【中国語講座】三国志の成語
今日は久しぶりに三国志の話をさせてください。
ご紹介する成語はこれです。
锦囊妙计
jĭnnáng miàojì
(直訳)錦の袋に入っている妙計
(意味)前もって用意された妙策
さて、どうしてこういう意味になるのでしょうか? これは三国志のエピソードが元になっています。
三国志のハイライトと言われる赤壁の戦いでは、劉備・孫権連合軍が曹操を打ち破ったのですが、孫権はしっかりした根拠地があり、さらに領土を広げたいと思っていたので、赤壁の戦いで勝った時、曹操が攻め取ろうとしていた荊州は当然自分たちのものになると思っていました。ところが荊州には劉備たちが居座ってしまったのです。
孫権たちは劉備を荊州から追い出そうと、あの手この手を出してきます。しかし劉備には英才諸葛孔明がいます。孫権たちの罠をことごとく跳ね返すのです。
ある時、孫権側から劉備に縁談を持ち掛けます。そして劉備を呉に呼び寄せて、殺してしまおうというのです。劉備に娶せようとするのは、なんと孫権の妹。
劉備はこの時50歳くらいだったそうですが、孫権の妹は妙齢ということなので、18歳くらいでしょうか。そんな年の差の縁談、劉備側から見ても明らかに謀略だと分かります。しかし孔明は賛成し、縁談を進めていくのです。
さて、結婚するために劉備が呉に行くことになりました。孔明は随員として忠義の士趙雲を選び、3つの錦の袋を渡して、こう言います。
呉に着いたらまずこの1つ目の袋を開けるがよい。また年末近くなったら2つ目、いよいよ窮地に陥った時には3つ目を開くのだ。中に妙計が入っている。
そして劉備は趙雲と多くの随員とともに呉に入ります。
さて、そこで趙雲は1つ目の錦の袋を開きます。するとこう書いてありました。
教玄德先往见乔国老。
Jiào Xuándé xiān wăng jiàn Qiáo guólăo.
玄徳(劉備)をまずは喬国老に会わせること。
そこで劉備は、呉の国の有力者である喬国老に挨拶に行きました。すると喬国老はそんな縁談話を知らなかったので、あまりのめでたさに、まずは孫権の母親である呉国太に挨拶に行きます。
しかし元々この縁談は謀略です。呉国太が知るはずもありません。呉国太は怒り狂って孫権に問いただすと謀略であることを認めたのですが、もう一般の人々も噂を聞いてお祭り騒ぎになっています。話を進めるしかありません。
呉国太はかわいい娘を嫁がせる相手を自分の目で見なければこの縁談を進めることはできないと言い、劉備と会うことにしました。孫権は、あまりに年の離れた縁談なので呉国太もさすがに劉備を気に入らないだろうから、そうなったら劉備を殺してしまおうと思いました。
でも、なんと呉国太は劉備を気に入ってしまうのです。そこで、仕方なく劉備と孫権の妹は結婚式を挙げることになったのでした。
さて、慌てたのは孫権や、結婚の謀略を考えた周瑜という将軍です。そこで周瑜は次の策を考えます。妹の婿となった劉備に思い切り贅沢をさせ、荊州にいる義兄弟や孔明たち部下のことを忘れさせてしまおうというのです。部下たちも、酒色におぼれた劉備を見たら四散するだろうというのです。
実際、劉備は昼間から酒におぼれ、若い奥方におぼれ、すっかり腑抜けになってしまいました。丁度時期は年の瀬です。そこで趙雲は2つ目の錦の袋を開きます。すると…
趙雲は劉備に会い「曹操が荊州を攻めてきているという報告が入りました。」という嘘の報告をします。
酒色にふけっていた劉備もそれを聞いてさすがに驚き、すぐに夫人(孫権の妹)に「今すぐ荊州に帰る」と伝えると、この夫人がなかなかの良妻で、ともに荊州に行くと言います。そこで、ちょうど年が暮れる頃だったので、周りの人々に新年の墓参りをすると言ってひっそりと呉を抜け出すことに成功します。
荊州へと逃げていると、ついに追手がきます。いよいよ追いつかれる、危ない、というその時、趙雲は3つ目の錦の袋を開いて、妙計を劉備に見せます。すると劉備は夫人にこういうのです。
今回の縁談はあなたのお兄さんが私を殺すために仕掛けた謀略でしたが、あなたは私についてきてくれた。しかし追手が来てもう逃れられない。
非夫人莫解此祸。
Fēi fūrén mò jiě cĭ huò
あなたしかこの禍を解決できない。
それが難しければ私はここで自害します。
すると夫人は「そんなこと言わずに、私に任せてください」と言って、追ってきた呉の将軍を𠮟りつけ、追い返してしまうのでした(笑)。
こうして劉備も夫人も無事に荊州に戻ることができたのです。
考えてみると、予め3つの袋に的確な指示を書いて入れておくなんて、諸葛孔明は最初から周瑜や呉の人々の考える策なんてお見通しで、しかも夫人の気性まで知り尽くしていたことになりますね。なんとすごい話でしょう。
今回も原文をご紹介しましたが、原文はかなり複雑なことを長く話しているので、ほんの一部しかご紹介できませんでした。すみません。
僕はこのエピソード、胸がすくようで大好きです。皆さんもぜひこのくだりは小説や漫画で読んでみてください。楽しいですよ~。