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統合デザイン学科卒業制作インタビュー#01北野歩実さん

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北野 歩実(きたの あゆみ)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクト所属


_卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。
『XXXXX』という作品で「集積」をテーマとした作品です。
シルクスクリーンで1枚1枚手で刷ったものを大小7点作りました。


_この作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
人の目や脳では、文字の順番が入れ替わっていても読むことができるという、タイポグリセミア現象が起こります。この現象を知った時、絵を見る時も人は少しの情報しかなくても描いてあるものが何か認識できるのではないかと考えました。そこから着想を得て「集積」をテーマに、人が一度は見たことのあるモノを選び、モノが持つ質感、奥行き、色、全てを排除した作品を制作することに決めました。


_テーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
卒業制作について考え始めた時は「最後だから、大きくてかっこいいものが作りたい。できれば大きい部屋でどかーーーんと展示したい」という漠然とした考えから始まりました。

他の生徒がきちんと順序立てて考えているのを見て、作品の大きさから決めるのは浅慮な考えだったかなと思いましたが、大まかな目標として「大きなものを作る」ということは目指すものとしてはわかりやすく、結果的には良かったかなと思っています。

そこからポスター作品にするか、大きなキャンバスを使うか、横断幕を作るか、でっかい立体物にするか、どうしたら見に来てくれた人に「すごいのを作ったな…」と言わせられるかを日々考えていました。

そんな時、人の目や脳ではタイポグリセミア現象が起こることを知り、絵を見る際も人は少しの情報しかなくても描いてあるものが何か認識できるのではないかと考えました。

※タイポグリセミア現象
"単語の文字順が変わっても、語頭と語末の文字が正しければ、問題なく読めてしまう現象。"
引用:デジタル大辞泉

これ、卒制で試してみたいなと気になりだし、ここからは「シンプルなグラフィック表現」を突き詰めてモノのシルエットのみを切り出した表現方法や、立体物をプレスして平面的にする表現など、試行錯誤していった結果、モノが積み重なることによってできるシルエット表現というものに行きつきました。

そこから「集積」をテーマにどんなモノの重なりを使って制作をするか、題材にするモノの選別・調査をはじめました。

散歩に行っては、モノの重なりを見つけて写真に収め、シルエット化しての繰り返しの日々でした。

集めていくうちに、重なりの特徴は2種類に分類することができるということに気づきました。
例えば、買い物カゴは同じ形のカゴが均一に重なり、網の部分からは均一的な綺麗な隙間ができます。一方でコードがたくさん集まり、絡まった時にできる隙間は不均一な隙間で、立体的に見ても綺麗な隙間とは言えません。
とりあえずはこの2種類に分けて、均一的な重なりか、不均一の重なりかでモノを選別していきました。

均一の重なりと不均一な重なり

選別していくうちに不均一な重なりの中で、同一の形のモノと、異なる形のモノの集積に分類できることに気づきました。

例えば、洗濯バサミや、テトラポットの集積は、買い物カゴのように均一に積み重ねられているわけではないですが、モノとしての統一感があるためか、集積としての美しさは感じると私は思いました。しかし、コードの集まりだったり、木の枝を集めて作られた鳥の巣には、モノとしての統一感や集積としての美しさがあまり感じられないと考えました。

同一の形の重なりと異なる形の重なり

こうして、選別・調査をしていくうちに自身が求める集積のこだわりのようなものに気付いていき、題材にするモノは同じ形のものが重なってできる「集積の形」にしようと決めました。


ここから、紙への印刷の仕方を考え始めました。
印刷方法を考える時期に私は『「ヒロシマ・アピールズ」2007/松永 真』のポスターを参考に「黒」について深く考えていきました。ポスターには何層にも重ねて印刷された「黒点」。こんなにも重く、どっしりとした黒の表現があるのかと驚きました。
このポスターの「黒」を見てから、「黒」には他の色にはない「質量」を感じるようになりました。これは、集積をテーマとしている私に合っている色だと考え、黒一色にこだわろうと決めました。

