【卒展2022 Making Process】 #07 図録製作
こんにちは。
多摩美術大学統合デザイン学科卒業・終了制作展2022にて、図録班を担当させていただきました河島倫子です。
本年度も、統合デザイン学科では学生の作品を1冊にまとめた図録の発行を行っております。
ただいまご予約分は売り切れておりますが、3月13日より八王子キャンパスにて始まる卒業制作展B日程に合わせて、小部数ですが再販を予定しております。
追って卒展SNS等をチェックしていただけますと幸いです。
(お届けは3月下旬になります。)
今回は、図録の制作プロセス及び印刷・製本についてのご紹介をさせていただきます。
1.テーマ・方向性の決定
今年度の卒業制作展及びメインビジュアルは、「好奇心」がテーマでした。
それに伴った潜在的なイメージとして、「民族」や「万博」「先史美術」など、その土地の文化を表出する行為、及び、それによって生まれたアイコニックなビジュアルが挙げられました。
これらの観点から統合デザイン学科の学生を汲み取り、その好奇心を民族文様として表出させることが大きなアイデンティティでありました。
このようなコンセプト・時代感の中で、図録が担う媒体として近しいものに「洞窟絵画」「碑文」が挙げられます。
紙が存在しなかった先史時代から古代にかけて、情報を記録していた媒体の1つとして石、岩といった素材があり、今年度の図録の装丁は、碑文のような塊感とテクスチャを意識しながら進めることに決定しました。
2.装丁
【コデックス装について】
製本方法にはコデックス装という、糸綴の背中をそのまま見えるように本を仕立てる仮製本式のものを採用しています。この製本を選んだ理由として、
という点が挙げられます。
表紙には2ミリのボール紙(グレーの再生紙)を貼り合わせたものを採用し、その上からデボス加工(紙の表面を凹ませて陰影を付ける加工)を施すことで、表紙に文字が刻まれているような表現をしました。同じく紙素材にて展開される卒展のDMも、図録表紙と共通のボール紙を用いています。
製本用の糸も、印刷会社の方にサンプルを取り寄せていただき、同じく深緑色の糸を選んでいます。
【小口塗りについて】
図録の側面には、卒制のメインカラーである深緑色を塗布し、メインビジュアルとの整合性を図ると共に、素材感の強い静かなデザインの表紙とのメリハリをつけています。
また、ボール紙と小口塗りは相性が悪く、どうしても表紙にインクのにじみが出てしまうという問題を解決するために、印刷所の方に少し特殊な製本方法をとってもらい、本文にのみ小口染めを施すことによって、表紙のパキッとした雰囲気を崩さないよう製本しています。
【特色について】
この小口塗りをするにあたって、印刷所の方でCMTKでなく特色で色を制作していただきました。
特色とは、印刷においてCMYKなどの網点で構成するプロセスカラーでは再現できない色を表現するために、予め色を決めて調合したインクのことを指します。
調合してもらう色は、PANTONやDICといった特色専用の色見本帳から選びます。今回の製本では卒展のテーマカラーに近い、落ち着いた深緑色のPANTONEの19-6050を選びました。
3.表紙デザイン
表紙デザインはいくつかの案を推敲してゆき、碑文らしい佇まいを出すために2カラムで文字情報を連ねるデザインにしました。
通常、図録の表紙に開催地の住所が記されることはほとんどありませんが、今回の展示計画及びテーマカラーの配色において、上野毛校舎の土着感に重きを置いていると感じたことから「この場所で卒業制作展が行われた」ことを記しておきたいという考えから、このような内容にしました。
また、卒制のメインビジュアルでもある6つのシンボルを表紙にも反映したいと考え、アルファベットに近しい形のものをそれぞれ当てがい、象形文字のような扱いにしました。
表紙の色味は何度か調整を重ねました。
文字の色はホワイトを2度刷りし、シンボルの部分は側面と同じ深緑の特色インクで印刷しています。
台紙には、Kを5%だけ敷いておくことでボール紙の質感は残しながらも文字部分とのコントラストを
強める方向でブラッシュアップしていきました。
4.本文
【レイアウトについて】
作品ページのレイアウトは、学生1人につき見開き1ページという形をとっています。
統合デザイン学科は作品の媒体が多岐にわたるため、20パターンの構成を用意し、学生1人1人に選んで貰いました。
その他のイレギュラーなレイアウトに関しても柔軟に対応しつつ、画像の比率を数種類に定めることによって全体の統一感を守っています。
製本の関係上、本の側面に色が出てはいけないのでベタ塗りは大きなレイアウトで代用しています。
作品のステートメント等はコンパクトにまとめ、視線が散らばって読みにくくならないようにレイアウトしています。
【書体について】
使用書体は、
これを基準とし、いくつかの書体で文章を組みながら考えた結果、
和文にはこぶりな W1
欧文にはHelvetica L,R に長体を95%かけたものを使用することに決まりました。
【本分紙について】
本文の用紙はフロンティタフ80 95g/㎡使用しています。
この紙は、TDCの図録である「Tokyo TDC Vol.32」の本分用紙を参考としています。
この用紙を選んだ理由として、
以上の点が挙げられます。
5.メイキング記事
今年度の図録も、こちらのnoteにて現在公開されております「卒展2022Making Process」が掲載されております。
学生の作品から卒業制作展プロセスまでの全てが1冊に収録されておりますので、図録をご購入された方、これからご購入をされる方は是非ご覧下さい。
6.最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。
今年度の図録は、製本・加工面にて難航しつつも、こだわって制作いたしましたので、この記事を通じて、図録制作の意識的な部分から形になるまでのプロセスが少しでも伝わっていたら幸いです。
また、今年度の図録制作にあたって、製本を担当してくださったプリンティングイン株式会社 神戸様には大変お世話になりました。この場を借りて深く御礼申し上げます。
図録をご購入くださった方は、3月下旬頃の図録の郵送までお待ちいただけたらと思います。
(編集:海保奈那・河原香菜恵)
3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展)では他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!
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