今こそ、注力すべきは「採用サイト」である。成果を高める採用サイトとは?(後編)
前編では、「KPIの指標を設けて、サイトリニューアル前後を比較する」「どの採用チャネルよりも充実した情報を掲載して、求職者の期待に応えるコンテンツサイトにする」ことが、採用効果を高めるには重要だということを伝えてきました。
今回は、採用サイトにおいて大事な要素である『コンテンツ』の考え方や、具体的な事例について、引き続き枌谷 力(そぎたに つとむ)さんに伺いました。
採用サイトに求められるのは、「求職者ファースト」と「コンテンツドリブン」
──御社が企業の採用サイト制作で、大切にされていることは何でしょうか?
大きく2つあります。1つ目は「求職者ファースト」です。求職者を一番に考えようという、極めて当たり前のことなのですが、採用サイトでは、この当たり前のことがなかなかできていないように思います。
2つ目は、前編でもお話した「コンテンツドリブン」です。やはり、コンテンツ(文章)でしか伝わらないことが多くあると思います。その企業の強みや魅力を分かりやすく、かつ読みやすく、適切な表現の文章で伝えるようにしています。そして、コンテンツはできるだけたくさん載せることが大切です。
求職者の興味軸でコンテンツを揃え、One to Oneのコンテンツを発信していく
──なぜ、たくさんのコンテンツが必要なのでしょうか?
それは、できるだけ細かくOne to Oneでコンテンツを発信している方が採用の母集団形成には有利になるからです。
もう1つの理由は、ユーザー(訪問者)が必ずしもWebサイトを頭から見ないという特性にも起因しています。本や動画のように、順を追ってコンテンツを見るわけではなく、ユーザーは自分の興味のあるコンテンツから見ることがほとんどです。Webサイトなら大量のコンテンツがあっても、ナビゲーションやサイト構造をきちんと整理すれば、知りたい情報のあるページから閲覧することが可能です。
──「One to Oneのコンテンツ」を実現するには、どういう軸で情報を整理していけばいいのでしょうか?
やはり求職者(ユーザー)の興味軸で整理するのが一番です。基本的に商品の販売と同じく、求職者も何らかの便益がないと、その企業を選択しないと考えています。求職者の興味軸とは、求職者の便益です。それを私たちは入社便益と呼んでいます。この入社便益は、①経済便益、②スキル便益、③キャリア便益、④生活便益、⑤社会便益、⑥自己表現便益の6つに分けられます。その会社や職種に、求職者がどんな便益を感じているかを把握し、その便益をコンテンツで表現する、というのが考え方の基本です。
そして、コンテンツをできるだけ沢山載せた方がいいのは、その企業に興味を持つきっかけが、人によって異なるからです。求めているスキルが身に付くかどうか(スキル便益)で選ぶ人もいれば、育児との両立ができるかどうか(生活便益)を重視して探している人もいます。同じ職種、同じ年収であっても、優先している入社便益が全く異なることは往々にしてあります。そのため、様々な入社便益に言及した情報発信をしている採用サイトの方が、そうでない採用サイトよりも、より幅広い層にアプローチすることが可能になり、エントリー率や内定受諾率が高まると考えています。
弊社(株式会社ベイジ)としても、クライアントの制約がなければ、「できる限りたくさんのコンテンツを載せましょう」と提案しています。当然、たくさんのコンテンツを載せるとナビゲーションが複雑になるので、それと同時にサイト設計をきちんと行うことが必要不可欠になってきます。
また、たくさんのコンテンツを用意するには、それだけコストと手間がかかります。考えられるすべての入社便益に対応するコンテンツを作っていると、お金も時間も無尽蔵に使ってしまいかねません。そのため優先順位をつけてフェーズに分け、コンテンツをつくっていく。そうした優先順位付けを含めてセットで提案するのが、ベイジの基本的なアプローチになっています。
Webサイトと職種との相性も、コンテンツとして扱うかどうかのポイントになる
──採用サイトでは、多種多様な職種を募集することが多いと思いますが、職種の特性に合わせて、コンテンツなどに違いはありますか?
