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「旅するバイヤー」のこだわり  コロナ禍に〝買い支える〟ことの大切さ

こだわり食品を集めたセレクトショップ「きしな屋」の2店舗は、大阪府枚方市と大阪市内にあります。店主の岸菜賢一(きしな・けんいち)が「旅するバイヤー」と名乗って全国各地を巡り、自ら見つけたおいしい食品を販売しています。

「interval studio(インターバル スタジオ)」の食物販と商品開発アドバイザーも務める岸菜賢一は「コロナ禍の危機を乗り越えるために買い支えよう」と呼び掛けています。

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「世のため、人のため、回り回って自分のため」


——「買い支えよう」と提唱されていますね。


新型コロナウイルスの感染拡大でさまざまな職種の人が影響を受ける中、規模の小さい生産者も大きな打撃を受けています。

手作りの品を買っていただくと、生産者の心の支えになります。商品を買うことで生産者を応援できます。それが「買い支える」ことの意義です。

買い支えること、そして支え合うことの大切さを伝えたいのです。


枚方市のきしな屋本店も2018年6月の大阪北部地震で商品棚が倒れて醬油の瓶が割れるほど大きな被害を受けたとき、常連さんに助けられました。


互いに「買い支える」ことで地域社会がうまく回ることを願っています。


数年前に考えたキャッチフレーズは「世のため、人のため、回り回って自分のため」。そのことばが今、自分の心に響くのです。


——「旅するバイヤー」のお仕事を教えてください。


おいしい食品を求めて全国各地を旅しています。「旅するバイヤー」がぼくの代名詞として定着したので、「旅するバイヤー」を商標登録しました。


今はコロナ禍で動けませんが、普段は大阪にほぼいません。2019年の1年間に、飛行機に年間約150回搭乗し、沖縄だけでも16回行って合計90日間ほど滞在しました。


旅好き、温泉好き、食い道楽です。好きなことの延長がこの仕事になりました。


ひらめいたら、とりあえず、やってみるタイプ。何かを成し遂げるための苦労は、苦労と思いません。

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いい品を次の世代に残したい


——「きしな屋」は、どんなことを目指していますか。


ぼくが全国各地を巡って自分で見つけた限定品を扱うセレクトショップです。いい品を世に伝えて広めるショールームだと考えています。いい品を次の世代に残したい。


人と話すのが好きなんです。「何か、お探しですか?」「これ、なんで買ってくれますの?」とお客さんに話し掛けると、その理由や背景が分かります。お客さんから知らない食べ方を教えてもらうこともあります。

生産者さんと直接つながって緊密に連絡し合って、お客さんの声を還元します。食べ物には賞味期限があるので商品は買い取りです。

生産者にとっても、この店が次の段階に進む〝登竜門〟となる場にしたいですね。

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——とっておきの品をいくつか紹介してください。


大地のミネラルの力が凝縮された「指宿(いぶすき)温泉の塩」(鹿児島県)は、70度の温泉を煮詰めて鉄分が含まれているので独特の褐色っぽい色をしています。

温泉ペンションの経営者に5回もラブレターを送ってようやく扱えるようになりました。


ほかにも、奈良・西吉野の梅農家が自家用に作っていた梅干し。静岡県蒲原(かんばら)宿のいわし削りぶし。北海道標津(しべつ)町のさけ削りぶし。香川県すもも農家の完熟すももピューレ。インドの紅茶オークションで直接仕入れるガネッシュティールーム(仙台市)のきしな屋限定の紅茶もあります。


醤油やドライフルーツの量り売りもやっています。「旅するバイヤー」の商標を付けたオリジナル商品もあり、この店から全国に展開した商品もあります。

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小さい規模だからこそ、できることを


——商品価値と値段の関係をどう説明されますか。

質のいい商品の値段が高いのには、理由があります。


市販の商品と比べると値段が2倍以上する醤油もあります。
醤油の原料が違う。醸造にかける時間も違う。自然の木桶で作り、酵母菌の種類も桁が違う。味が深く、自然のうま味があります。

食べ比べたら違いが分かります。人には、好みも考え方もあるので選択できたらいいでしょう。

違いを知って消費者に選択していただけるように、ちゃんと説明することがぼくの役割です。


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——どんなことを大切にしたいですか。

地道に手仕事を続ける作り手の製品に目を向けてほしいと願います。


1. 子どもが安心して食べられる食品を選びたい
2. 地方の小さな生産者を応援したい
3. ちゃんと伝えられる売り手でありたい

大切にしたいことはこの三つです。


枚方の本店がオープンして9周年を迎えました。

9年やって、この規模だから、つきあえる事業者がたくさんいることが分かりました。お客さんの生の声を受け止めて商品を育てる役割を担いたいと考えています。

小さい規模だからこそ、できることと伝える役割を大切にしたい。大量消費の仕組みに、なじまない小規模の生産者も多い。この店から「こんないい品物がありますよ」と発信したいのです。(つづく)


語り手・岸菜 賢一
interval studio 食物販と商品開発 アドバイザー/客員コンサルタント
食のセレクトショップ「きしな屋」代表。木桶職人集団「結い物で繋ぐ会有限責任事業組合」代表。6次産業化中央プランナー。複数の食品メーカーで商品開発・品質管理・生産管理・営業に携わった後、食のセレクトショップ「きしな屋」を立ち上げる。食のプロフェッショナル目線で「旅するバイヤー」として自ら全国各地を駆け巡り安心と信頼性の高い食品を探し続ける。「きしな屋」店主の傍ら、6次産業化中央プランナーとして、全国各地の農林水産物生産者から依頼を受け、商品化の企画からデザイン、製造、品質管理、販路開拓、販売を手掛ける。また食品のみならず木桶文化の復活を目指して木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」を主宰。伝統ある民芸品の普及にも取り組んでいる。
聞き手・中尾卓司
interval studio  “column”(note)欄 編集・監修
1966年、兵庫県篠山市生まれ。1990年、毎日新聞入社。
松山支局、奈良支局、大阪本社社会部、東京本社外信部、ウィーン特派員、岡山支局次長、社会部おおさか支局長を経て、社会部編集委員を歴任。
2020年3月、毎日新聞を退職後、新聞記者として30年の経験をもとに「情報発信の伴走支援サービス」として「つなぐ、つながる、つなげる」をテーマに新たな情報発信サービスや取材・執筆事業にチャレンジ。現在、大阪大学と関西大学で、「ジャーナリズム論」の非常勤講師も担当。


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