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米・中・ロの綱引き? プーチン訪問で明らかになったベトナムの特別な戦略的地位~中国の”力による現状変更”への衝動を制肘?


【画像① 6月20日、会談に臨むプーチン大統領とトー・ラム国家主席。】





◆北朝鮮に次いでベトナムを訪問したプーチン大統領




北東アジアの情勢を大きく変動させかねない「ロシア=朝鮮同盟」に向けた需要な一歩をしるす北朝鮮訪問を終えたプーチン大統領は、すぐさまベトナムを訪問した。北朝鮮は米国、韓国、日本と安全保障上の緊張関係が続いている国家で、この後ろ盾に核大国でありウクライナ戦争を契機に西側との対立関係を劇的に深めたロシアがついたことを示す今回の事態は、米韓日各国にとって深刻に受け止められるべきものだった。


一方、ベトナムについては、米日との関係は良好であり、中国の海洋進出という脅威に対処する上では”準同盟”というべき協力・協調が図られてきていた。その一方で、揺り戻しはあるものの、昨年12月には習近平主席が同国を訪問し、「二国間関係を深化させる」ことが確認されるなど、領土・領海問題で歴史的に主張が対立している両国間の緊張が一時的にでも緩和される動きも見られている。


こう見ると、ベトナムは共産党執権が続く国家でありながら、独特な地政学的地位を占めて西側諸国と中国、ロシアほかどちらかというと米国を中心とした同盟諸国とは対立関係にある国家の両方と関係を維持する”架け橋”の役割を果たしているようにも思える。そのベトナムに、北朝鮮についでプーチン氏が訪問したことについて、ロシア、ベトナム両国の思惑はどこにあるのだろうか。



【画像② ハノイのノイバイ国際空港に到着したプーチン大統領。】




プーチン氏のベトナム訪問については、西側諸国でもさまざまな報道がされている。前述の通り、日米とも安全保障面でも良好な協力関係にあり、例えば2005年以来、中国の”拡張路線”抑止を念頭に我が国も同国の自主的な防衛対処能力を向上させるための技術的支援スキームである「能力構築支援」(演習や訓練支援、兵器以外の装備提供など)を継続して実施し、ベトナム人民軍と自衛隊の協力関係も深いものとなっている。そのため、今回、ウクライナ戦争をめぐり完全に日米とは対立関係に入ったロシアのプーチン大統領の訪問を受け入れ、将来的にも堅固に協力関係を維持していく方向性を示したことについて、評価を定めかねている状況が報道などに反映しているように思える。


以下、米CNN報道だが、「ロシアは孤立化を免れるためにベトナムへはたらきかけた」という評価を基調とした記事だ。



「ロシアのプーチン大統領は(6月)19日、ベトナムの首都ハノイに到着した。…西側諸国からのけ者として認識される中、プーチン氏は友好国との経済的結びつきの強化を図り、西側による孤立化の影響がないことを示そうとしている」


「共産党が実権を握るベトナムを訪問先に選ぶのは、自然な措置に思える。同国は外交上非同盟主義を掲げ、ロシアと歴史的にも近い関係にある。…プーチン氏のベトナム訪問を巡っては、既に米国が苦言を呈している。…ハノイにある米国大使館の報道官は、『いかなる国もプーチン氏に戦争や侵略を促進する機会を与えるべきではない。彼の残虐行為が当たり前のこととされてしまう』と批判した」


「ベトナムの駐ロシア大使は本国のメディアの取材に答え、プーチン氏の訪問が今後の両国関係を強化すると指摘。二国間の貿易や経済協力を促進する具体的な措置について議論、提案す機会になるとの見解を示した」


「ロシア大統領府の外交政策補佐官によれば、共同声明が発表され、各部門での協力を盛り込む合意が結ばれる見通し。具体的には『貿易と経済、科学、テクノロジー、人道の分野』が対象になるという。…ロシアはソ連時代以来ベトナムの主要な武器供給国であることから、専門家らは兵器やエネルギーに関する協議も議題として取り上げられる可能性があるとみている」


(参考)「プーチン氏がベトナム到着、支持求め西側の孤立化に対抗」2024/6/20 CNN.CO.JP(日本語版)

https://www.cnn.co.jp/world/35220405.html


平板な記事だが、一応、内容は網羅している。しかし、「ロシアはソ連時代以来ベトナムの主要な武器供給国」とさらっと書いているが、歴史的に見ると中国とベトナムが相当対立関係にあり、時には武力衝突すら起きかねないような時期も一貫してロシア側は最新の航空機、潜水艦など中国側を制肘し得る強力な武器支援を継続していたという事実を見ないと、ロシアが企図する独特のバランス政策の本質を見落としてしまうだろう。このベトナムとの関係は、インドとロシアとの間にも見出すことが出来る。そして、この度のプーチン氏の外遊では、こうしたロシアによるバランス政策の一環に北朝鮮も加えられたと見ることができよう。


こうした動きを単に「支持求め西側の孤立化に対抗」という視点からだけ見るのは、あまりに皮相だ。



【画像③ ベトナム人民空軍は「運動性能は世界一」と言われるロシア製戦闘機Su-27を主力戦闘機としている。その他に、中国海軍にとって南シナ海での最大の脅威的な存在となっているキロ級通常動力型攻撃潜水艦6隻がロシアからベトナム海軍に供与されている。ちなみに、ベトナムのキロ級潜水艦の乗員の運航や緊急救難訓練は「能力構築支援」スキームで日本の海上自衛隊とインド海軍が分担して実施してきた。】




◆「ベトナムは、過去12カ月以内にジョー・バイデン米大統領、習近平中国国家主席、プーチン大統領が訪問した唯一の国」(ドイツ紙報道)




西側諸国報道の中でも、ドイツ紙がベトナムが位置する特別なスタンスに着目して今回のプーチン訪問を分析した記事を出しているのが目を引かれた。

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