顕著なのは、エンジニアかと思います。エンジニア職種の場合は、「開発環境がどうなっているのか」や「そこで得られるスキルは汎用性が高いかどうか」を、求職者(ユーザー)は非常に気にされます。
たとえば、大手SIerだと非常にレガシーな技術を扱っている案件が多いので、敬遠するエンジニアが少なくありません。技術的な刺激が得られるか環境なのかどうかは、エンジニアならではのチェックポイントだと思います。ですから、そういった職種によるアピールポイントの違いは、コンテンツをつくる際には、当然考慮しなければなりません。
もう1つ職種別に考えるべきは、Webサイトとの相性です。採用サイト経由では、なかなか集められない職種の場合は、いくら情報量が重要だといっても、採用サイトにコンテンツを手厚く掲載するのはあまりお薦めしていません。具体的には、管理職や経営層のようにそもそもWebからの直接応募が少ないポジションだったり、法務や財務などターゲットや母集団が比較的少ない職種などがその対象になります。
こうした職種は、別のルートでアプローチし、詳細は面談で説明、採用サイトは募集要項などで基本的な募集条件を提示するのみでも十分機能する、ということになりやすいです。重要な職種だからと言って手厚く扱えばいいわけではなく、Webサイトの特性や職種相性を鑑みたうえで、投資対効果に合ったコンテンツ作りをすべきだと考えています。
また、エージェント経由がメインとなる職種については、主要な採用チャネルとなる転職エージェント(人材紹介会社)のCA(キャリアアドバイザー)の方向けに、自社を説明してもらえるようなコンテンツを掲載するようにしています。このように、募集職種と採用チャネルの相性や役割を理解した上で、採用サイトを最適化しなければいけません。
コンテンツ中心の採用サイトで、従来の2〜3倍のエントリー数を獲得
──これまでで印象に残っている事例などはありますか?
企業向けにイベントスペースなどを貸している企業の採用サイトをお手伝いした事例があります。このクライアントの応募職種はイベントの支援・運営を行うコーディネーターであり、採用応募数はそれほど多くなく、それそのものの職種経験者は、市場にもほとんど存在しません。コーディネーターの質はサービスの質に直結する一方で、一般的にはあまり認知されていないし経験者もほとんどいない職種で採用に苦労しているという課題がありました。
職種を認知させるためには、求人サイトなどを活用しなければなりません。クライアントには、求人サイトで認知した求職者(ユーザー)に対して、さらに情報の深堀と、求人サイトでは伝えきれない仕事のリアルなイメージを理解してもらえる採用サイトをつくりましょうと提案し、ベイジが理想とするコンテンツ中心の採用サイトが制作できました。
クライアントにも非常に共感いただき、数は言えませんが、結果として従来の採用サイトでは達成できなかった成果をあげることができました。
まずは効果に直結する採用サイト。情報発信型のオウンドメディアはその次のフェーズ。
──最近は、大手企業を中心に自社の情報を発信するブログ型のオウンドメディアも増えてきてきました。採用サイトと、情報発信型のオウンドメディアで違いはありますか?
