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統合デザイン学科卒業制作インタビュー#07丸山孝穂さん

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丸山 孝穂(まるやま たかほ)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
菅俊一プロジェクト所属


_卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。

作品全体_2

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『目は口ほどに、』という作品を制作しました。
表面では人の目元を切り取った映像を、裏面では実際の撮影風景をセットで流しています。この作品はまず目の動きから何らかの感情を感じてもらうことを目的にしていて、そのあと裏面に回ってもらい、実際は特定の動作を撮影しただけで感情は存在していないことに気づいてもらう流れになっています。一例を挙げると、目が三日月型になると私たちは「笑った」と推測しますが、実際は視力検査をしていただけで、遠くにピントを合わせる為に目をすぼめた動作を撮影したものだとわかる、といった内容です。

私たちは他人の気持ちを正確に感じ取ることはできません。相手の表情や声色、その場の状況など様々な要素から推測をしているだけなのです。完全には分かり合えないからこそ、気持ちを想像し推し量ること。時に間違った決めつけが起きること。それらの人間らしさに焦点を当てて、この作品を制作しました。

「目は口ほどに物を言う」とは言いますが、本当にそうなの?という問いがこのタイトルに込めてあります。人は分かり合えないというと冷たい印象がしますが、だからこそ伝え合う必要があるよね、といった気持ちも含めた作品のテーマになっています。


_この作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
自分はなんで今こう感じたんだろう?ということや、あの人は今どう思ってたのかな?といった取り留めのない事を考える性格だったことや、人の行動や感情には理由があって、それを理解すれば操作ができるということへの興味がきっかけです。

3年次は定期的にプロジェクトの担当教授である菅先生と卒業制作のテーマについて考える面談があったので、そこでぼんやりと感情を扱ってみたいことや、人の感じ方や考え方の操作について考えてみたい、といった話をしていました。

4年の前期ではプロジェクトの課題の進め方に合わせてリサーチや実験をメインに行っていました。そもそも感情とは何なのか、どういうメカニズムなのか、他人の感情はどう理解しているのか、といった原理を書籍で勉強しました。それらのリサーチを踏まえ、表情や動作など複数の要素から感情の判断をしている中で、情報を絞ったときに感情は読み取れるのか、という実験を繰り返しました。感情が現れている動作を撮影して手元だけ切り抜いてみたり、映画のワンシーンの顔や目を隠してみたり、逆にその部分だけを切り抜いて感情が読めるかを検証していました。

前期の後半では、感情が作用した結果だけを抜き出してみたり、逆にそこに要素を足して、感情の推測ができないか試行錯誤しました。怒って椅子を蹴飛ばした映像から、人を抜いても怒りは感じるのか?といった具合です。

この辺りから「絞った情報で推測させる」というテーマに決まっていきました。前期分のリサーチ・実験は思考の過程として整理し、展示も行いました。

リサーチ展示_2

テーマは見つかっても最終的なゴールが見つからず悩みましたが、自身が何を一番面白いと思っているのか?を見つめ直して作品の核を固めました。
「他人を完全に理解するのは不可能で結局『想像』でしかない」「勝手に推し測って勝手に決めつけている」部分に興味があるのだと分析し、同時に「事実とは異なっても、条件さえ揃えば決めつけてしまうのではないか」という仮説を立てました。


_テーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
立てた仮説から、感情を持っていない他者から感情を感じ取ってしまう、という現象が面白いなと思い制作を始めました。最初は音楽を再現する楽譜のように、感情が現れた状態を再現できる「感情譜」を考えました。例えば動く円を目で追うだけで、怒ったような目つきが再現されるような動画です。

#どんな感情を再現させるか、どんな指示を出せばいいか、を同時に考えていくうちに、今の「感情と関係の無い動作をしているのに、目だけ切り取ると感情があるように見える」というフォーマットに落ち着きました。

演技になってしまうので「笑っている目が撮りたい」と伝えて視力検査をしてもらうような事は避けて、シンプルに「視力検査をして欲しい」「レモンを食べて欲しい」という動作だけ伝えて友達を撮影しました。(薄々勘付いて協力してくれていたとは思いますが…)