もう1つこだわったのは、モノが重なった部分も表現するということです。
一回の印刷で、全て印刷してしまうのではなく、モノのシルエット一つ一つを分けて印刷するという表現です。

しかし、4mの紙を何回も印刷するということは現実的ではありませんでした。(この時点で作品の大きさは4mに決めていました)作品の大きさは絶対に妥協したくないし、一回刷りの印刷だと絶対に良さが伝わらない。と悩んでいた時にシルクスクリーンで刷るという方法に辿り着きました。

モノのシルエットで1枚のシルクスクリーンを作り、重なるように何回も刷っていくという印刷方法です。

1m以上ある大きな版は自分には作れないので「田辺スクリン型工業株式会社」さんに依頼をして作っていただきました。

シルクスクリーン版

ここからは、刷っては版を洗い、刷っては洗いの日々で毎日お風呂に4回は入っていました。実家で制作していたこともあり、リビングは足の踏み場もないくらい作品を広げていました。リビングには居られないので、母が洗面所で本を読んでいた時は申し訳ない気持ちになりました。笑

作業写真2

作業写真2

シルクスクリーンの作業と並行して、写真をまとめた本も制作しました。
制作過程をずっと写真に収めてきたので、手元に残る何かが欲しいなということで制作しました。


_展示空間はどのように考えていきましたか?

展示

展示全体2

大きいものを作りたいと思っていた時からずっと、展示場所は映像スタジオを狙っていました。笑

ですので、展示空間のレイアウトや、どのくらいの規模を予想して作ればいいのかなどは初めから考えてはいたのですが、どうやって作品を吊るすかや、照明が何個使用できるかなどは直前になるまで考えておらずかなりバタバタしてしまいました。

本や、版も一緒に展示したのですが、乗せる什器はかなりこだわって作りました。少し斜めになっていて、人が目につきやすい高さにした什器です。


_展示を行った感想を教えてください。
私は、映像スタジオの入り口に一番近いところで展示していたのですが、入ってきた人が「おお~すごいでかいのがあるな〜」と言って入って来てくれるのが嬉しかったです。

そこからキャプションを読んで「え?これシルクスクリーンなの?手刷りなの?こんなでかいのに!?」と驚いてくれる人や、インクの重なりを熱心に見てくれる人、本を見て「これ欲しい」と言ってくれる人々の姿を見てやっと、作り終わったんだ!という実感が湧きました。

ですが、キャプションを置く位置について少し後悔があります。
作品を制作することばかりに意識が向いてしまい、全くテイストの違うキャプションをどう置いたら馴染んでくれるのか、ということを最終日まで悩みましたが、改善できませんでした。


_この作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。この作品で初めてシルクスクリーンを使った作品を作ったのですが、手作業で何かを作り上げることがとても力になるということに気づきました。全身を使って大きなものを刷る作業や、手製本で分厚い本を作ったりして、大きな達成感を感じたり、作品への愛着が増しました。
今の時代デジタル上で全て解決できることも多くなりましたが、私は今後も自分の手を使って制作できることに挑戦していきたいと思っています。

Instagram : @notaki_d

(インタビュー・編集:海保奈那・蕪木彩加)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)でご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)

会期
3月13日(日)〜3月15日(火)
10:00 - 18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分

詳細:2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B


次回の卒業制作インタビューは…!

「Animacy of still lifes」
岩瀬 太佑(いわせ たいすけ)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
中村勇吾プロジェクト所属


コマ撮りアニメーションの作品集を制作した岩瀬さん。
身の回りのものをモチーフとして選び、生物ならではの行為を組み合わせたそうです。
初めて挑戦するコマ撮り撮りアニメーションをどのように制作していったのでしょうか?
卒業制作インタビュー第2弾は明日公開です!乞うご期待!

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