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生成AIによるイラストの著作権問題

生成AIによるイラストが著作権侵害のおそれがあるため、海上保安庁がリーフレットの配布と掲載を中止しました。問題の画像は次の通りです。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1092740

海上保安庁がこれを同庁のウェブサイトやSNSにアップしたところ、イラスト中のまつ毛や髪飾りに自然な点があり、「生成AIによる創作ではないか?」「著作権侵害ではないか?」との疑問の声が上がりました。同庁はこれを無料の生成AIの創作であることを明かし、問題となりました。

もちろん生成AIによるイラストだからといって、すべてが著作権侵害になるわけではありません。しかし問題は、AIに大量の既存の画像を学習させている点です。これが無断で行われていることが多いため、結局はAIを使った他人のイラストの模倣、改変ではないか? という疑問が生じます。

「作風や画風が似ている」というだけでは著作権侵害ではありません。例えば、「キャラクター〇〇ちゃん風に絵を描いて」と指示しただけでは著作権侵害ではありません。

著作権はあくまで「表現」を保護するため、他人のイラストの複製であるとか、他人のイラストに類似していて、これに依拠していると認められたとき初めて、著作権侵害となります。

しかも、AIに画像を学習させる行為は、著作権法30条の4で著作権侵害にはなりません。「情報解析の用に供する場合」は著作権侵害ではないとこの条文に規定されています。これには「AIによる深層学習」も含まれると解釈されています。
このような利用は、「著作物に表現された思想や感情を享受すること目的としない」からです。

例えば、「イラストを見てかわいいと思う」感情を得るためではなく、単なる情報解析のために著作物を利用するのは著作権侵害ではないという規定です(もちろんこの場合でも、「著作権者の利益を不当に害さない」ことが条件になります)。
 
生成AIのもうひとつの問題点は、「イラストレータの仕事を奪う」という点です。他方でプロに依頼するイラスト作成に多大な費用がかかることも事実です。

イラストレータの生き残りと企業の利便性や経済性の折り合いをどのようにつけていくか、という点が著作権の問題と共に今後、クローズアップされていくでしょう。

しかしAIの進化は止められず、これまで絵心がなくてプロに依頼せざるを得なかった人、英語が苦手な人たちが、AIによって助けられていることも事実です。プロの仕事がなくなっていくことは致し方ないといえます。私たち翻訳者も同様ですが、プロの人たちはむしろAIを自分たちの仕事に活かし、効率的に仕事をこなしていくことを考えればよいと思います。

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。