【中国語講座】「儿」の発音
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よくテキストなどでは「特別母音」とか言われている母音 er ですが、なんというか不可解な存在ではありますよね。
いえ、別に「er」という母音自体が不可解なのではなく、「儿 ér」という漢字が不可解なのですよね。そうは思いませんか?
この「儿」という字、単独でしっかりした意味を持つ漢字として登場する場合は、単に発音が難しいだけで問題はありません。例えば:
儿子
ér zi
息子
儿童
ér tóng
児童
これらの単語の中に出てくる「儿」は「子供、児童、息子」といった意味で使われています。しっかりした意味を持って使われていますね。
しかし、本来の意味が薄れ、色々な単語の後ろに接尾辞としてくっついているだけの場合も結構あります。皆さんきっとご存知の「er化音」です。例えば:
花儿
huār
花
歌儿
gēr
歌
これらは意味もかなり薄れ、発音も単独の「ér」という発音ではなく、その前の字の発音の最後で少し舌を丸め、こもらせて発音を終えます。つまり前の字と一体化してしまうのですね。こういう現象、バリバリの北京語(笑)では非常に多く見られ、「er化」している場合としていない場合とで意味が少し違うというようなこともあるらしいのですが、普通话(標準語)を話している限りでは、「er化」の有無にかかわらず意味は変わらないような気がしています。
実際、南の方の方言ではこういう「er化」というような現象がないらしいので、彼らが普通话を話す場合「er化音」が出てくることが非常に少ないです。僕の友人の上海人は、自分でも「er化」が苦手だと言っていて、彼女の口から「er化音」を聞くことは、まずありません。
でもテキストを見ると、いくつかの単語は必ず「儿 ér」の字がついています。こういうものは、やはり一応発音できるようにしたいものです。
といっても、上で挙げた2つの単語「花儿」「歌儿」は音節の最後で舌先をペロっと巻いてこもらせて終わればいいのですが、どう読んでいいか困るものもありますよね。先日某大学の授業で、「一会儿」という単語を読むのに非常に苦労している学生が結構いることに気が付きました。
一会儿
yí huìr
しばらく
この単語のピンインを見てください。「hui」の後ろに「r」がついています。「hui」はカタカナで無理に書くと「ホェイ」のような発音ですよね?上の「花儿」や「歌儿」のように最後のところで舌を丸めてみると、これが結構難しいです。
実は、重母音の最後が「i」で終わっている音節に「r」がつく場合、その「i」は取り去って「r」をつけることになっています。
「hui」は本当は「h+uei」です。なので「i」を取り去ると「h+ue+r」となります。すると、実質「hu+er」のような発音になるのですね。無理にカタカナで書くと「ホアー(ル)」(最後の「ル」は発音しないでこもらせるだけ)という感じです。
他の例も出しておきますね。
一块儿(一緒に)
yí kuàir と表記しますが、実際の発音は yí kuàr という感じ
盖儿(ふた)
gàir と表記しますが、実際の発音は gàrという感じ。
あと zi / ci / si / zhi / chi / shi が「er化」する場合は、「i」を取り去って「er」をつける感じになります。つまり:
瓜子儿(スイカやヒマワリの種)
guā zĭr と表記しますが、実際の発音は guā zěr という感じ。
事儿(用事)
shìr と表記しますが、実際の発音は shèr という感じ
それから、「-n」や「-ng」で終わるものは、「-n」「-ng」を取り去って「r」をつける感じです。例えば:
慢慢儿(ゆっくりと)
màn mānr と表記しますが、実際の発音は màn mār という感じ。
空儿(ひま)
kòngr と表記しますが、実際の発音は kòr という感じ。
あ〜、ややこしいですね。簡単に書くと:
「-i」と「-n」と「-ng」は取り去る。
その後に「r」だけをするのか「er」を発音するのかは、やりやすいようにする
実際これでいいような気がします(笑)。それに、別に「er化」なんてしなくても通じるのですから、困ったら無視しちゃってもいいと思います。
でも実は、僕自身は北京人の「er化」にすごく惚れこんでいて(笑)、あんなふうに美しい「er化」がいつかできるようになりたいなぁと思っているのですがね。
皆さんは「er化音」好きですか?
通訳・翻訳家 伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
「文法から学べる中国語」等、著書多数
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