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【中国語講座】文化のお勉強

※この記事は2022年12月に書かれたものです。

前回も書きましたように、僕は今、HSKの過去問を見る機会がちょっと増えています。

で「ああ、やっぱりこれは中国が作った検定試験なんだな」という当たり前のことを、今感じています(笑)。

というのは、検定試験に出てくる文や文章に書かれた内容に、今の日本だとこういうことは書かないなと思うことが、チラチラ出てくる気がしたのです。日本は社会が発展中とは言えませんし何となく閉塞感に覆われているというか、若者が夢を持てないというか、そんな社会なので、「頑張らなくてもいい」「逃げてもいい」という方向の言葉を最近よく耳にする気がします。僕はそういう言葉を否定しようと思っているわけではないので、そこは誤解のないようにお願いします(笑)。

中国はやはり日の出の勢いとでも言いましょうか、社会がとても積極的な気がしますね。こんな検定試験に出てくる文や文章ですら、結構前向きだし、後ろ向きの人に「そんなことではいけない」とたしなめたり、励ましたりするような文が多い気がしました。

あと、写真を見ながら中国語を聴き、その中国語が写真の状況と合っているかどうかを答えるリスニングの問題があります。2級(下から2番目の級)なのでそんなに難しい問題ではないのですが、ちょっと今の日本だと「大丈夫かな」と思うものもありました。

見たところ女性に見える2人の人が握手している写真なのですが、中国語はこうでした。

我来介绍一下。这是王先生。
Wŏ lái jièshào yíxià, zhè shì Wáng xiānsheng.
ご紹介します。こちらが王さんです。

答えは「×」です。理由は恐らく“王先生”と言っているのに写真は2人とも女性のように見える人だったからだと思います。解説はありませんでしたが他に「×」になる理由がないように思うので。

“先生xiānsheng”は男性につける敬称なのに、女性に対して“先生”と言っているから「×」ということなのでしょう。“先生”という単語を知っているかどうかを狙った問題だと思います。でも、写真で女性かどうか判断するのが、果たしていいのかどうか、今の日本では問題になると思いますよね。こういう設問は多分日本では検定試験に出さないのではないでしょうか?

でも中国では、そのあたりはまだあまり目が向けられていないということなのでしょうね。

あと、大学の専攻を選ぶ時どうすべきか、というようなことが書かれた文章が出ていました。

大学のブランドだけで志望校を選び、専攻はどうでもいいと思っている人がいるけど、それだと入ってから後悔する。よい大学よりもよい専攻を選ぶべきだ。自分が興味を持てる専攻を選ばなければならないだけでなく、社会の要求に合致していなければならない。

というようなことが書かれていたのですが、最後の「社会の要求に合致していなければ」というところが、なんだかちょっとな、と思ってしまいました(笑)。まぁ今の日本もそんなところがあるかもしれませんけどね。社会や人々の生活に直結するような「実学」が奨励されるような?でもまぁ大学や大学の専攻を選ぶ時にあまりうるさくは言われないと思うのですが、中国だとそういうのが理想的な考え方とされているのかな?と思ってしまいました。

ある国の検定試験の問題を見ると、その国の文化や思想、社会の状況とかも垣間見えるのですね。ニュースを見たりするのもいいですが、内容が難しかったりしますので、検定試験の問題を見て社会や文化の勉強をするというのも、新しい切り口として面白そうです。そういう目でHSKの問題を長期的に見ていくと、中国の文化や社会情勢等の変遷も見えてくるかもしれませんね。

通訳・翻訳家 伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
「文法から学べる中国語」等、著書多数

2021年5月までの記事は弊社の「翻訳コラム」でお読みいただけます。