企業成長のレバレッジポイントは何か
タレントアクイジションを日本に普及させる一環として始めた、現役のタレントアクイジションマネージャーを紹介する企画。
彼ら彼女らは、タレントアクイジションマネージャーになるまでにどのような経験を積み、どのような矜持をもって取り組んでいるのか。また、現在どのような業務を行い、今後の採用領域をどう見ているのか、様々な観点でインタビューを実施しました。
なお、今回はタレントアクイジションのみならず、HR領域全般でコンサルタントとして活躍中の、浅野 和之さんにお話を伺いました。
ミドルマネージャーや経営層の採用・育成の課題設定、アクションプランの設計支援、経営的な視点での採用やタレントアクイジション体制支援など、HR領域をメインにコンサルタントとして活躍されている浅野 和之さん。
リクルートエージェント時代には、人材紹介の営業や新規事業の開発、人事部長として制度設計やリーマンショック時のリストラを経験。リクルートキャリアの設立時には、上席執行役員としてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定や、人事制度の企画・設計、就業規則の改定などの組織基盤の整備を管掌してこられました。これらのご経験から、大手企業の経営者として豊富な知見やノウハウをお持ちです。
浅野さんが、今のキャリアにつながるリクルート時代の経験や、今も大事にしている価値観はどういったものなのか。また、今後取り組んでいきたい領域について伺いました。
人は仕事を通じて学び成長する
──1993年に新卒としてリクルートエージェント(当時はリクルート人材センター)に入社して、さまざまな役割や事業に携わる中で、分岐点となる気づきを得てきたとお聞きしています。中でも、大きな転機になったのは、2004年に部長への昇進を機に、任された新事業開発の責任者。どのような経験をされたのでしょうか?
新たに取り組んだ事業は、「事務職の斡旋サービス」です。それまでも求職者からたくさんの問い合わせを頂いていましたが、人材斡旋(紹介)の手数料が求人メディアの媒体料と比較すると高額なため、なかなか求人案件のご紹介ができていませんでした。
そこで求人メディアに劣らないモデルにするために、人材斡旋におけるビジネスプロセスに手を入れました。CAを「面談」「進捗管理」「意思決定支援」の業務別に振り分けて、雇用形態を役割ごとに変更。面談も共通で説明する部分は説明会を実施し、カスタマーの希望や経験をヒアリングする部分に集中することで面談時間を短くしました。新たな雇用形態では給与設定や勤務時間なども変更するため、就業規則も作成しました。
さらに業務拡大に向けて人員を増やす必要があるため、人事に頼るだけではなく、採用説明会や面接などもすべて関わりました。スタッフの増員によりオフィスが手狭になった時には、総務メンバーと一緒にオフィスを探して、レイアウトなども考えました。社内の一部門でしたが、会社をイチから立ち上げているような感覚でしたね。
なかでも、苦労したのが「カスタマー集客」です。事務職は、「斡旋」よりも「派遣」を考えている求職者が圧倒的に多い上に、これまでなかなか案件紹介できていない状況だったため、カスタマーに対する認知がなかったんです。
そこで派遣サイトに求人を掲載して登録者を集めようと考えましたが、それを実現するためには、厚生労働大臣に一般労働者派遣事業の認可を得なければなりません。リクルートにはグループ内に人材派遣会社リクルートスタッフィングがあったので、我々が何をしようとしているのか、なぜ派遣免許を取りたいのか、棲み分けをどうするのかなどを社内、グループ会社へ説明して回りました。
その後も、採用した中途社員が将来他の事業部へ異動しても、通用する人材に育てるために教育プログラムもイチから作成するなど、常にマーケット、顧客、働くメンバーに圧倒的な当事者意識を持って取り組みましたし、 自分で決めて、発信して、行動したことが大きな成長実感につながりました。
実は会社を辞めて自分で独立することも考えていましたが、会社の中にいようが、外にいようが自分の心持ちや向き合い方一つなんだとこの時強く実感しましたね。
結果、立ち上げた当初のメンバーは4名だけでしたが、3年程度で売上は2桁億、50名程度まで成長させることができました。
社内外の環境変化によって、自分の大事にしていることや基軸は何かを考えさせられる
──2008年4月に人事部へ異動後は、リーマンショック、東日本大震災、リクルートの分社化と、次々難題に直面したとのことですが、当時は人事部長や執行役員という要職において、それら有事にどのように向き合ってきたのでしょうか?
