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【映画で楽しむ名建築】ガタカ(1997年・アメリカ)

インテリアBiz+のasaです♪
今回はSF映画の傑作として名高い『ガタカ』(1997年・アメリカ)をご紹介します。本作は天才建築家フランク・ロイド・ライトが設計を手掛けた【マリン郡シビックセンター】が舞台となっていることでも有名です。

遺伝子で宿命付けられた運命は、変えられるのか

映画の冒頭では、次のような言葉が紡がれます。

Consider God's handiwork, who can straighten what He hath made crooked?! ECCLESIASTES 7:13
(「神の御業を見よ。神が曲げたものを誰が直しえようか」旧約聖書『伝道の書』7章13節)
“I not only think that we will tamper with Mother Nature, I think Mother wants us to.” WILLARD GAYLIN
(「我々は母なる自然に手を加えようとするが、母もそれを望んでいると私は思う」(ウィラード・ゲイリン)

物語の舞台となっているのは、そう遠くない未来。
その世界では、自然妊娠で生まれた者は出産後すぐに寿命と遺伝子的欠陥(視力の悪化やあらゆる疾患の可能性)を調べ上げられ、「不適正者」として差別を受けながら生きていくことが宿命付けられています。
逆に、両親の卵子や精子から選りすぐりのものを選び取り、人工授精で生まれた者は「適正者」として、生まれながらに高い能力を保証され、社会的な成功が約束されていました。
そんな世界で「不適正者」として生を受けたのが、主人公のビンセント。
彼は生まれながらにして心臓疾患や近視といったハンディキャップを背負っていました。彼は小さい頃から「宇宙飛行士」になるという夢を抱いていましたが、「不適正者」にはそのチャンスすらも与えられません。
しかし夢を諦められないビンセントは、闇ブローカーの手配により、事故によって下半身不随となった「適正者」ジェロームと知り合い、彼に成りすます偽装契約を結びます。
ジェロームに成りすまして「適正者」となったビンセントは、宇宙飛行士になるべく航空宇宙局【ガタカ】の職員となることに成功するのです。
ところが、彼が宇宙飛行士として宇宙に飛び立つのを目前に控えたある日、彼の正体に疑いを持っていた上司の殺人事件が起き、それを発端に様々な試練がビンセントを襲います。

優性思想にアンチテーゼをぶつける問題作

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命に優劣をつける「優生思想」。
それは、私たちの生きる社会にも確実に存在します。
「人は皆平等である」とか「能力が全てじゃない」とか。
どんな綺麗事を並べたところでその言葉が虚しく感じられる瞬間を、生きていれば誰もが経験しているのではないでしょうか。
最近では「相模原障害者施設殺傷事件」も記憶に新しいところです。
施設を襲撃した元職員の男は「重度障害者は生きている意味がない」と決め付け、入所者43人を殺傷しました。
犯人の主張がセンセーショナルに報じられ、議論が過熱した背景には、誰もが彼の言い分を看過できないと感じたからに違いありません。

しかしこの映画は、そんな「優性思想」にアンチテーゼをぶつけます。
映画の中では遺伝子的なハンディキャップを持った主人公が、それでも自分の可能性を信じ、自らの力で運命を切り開いていく姿が描かれています。
そして、成功を約束された「適正者」たちが「適正者」であるが故のプレッシャーに押しつぶされ、自分を見失っていく様が対比的に描かれていくのです。

人は、欠陥に恋をする

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「不適正者」である主人公ビンセントが「適正者」に成りすまし、【ガタカ】で宇宙飛行士の資格を勝ち取るためには、血の滲むような努力が必要でした。【ガタカ】の他の職員はすべて「適正者」であるため、仕事では少しのミスも許されません。「不適正者」であることがばれてしまえば、彼の夢はそこで絶たれてしまいます。

「適正の世界に不適正の僕が現れないように」

彼は細心の注意を払いながら、【ガタカ】での業務を続けていました。
そしてそんな彼が思いを寄せたのが、「適正者」でありながら心臓に欠陥を持つ同僚のアイリーンです。自分が「不適正者」だと暴かれた時、ビンセントは彼女に「欠点ばかり探すのに必死で気付かなかったろう。可能なんだ」と告げるのです。

