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インド首相、ウクライナ和平調停に動きオーストリアと連携~その影響、ドイツなどでの受けとめは?


【画像① インドのモディ首相とプーチン大統領との個人的な信頼関係は深い。ロシアでの首脳会談は、打ち解けた雰囲気で行われたという。】

◆モディ首相のウクライナ戦争収束へのアクション




世間は「トランプ前大統領暗殺未遂」のニュースで持ち切りで、その少し前から持ち上がっている複数の国によるウクライナ戦争和平調停のはたらきかけについて、大きくは扱われていない。ハンガリーのオルバン首相の行動については、既に本noteで取り上げているが、今回はG7諸国とも深い関係を持ちながらもこれとは一線を画し、一方で従来から安全保障上も太いつながり、協力関係を維持してきたインドの新たな和平調停の動きを取り上げてみよう。


7月9日、インドのモディ首相はモスクワに訪問し、プーチン大統領と会談した。これについては、下記のNHK記事でも取り上げられている。


(参考)「ロシアとインドが首脳会談 幅広い分野の協力強化で一致」2024/7/10 NHK NEWS WEB ※映像付き

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240709/k10014506861000.html



この記事の中に、次のような下りがある。



「モディ首相は『罪のない子どもの命が失われていることに心を痛めている。平和が不可欠で戦場には解決策はない』と述べ、懸念を伝えましたが、ロシアに対する直接的な批判は避けました」


「ロシアに対する直接的な批判を避けました」などとあるのは、これまでのインドのウクライナ戦争に対する態度を考えれば、「直接的な批判」などする訳もなく、いちいち付け加えるべき内容ではない。NHK報道における「ロシア側に接触すれば、ウクライナ侵略を批判するのは当然」という偏向した姿勢を反映するものだ。


インドはそもそも、G7が主導した対ロシア制裁には一切参加せず、むしろ貿易取引などをこの間にも増してきている。同国はロシアと共にBRICSを先導してきた同機構の主要国であり、軍事装備の共同開発、戦車やミサイルなどの生産設備のロシアからの導入など安全保障上の協力関係も相当に深い。



【画像② インドはオーストラリア、アメリカ、日本と4カ国でインド・太平洋地域での安全保障上の戦略的連携関係を構築している。目標は、中国の脅威だ。その一方でロシアとも安全保障上の協力関係を長年にわたり継続している。2022年、東京での4カ国首脳会談で。右端がモディ首相。】




しかし、同時にウクライナ戦争がインドの背後にあるアフリカ諸国を含む発展途上にある諸国の経済成長にも、エネルギー資源や食糧の価格高騰、調達困難などをもたらしたことによって否定的影響を与えていることから、早期に収束させたいという意思を持っている。このあたりは、トルコと通底するものがある。


完全にマスコミによる国民への”洗脳”に成功した日本をはじめとする西側諸国とは異なり、BRICS(ブラジル、中国、インド、南アフリカ、そして最近新たに同機構に加盟した計10カ国以上)ではウクライナ戦争は「アメリカの挑発と後押しで始まった戦争である」との認識が一般的にも広がっている。「アメリカにそそのかされたウクライナのクーデター政権がロシア系住民への攻撃をしかけたことから内戦が発生し、各国仲介の調停(ミンスク合意など)をことごとくウクライナの現政権側が破ったことで、ロシアの介入を招いた」という事実経過を、アメリカに対して従来から批判的であったBRICS諸国の多くが認識している。

 という描写がある。「直接的な批判を避ける」ということはインドがロシア寄りの姿勢を表していることが伺える。



NHK記事に立ち返ると、こんな内容でしめくくられている。



「プーチン大統領としては、ウクライナ侵攻をめぐって欧米との対立が激しくなる中、グローバル・サウスの代表格であるインドとの協力関係をアピールすることで、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議を前に欧米をけん制した形です」


これでは、まるでモディ首相がプーチン大統領に利用されるだけの関係のようではないか。海外報道に照らし、その前後のモディ首相の行動を一緒に考察すれば、このNHK記事のようなまったく薄っぺらい思惑で行われたモスクワ訪問ではないことが分かる。日本メディアの記事は、一番ましなNHKすらこんな程度であり、相変わらず岸田文雄政権の海外から見れば全く無考慮に米英に追随するだけの”主権放棄”外交(”無思考外交”ともいえるかもしれない)に沿った、国民には考える材料を故意に外して報道しているとしか思えない内容を伝えるばかりだ。


これでは、モディ首相がモスクワ訪問を含め、海外を連続して歴訪してかなりの熱意をもったウクライナ戦争和平調停アクションを展開している状況や、その背景など伝わりようがない。



◆モディ首相、EU加盟国のオーストリアと和平調停で協力





【画像③ ウィーンでオーストリアのネハンマー首相(左)と会談に臨むモディ首相。大統領府から街を見下ろしながら。】




実は、ロシアとの首脳会談後にモディ首相がオーストリアのウィーンを訪問しウクライナ戦争の和平調停に向けた意見交換を内容とする首脳会談を行っている。



オーストリアはEU加盟国だが、NATOには伝統的な軍事的中立政策により加盟しておらず、ロシア・ウクライナの和平交渉のホスト国として望ましい条件をそろえている。また、現在、オルバン首相を先頭に積極的に和平調停に動いているハンガリーの隣国でもあり、かつて「オーストリア・ハンガリー帝国」として統一国家でもあった地政学的な関係が深い国、国益でも共通する利害がある。つまり、オーストリアはロシア、ウクライナとの安定的関係を望んでいる。



このような背景があるオーストリアとインドが和平調停を進めることは、今後のウクライナ戦争の収束に向けた動静に大きな影響を与えそうだ。


Google検索で「モディ首相 オーストリア」と引くと、日本の報道としてはBSー1のJCC
テレビによる報道(https://jcc.jp/news/21034069/)がトップに出てくるだけで、それには次のような簡易的な記載が7月11日付「ワールドニュース」と題して掲載されているだけだ。



「モディ首相がインドの首相として41年ぶりにオーストリアの首都ウィーンを訪れた。…モディ首相は再生可能エネルギーを始めインフラ整備と新規企業などへの協力関係を目指すと述べた」


ウクライナ戦争n「ウ」の字も出てこない。しかし、ロシアに厳しい姿勢を撮り続けているオーストリアの隣国ドイツのメディアは、「41年ぶり」のインド首相のウィーン訪問について、こんな軽い扱いをしていない。


以下にドイツ主要紙である「フランクフルターアルゲマイネ」7月10日付配信記事(ドイツ語報道)の概訳を掲載する。



◆モディ首相、ウィーン訪問 ~オーストリアとインドがウクライナでの「公正な」平和を求める~ /ドイツ・フランクフルターアルゲマイネ紙


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