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【中国語講座】動詞が2つ並んでいる

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ご存知の通り、中国語には英語の動名詞や不定詞のようなものがありません。動詞の姿のまま名詞的に使われたりします。ですから、ある動詞が文中でどのような役割を果たしているのか、述語動詞なのか、はたまた目的語となって名詞的に使われているのか、などは結構分かりにくいのです。

例えば連動文と呼ばれる構文がありますよね。例えばこんなものです。

例文A

我去买东西。
wŏ qù măi dōng xi
私は買い物をしに行く。

この文では「去(行く)」という動詞と「买(買う)」という動詞が並んでしまっていますね。では、次の文ではどうでしょう。

例文B

我喜欢看中国电影。
wŏ xĭ huan kàn zhōng guó diàn yĭng
私は中国映画を見るのが好きだ。

この文でも「喜欢(好きだ)」という動詞と「看(見る)」という動詞が並んでしまっていますね。でもこれは連動文ではありません。「看」が「喜欢」の目的語になっているのですね。

つまり2つの動詞の関係は、前者(連動文)ではほぼ並列の関係であるのに対し、後者の文では「喜欢」が「看」という動詞の支配下にあります。言いかえれば、前者は平面的ですが、後者は立体的な構造になっていると言えると思います。

次の文はどうでしょうか。

例文C

习近平主席在莫斯科会见学习汉语的学生等。
xí jìn píng zhŭ xí zài mò sī kē huì jiàn xué xí hàn yŭ de xué sheng děng
習近平主席はモスクワで、中国語を学んでいる学生等と会見しました。

この文では動詞「会见(会見する)」と「学习(学ぶ)」が並んでしまっていますね。

でも、これも連動文のような並列関係ではありません。

そう、「学习汉语」が「学生」にかかる修飾語となっているのです。

目的語に長めの修飾語がつく時の様子を日本語、英語、中国語で比べてみると、こんなふうになっています。(以下、主語をS、動詞をV、目的語をO、修飾語をMと表示します。)

日本語
SM+OV

英語
SVO+M

中国語
SVM+O

つまり、日本語と英語は動詞(V)と目的語(O)が直結しているのですが、中国語は動詞(V)と目的語(O)の間に修飾語が入りこむ構造になっているので、修飾語が長くなるとVとOが遠く離れてしまって文意が分かりにくくなります。そしてその修飾語が動詞から始まるような場合は、見た目では動詞が2つ並んでしまうので、ますます文構造が分かりにくくなると思います。

次の文は僕が教えさせていただいている某所で使っているテキストに出てきた1文です。

例文D

他在准备欢迎您的节目呢。
tā zài zhŭn bèi huān yíng nín de jié mù ne
彼はあなたを歓迎する出し物を準備しているところです。

この文も例文Cと同様の構造です。「欢迎您」が「节目」にかかる修飾語になっているのですが、見た目では「准备(準備する)」と「欢迎(歓迎する)」という2つの動詞が並んでいますね。

この文を見てある生徒さんが「こんなふうに動詞が並んでいる場合、音声だけで聞いていても分かるんですか?」

もっともな疑問ですよねぇ。

ただ、実際に音声でこういった文を発する時は、例文CやDは分かりやすいように1つ目の動詞と2つ目の動詞の間を少しだけ止めて読むとか、後ろの動詞が目的語にかかる修飾語なのだということをはっきり示せるようなリズムや抑揚で話しますから、意外と分かりやすいのです。むしろ字で書かれたものを読んでいる時のほうが分かりにくいかもしれませんね。

それでも慣れないとなかなか難しいので、まずは、動詞が2つ連続して出て来るのはどんな場合があるのかよく分かっておく必要があるかもしれません。上で書いた3種類ほどが考えられますので、よく覚えておいてくださいね。

通訳・翻訳家 伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
「文法から学べる中国語」等、著書多数

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