「欠点ばかり探すのに必死で気付かなかったろう。可能なんだ」

私はこの言葉に胸を打たれました。
ビンセントはきっと、アイリーンが持つ「弱さ」に心を動かされたのだと思います。それはおそらく、彼自身の中にも存在する「弱さ」だったからです。
もし世界に完全無欠の「適正者」しか存在しないのならば、恋愛感情など生まれる余地はないでしょう。
恋愛感情だけではありません。この映画の中で描かれる、友情も尊敬も敬愛も、そういったかけがえのない感情はすべて消え去るに違いありません。
能力も容姿も性格も、すべてにおいて欠陥の無い人間は、他者の気持ちを理解できません。当然、他者に愛情を感じることはないでしょう。
またはもし、この映画で描かれるように生まれてすぐに寿命やあらゆる欠陥が判明してしまい、その結果を突き付けられるとしたら、人は人生を諦めて努力を放棄してしまうに違いありません。
きっと、人は欠陥があるからこそ、誰かを愛することができるのだと思います。そして自分と近しい誰かが、困難を抱えながらもそれを乗り越えようとする姿を目にして、尊敬の気持ちを抱くのです。または自身の弱点に対しても「乗り越えられる」と信じながら努力を重ね、そうするからこそ、明日を生きてゆくことができるのです。
この映画で描かれた遺伝子操作がもし現実となってしまったら、世界は無味乾燥で砂漠のような、何の感動もないものに変貌するでしょう。
私自身も「もっと自分がこうだったら・・・」なんて考えすぎるほど考えてきました。だからこそ、この映画のメッセージが心の奥に刺さりました。
まだご覧になったことが無い方には、是非見て頂きたい名作映画です。

映画の舞台【マリン郡シビックセンター】

本作の中で航空宇宙局【ガタカ】として描かれている建物は、アメリカはカルフォルニア州にある【マリン郡シビックセンター】です。
設計したのは、近代建築の三大巨匠としてル・コルビジェやミース・ファン・デル・ローエと並び評される、アメリカ人建築家のフランク・ロイド・ライト(1867年6月8日 - 1959年4月9日)。
それでは【マリン郡シビックセンター】について、詳しくみていきましょう。

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平面的に細長く配置された建物は、巨大な宇宙船を想像させます。
全長450mを超えるこの建築物の中に郡庁舎、駐車場、裁判所、図書館など様々な施設が納められています。

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アーチ型の天窓から明るい太陽光が降り注ぐ庁舎内。
ライトは、日本の浮世絵などに見られる洗練された芸術表現に心を奪われたと言われており、日本的なデザインを高く評価していました。
本建築も日本の美意識から影響を受け、「自然との調和」を踏まえた上で設計されたものだと言われています。

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青い屋根を持つ丸いドームの中は図書館になっています。
1957年にライトがマリン郡から庁舎建設の依頼を受けた当時、彼は90歳。
建物が完成した時、ライトはもうこの世にはいませんでした。
ライトの死後、その建設は弟子アーロン・グリーンに引き継がれ、彼の遺作として、アメリカの国定歴史建造物に認定されています。

フランク・ロイド・ライトについて

フランク・ロイド・ライトは、インテリアコーディネーター資格試験に臨むにあたっては、必ずおさえておきたい重要人物でもあります。
彼は新古典主義の全盛期だった当時のアメリカにおいて、プレイリースタイル(草原様式)の作品で新しい建築様式を打ち出し、ロビー邸を始めとした様々な名建築を生み出しました。
中でも1936年に竣工したカウフマン邸(落水荘)は、モダニズム建築の代表的な作品として試験によく出題されます。
ここでしっかり覚えておきましょう^^

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いかがでしょうか?
ストーリーもさることながら、建築やインテリアの観点からも見ごたえ抜群の『ガタカ』。
機会があれば、是非ご覧くださいね。
では、また♪