まず人事部へ異動した2008年の9月にリーマン・ブラザーズの破綻から始まる世界的な金融危機が起こり、自社も事業再生のために、組織再編とリストラを余儀なくされました。そこで私自身、人事部長として、そのプランをどう考えるか、何を実施するかを腹決めする必要がありました。
この不況がいつまで続くのか、どのタイミングで回復するのかも分からない状況で、前例がなく、経営ボードとしてもなかなか意思決定が難しいなか、当事者の一人として起案を提出し、役員会で侃侃諤諤の議論を行いました。あの時は非常にしんどかったです。
2012年には、リクルートの主要事業部門が分社化され、リクルートキャリアが設立。この時はコーポレートを統括する役員だったため、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の策定や人事制度の企画・設計、マネジメント変革、さらにリスク対応などに取り組みました。
この渦中の約6年間を振り返ると、怒涛のごとく毎日が過ぎていった感じでしたが、自分のキャリアにとっては極めて重要で貴重な期間だったと思います。
従来の基準では解を導けない中で、役割だけでなく人として何にこだわり、何を大事にして、新たな基軸をつくるのか。そこが求められ、問われました。そして、この有事で積み重ねてきた経験が、その後の自分のビジネス人生に活きている実感があります。
企業成長にはミドルマネジメントがレバレッジポイントになる
──2020年にリクルートキャリアの役員を退任後、2022年に株式会社Prop-UPを設立されました。HRのプロフェッショナルとして外から企業を見てこられて感じる課題はどんな所でしょうか?
現在は、企業のコアメンバーに特化したRPOや、ミドルマネジメント強化・育成のためのプログラム設計〜運用、そして経営層との1on1などを行っています。また、あるベンチャー企業では、CHROとして社内のタレントアクイジションの体制づくりを担っています。
リクルート時代から痛感していたのは、ミドルマネージャー(管理職)の役割や責任の変化です。マネジャーは売上や利益などの財務責任だけなく、戦略推進、人材育成などのキーマンです。さらに最近ではタイムマネジメントやハラスメントなど、気にかけるべきことがどんどん増えています。
経営や顧客からの期待役割と現場での働くメンバーの環境整備も含めたマネジメントをANDで実現するために負荷が上がっており、時にはメンタルが落ち込んでしまうケースも多いです。
さらにスタートアップやベンチャー企業は人材も経験値も不足しているため、ミドルマネジメントを支援することが、企業や事業成長の重要なレバレッジポイントになると考えてます。
ミドルマネージャーの悩みや課題を理解しりアドバイスしたり、フレームを提供しアクションを一緒に考え実行支援を行うことで、経験値が上がったり、視界が広がったりする。自分がかつてそうだったように仕事を通じて大きく成長する。その支援が実を結べば、スタートアップやベンチャー、変革期の企業が強くなり、日本がさらに成長できるのではないかと繋げて考えています。
──最後に、HRのプロフェッショナルとして、浅野さんが大切にしていることや今後取り組んでいきたいのは、どんなことでしょうか?
これまでの経験から大切にしていることは、「自分で決めること」です。
本当に腹を括って覚悟して自分で決めたなら、誰かに言われたから、人や環境がこうだからという言い訳はできないはずです。
あとは、「仲間や組織を頼る」ことです。人は皆パーフェクトではありません。得手不得手がある。また自分だけではできることが限られる。一人でなんとかしようではなく、チームで、組織で。組織に足りないスキルや経験は外部も巻き込みながら、人それぞれが持つユニークネスによって大きな目的に各々が役割を担って向かっていければ良い結果が生まれるのではないでしょうか。
ベンチャーの経営者は若い人がどんどん増えています。彼らは、高い志はあるし、新たなもの生み出す力を持っている。一方で事業を成長させていく上でさまざまな難所にぶつかります。事業継続のためには守る力も必要です。
例えば、事業が急激な成長フェーズに入ると、自分だけはハンドリングできなくなり、任せられるコアメンバーがおらず組織崩壊を起こしたり。あるいは、事業計画がうまく進捗せず、資金がショートして、会社の存続が難しくなったり。
いざそういった局面に遭遇すると、なかなか相談する相手もおらず、自分で抱え込んでしまう。
リクルートエージェントは私が新卒で入社した時は300名程度の組織でしたが、リクルートキャリアになって4000名まで従業員が増えました。そのフェーズでいろんなことを体験してきた自分としては、企業規模や事業成長フェーズを見れば、経営層が抱えている悩みや課題は一定理解できます。
課題や難所に一緒に向き合うことで、経営者やミドルマネジメントが自信を持って自分で決めたことを実行し、成功や失敗のなかで自分の経験値を積み重ねていく環境がつくれると最高ですね。
──浅野さん、今日はありがとうございました。
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