の供給元である山の環境を守ることにも注目したい。


山がきれいになると、水がきれいになる。水がきれいになると川も海がきれいになる。自然の恵みは回り回っている。しっかり考えないと解決策が見えない課題です。

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現場と人が大好き いいものを守りたい


——岸菜さんの行動力は、どこから生まれるのでしょうか。


ものづくりが好きなんです。料理にしても、木桶にしても、形になるまでのプロセスが面白い。「木桶の文化を伝え残す仕組みをつくる」と言ったことをやり遂げたいと考えます。


古い木桶の存在にしても「すごい情報をゲットしてますね」と驚かれます。よく考えてみれば、普通の人は、追わないことばかり追いかけています。

情報を競う相手がいないから、その分野の情報通になるのかもしれませんね。
頭だけでは情報は大切にできまません。

現場に赴いて、一緒に体験することで、いいものを知ることができます。人が大好きです。大好きな人と一緒にいいものを守りたい。その原点を大切にしたいと思います。


面白いと思ったら、後先を考えずに行動します。やればやるほど、もっと面白くなります。動けば動くほど、チャンスが広がります。


——これからどんなことをやりたいですか。

コロナ禍が収束したら、木桶をつくるワークショップを再開したいですね。
木について動画で学ぶ。実際に木の板を組んで木桶をつくってみる。

自分で体験したら、興味ももつし、木桶を使おうという気持ちが生まれます。木製品を使う人が増えたら、木桶の文化も次の世代に継承されていくでしょう。その好循環をつくりたいと思います。


まだまだ、やりたいことはたくさんあります。(つづく)


語り手・岸菜 賢一
interval studio 食物販と商品開発 アドバイザー/客員コンサルタント
食のセレクトショップ「きしな屋」代表。木桶職人集団「結い物で繋ぐ会有限責任事業組合」代表。6次産業化中央プランナー。複数の食品メーカーで商品開発・品質管理・生産管理・営業に携わった後、食のセレクトショップ「きしな屋」を立ち上げる。食のプロフェッショナル目線で「旅するバイヤー」として自ら全国各地を駆け巡り安心と信頼性の高い食品を探し続ける。「きしな屋」店主の傍ら、6次産業化中央プランナーとして、全国各地の農林水産物生産者から依頼を受け、商品化の企画からデザイン、製造、品質管理、販路開拓、販売を手掛ける。また食品のみならず木桶文化の復活を目指して木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」を主宰。伝統ある民芸品の普及にも取り組んでいる。

聞き手・中尾卓司
interval studio  “column”(note)欄 編集・監修
1966年、兵庫県篠山市生まれ。1990年、毎日新聞入社。
松山支局、奈良支局、大阪本社社会部、東京本社外信部、ウィーン特派員、岡山支局次長、社会部おおさか支局長を経て、社会部編集委員を歴任。
2020年3月、毎日新聞を退職後、新聞記者として30年の経験をもとに「情報発信の伴走支援サービス」として「つなぐ、つながる、つなげる」をテーマに新たな情報発信サービスや取材・執筆事業にチャレンジ。現在、大阪大学と関西大学で、「ジャーナリズム論」の非常勤講師も担当。


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