好き描写を思い出せ
一文でもいいので思い出す。
本のタイトルを忘れててもいい。
いっそのこと一言一句曖昧でもいい。
そこに自分の好きがぎゅっとつまってる。
自分の好きを思い出し、反芻し、心に染み込ませる作業は甘いシロップの風邪薬と似ている。
ジャムに例えるのもアリだな。
輪郭はすっかりなくなったけど、みずみずしい香りやフルーツ本来の甘さはしっかり残っているから。
というわけで以下、私の好きな描写。
ロアルド・ダールの短編
主人公がお菓子屋さんでいろんな、人間はもとより、動物にもお菓子を与える。
キリンには飴、キャンディをあげる。
キリンの長い喉をキャンディの中に入っているジュースのような液体が流れていくシーン。
キャンディジュースの甘い、花のような、素敵な味の描写。
そこだけモノクロテレビからカラーテレビになったみたいに色が弾けていた。
ミステリー小説で小学校の図書実にあった。
男女がバディを組んで事件を解決する話だった。その女性の表情についてのところで、「彼女は美しい眉をひそめた」という表現があった。眉毛に美しいなんて表現をした文章にはじめて出会ったので衝撃だった。
当時私は自分の濃い眉を嫌っていて、どうしようもないことだと考えていた。
そうか、世界には美しい眉ってのがあるんだ、いいな、なりたいなと希望が湧いてきた。
悲しくてつらい小学生時代に感じた光の一つがこの描写だった。
児童書で、インターナショナルスクール的な学校に通う女の子が日常の謎を解決する。
主人公の好きな男の子がインド出身だった。彼の肌の色をチョコレートのよう、と描いていた。確かにチョコレート色だ。カレーやスパイスのイメージが強すぎて、甘い味の表現が脳の中で埋もれていた。優等生で、皆に優しい人の表現として非常に納得できた。
当時存命だった祖父が肌の色や出身国で差別罵詈雑言を繰り出してげんなりとしていたので、こんな誰もが受け止められる世界が余計に欲しかった。
向田邦子のエッセイのワカメの油炒めを作る場面。ワカメを?!?!油炒め?!?!?!と面食らった。慣れた手つきでワカメを炒めるが、やはり水分が多いので油がバチバチに跳ねる。それをなんとか防御しながら仕上げ、最後にかつ節を乗せて完成。軽妙なリズムと油はねへの必死さのバランスがとても良い。他にもおいしい料理の話やてんてこまいの日常の話が載っていてとてもおもしろい。
須賀敦子のエッセイ
知性教養が溢れてくる。
ご本人に知性があり、彼女の生活にも知性が感じられる。我が家にはない教養性というか品性があって憧れる。幼年の頃の思い出やフランスでの記録、文学に浸った学生時代が知性でたっぷりと満たされている。
知性に憧れている愚かなケモノはその輝かしさで唾が湧いてきてしまった。
もうお察しだけど、いろいろな文章を読み漁ってわかったこととしては
①おいしそうな描写
②人を美しい、すばらしいと表現する描写
③知性と教養が感じられる描写、または文章そのもの
以上はかなり私を惹きつける。
①はお察しの通り飲食大好き故。
②③は自分にはない要素への憧れ。
好き描写から本を探す検索エンジンがあったらかなり便利だと思う。
世知辛い世の中なのでせめて脳の中は好きな言葉で充していたい。
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