「採用サイト」と「ブログ型のオウンドメディア」、どちらの方が採用の成果に直結しやすいかというと、やはり「採用サイト」です。
その理由は、「マーケティングファネル」というマーケティングの基本的な考え方に照らし合わせてみると、分かりやすいと思います。「マーケティングファネル」とは下図のように、「認知→興味・関心→比較・検討→購入(採用では応募)」という消費者の基本的な購買プロセスを表したものです。消費者の購買プロセスが進むにつれて、人数が少なくなっていくため、逆三角形のファネル(漏斗/じょうご)の形で表されます。採用の場合は、この購買プロセスが、求職者の就・転職プロセスになります。
マーケティングではゴール(購買/応募)に近いファネルから整備していくのが基本原則です。これを「ブログ型のオウンドメディア(以下、オウンドメディア)」と「採用サイト」に当てはめると、それぞれどのフェーズ(ファネル)に該当するでしょうか。まず「オウンドメディア」は、もちろん使い方次第とは思いつつも、一般的には自社に興味を持ってもらうための幅広いコンテンツを取り上げることが多いのではないでしょうか。というよりも、それができるのがオウンドメディアというチャネルの特性です。つまり、「認知」や「興味・関心」という、ゴール(応募)から遠い「ファネル」に届けるコンテンツを発信することができるのです。一方、「採用サイト」は、求人メディアで少なくとも「認知」、人によっては「興味・関心」を経て閲覧することが多いため、ゴール(応募)に近い「比較・検討」のファネルに該当するメディアと言えます。こう考えると、「採用サイト」の方が、ターゲットに合わせて精度の高いコンテンツを数多く揃えることで、エントリー数や書類選考率が高められるなど、人材の採用につながりやすくなります。
また、「オウンドメディア」には「認知」に該当すると話しましたが、正確には組み合わせて使う認知チャネルが必要になります。採用サイトも成果の因果関係を導くのは難しいですが、オウンドメディアはそれ以上に効果の証明が難しいという課題もあります。
この認知チャネルの設計を行っていないが故に、全く機能せずに、無人島のようになっているオウンドメディアが世の中には沢山あります。たとえば「働きやすさ」をアピールするオウンドメディア記事などを発信しても、テーマが絞られ過ぎて拡散性がないため、動線をうまく作らないとなかなかコンバージョンにつながらなかったりします。このバランスをうまくとりながら、応募につなげていくのが非常に難しく、企業がいきなり着手するにはリスクがあります。まずは、「採用サイト」のリニューアルから行い、「ブログ型のオウンドメディア」は、次のステップとして取り組むのがいいでしょう。
まずは、「採用サイト」のリニューアルから行い、「ブログ型のオウンドメディア」は、次のステップとして取り組むのがいいと、私たちはよく提案しています。
将来的には、その会社で働く「人」こそが、差別化できるコンテンツになっていく
──今後、採用サイトはどのようになっていくと思われますか?
最近は「Notion」(※)で制作した、コンテンツのみの採用サイトも見かけるようになってきました。このように、今後採用サイトは非常にシンプルな造りになっていくのではないでしょうか。そうなれば、コンテンツ重視が今後ますます加速していくことでしょう。
ただ、各社がコンテンツを揃え出すようになり、各社のコンテンツの質が高まるほど、コンテンツでの差別化がより一層難しくなってきます。そうなった時に、企業は何を打ち出していけばいいのでしょう。そこで注目されるのが、その会社で働く「人」にフィーチャーしたコンテンツだと思っています。会社の事業や商材で独自性を出そうとしても、すぐに他社が追随してくるため、そこでの差別化は図りづらくなってくると思われます。そうなると唯一独自性を出せるのが、「人」の魅力になるわけです。
ECサイトにたとえるなら「人」は「商品」です。売りたい商品を、その数だけ丁寧に、分かりやすく説明していくECサイトのように、自社の「社員」の魅力を丁寧にまとめて、発信する採用サイトが、これからは増えていくのではないでしょうか。
もちろん社員を紹介するだけでは、その会社の理念や人事制度は伝えられません。だからこそ、そういう会社の理念や人事制度などのコンテンツも必要です。それに加えて、 社員(人)をどう魅力的に表現するかが、 採用サイトの今後のトレンドになってくるのかもしれません。
※ナレッジ共有やタスク管理など、多機能のクラウド型のプラットフォームツール
まとめ
働く「人(社員)」を打ち出していくことで、その会社の独自性をアピールしていく。そうなれば、より優秀な人材を採用すること自体が、競合優位性(差別化)にもつながってくるわけです。「人」による差別化した採用サイトができる→それを見て優秀な人材が応募する→採用につながる。今後、いかに「(優秀な)人材に選ばれる企業」になれるかどうかが、成果を高める採用サイトを制作するための必須条件になるかもしれません。
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