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【読書】苦海浄土 石牟礼 道子


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私は大学時代は,水俣病を社会学的に研究してらっしゃる丸山定己教授の下で学んでいたので,身近に水俣病という言葉が飛び交っていた。
当然授業にも出てきたし,先生の手伝いで水俣病に関わっている色々な人たちとの出会いもあった。
それなので,当然一般の人よりも興味関心は持っていたし,詳しくもあったはずなのだが…。どうしてこの本を今頃読んでるのか…。
もっとあの時読んでいれば,勉強の力の入れ方も変わっていたのだ…と反省。奥付を見たら1973年の発刊という事なので,大学時代には読む事が出来たはずだ。


当時,水俣病に関しては,国とチッソに対して大変な憤りを感じていていたが,この本を読むとさらにそれが増幅されたと同時に,もっとひどい現実があったのか…と怒りを通り越して絶望にまで至ってしまう感じ。
日本四大公害と言うのは,水俣病・イタイイタイ病・第二水俣病・四日市ぜんそくの事だが,それぞれ裁判で被害者側が全面勝訴…という事で裁判は終わっているように見えるのだが,水俣病に関してはいまだに認定するしないで裁判が行われており,いまだに解決はしていない。そもそも水俣病患者にとっては,金銭的な解決と言うのは本当の解決ではなく,元の元気な体に戻してくれ~という魂の叫びを叶えてあげられないがための代替措置なのだ。しかしチッソは当初それさえも拒んでいた。


この本では,水俣病患者の症状が詳しく書かれている。もう人間ではなく廃人としてしか存在していない悲しい事実,しかも絶対に良くならずに亡くなるのを待つだけ,本人は自分がどのような状態なのかもわからないまま,奇声をあげ体の硬直を繰り返し亡くなっていく。毎日の料理に出てくる魚を食べてのが原因という事で,一家がすべて水俣病になってしまった場合などは,病院で介護する人もいない。

そんな状況にもかかわらず,チッソは責任を取らず逃げ回る。で,原因が自分にあると科学的に判定されたら,患者をごまかしたような金額で賠償払ったと言い張り,その後の交渉には着こうともしない。


また患者たちと一緒に戦うべき市民も,「あまり騒ぐとチッソがつぶれる。すると水俣も廃墟になる」「たった111人くらいのために4万5千人の市民を苦しめるのか…」「チッソがあるから特急も止まってくれるんだ」と患者側を非難するような人も多く,やり場のない怒り。しかし確実に命は蝕まれている…。チッソもそんな声に便乗し,「会社をつぶして水俣から出て行きます」的な脅しをかけるに至っては…。


社長が患者の家庭を回って,形ばかりのお詫びをするシーン。「そげんお詫びならいらん。まずあんたが有機水銀含んだ排水を飲みなさい。奥さんにも飲ませなさい。家族にも飲ませなさい…」と訴える患者。地獄である。

企業とはいったい何なのか。どうしてこんな解決しか出来なかったのか(まだ解決していないが…)。亡くなった人は戻ってこないし,いまだに不自由してらっしゃる患者さんもいらっしゃるわけで,チッソと国が何とか人間としての対応をして欲しい。

今の安倍政権の不誠実さにも通じる部分があると思う。

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