演技ではない分感情に見えなくてボツにしたり、逆に目を見開く「驚き」はわかりやすく推測できるので入れたかったのですが、その目を作り出す自然な動作が思い浮かばず入れられなかったりもしました。

人を撮る、という自分1人では成り立たない作品になってしまい、結果として10人以上の友達を撮影しました。一番他人を巻き込んだ作品かもしれません。涙が出るまで玉ねぎを切らせたり、レモンに更にクエン酸をかけて食べさせたり辛い事ばかりお願いしたのですが、皆快く協力してくれて感謝しかありません。統合デザイン学科での4年間はとにかく人に助けられてばかりだったのですが、最後の最後までそれを体現した作品になったなと思います。

レモン_2



_展示空間はどのように考えていきましたか?

展示風景_2

人間への興味に溢れた温かみのある作品のつもりだったのですが、目がズラっと並ぶのは怖い!と言われてハッとしました。なので怖さが先行しないようにモニターのサイズや什器を箱型にしないこと(人が入ってそうで怖くなる)に気をつけていました。

それから、
1.目を見てもらう
2.感情を推測してもらう
3.ネタバラシを見て、感情がないと知る

のステップを正しい順序で行わないと意味の無い体験だったので、体験の動線については1番考えました。目とネタバラシが同時に見えないようにiPadを両面設置にしたり「これの撮影方法は何かな?」と1つずつ答え合わせをするクイズにならないように、什器と什器の隙間は人が後ろに回りこみたくならないギリギリの距離にしました。

iPadが8台あるのでその分コード類も多く、配線については頭を抱えました。設営してから必要な長さを測って買おうと思っていたのですが結局前日になり、渋谷の電気屋で冷や汗が止まりませんでした。特にコードが隠せるような設計にもしていなかったのでどうなるかと思いましたが、結局テープを直貼りして隠す方法が1番綺麗で採用になりました。なんとか目立たず設置できて良かったですが、もっと早くから考えるべきだったと反省しました。


_展示を行った感想を教えてください。
広い空間も格好良い見た目もないので、来場者にどう映るかが怖かったです。会期序盤は全くと言っていいほど想定の順序で鑑賞してもらえず、何がしたい作品なのかが伝わっていませんでした。会期中でしたが導入の文を書き換えたり、裏面に文字を追加して意図が伝わるように工夫を続けました。わずかな変化でしたがその後は明らかに鑑賞の仕方が変わり、現場を観察する必要性を実感しました。作品を見ている人がなるほどね、面白いね、と言っているのを聞いた時にすごく不思議な気持ちになりました。自分が面白いと思っていたことに共感してもらえたこと、また小さなタネでしかなかった自分の興味を、誰かに面白いと感じてもらえるまでに作品として昇華できたことに驚きを感じました。


_この作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。卒業制作はほんの小さな興味について、1年以上の時間もお金も費やして考え抜いた貴重な体験でした。
それからこちらが見て欲しいように作品を見てもらうこと、感じて欲しい通りに感じてもらうことの難しさを実感しましたし、だからこそやりがいや楽しさがありました。なので興味を大切にすることと、体験を設計することは今後もやっていきたいです。後者は何とか仕事になったらいいなと思います。

そして、期間中は住んでいたと言っても過言ではないくらい大学で作業していたのですが、 気軽に話が出来る人達と自由に物が作れる環境は本当に恵まれていました。相談して、ぶつかって、助け合うことは1人では到達できない領域へ行く方法だと思います。社会に出てからも個人ではなく人と関係を築いて物を作りたいという気持ちが強くあります。

(インタビュー・編集:海保奈那・蕪木彩加)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)でご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)

会期
3月13日(日)〜3月15日(火)
10:00 - 18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス アートテーク
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B

次回の卒業制作インタビューは…!

「しりとり」
髙下 幹人(こうげ みきと)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
菅俊一プロジェクト所属


「しりとり」をビジュアル化したアニメーション作品を制作した髙下さん。
「りんご、ごりら、らっぱ、ぱんつ......」と、しりとりのゲームをしている声に合わせて絵がどんどん変化していきます。
単語の最後の文字から始まる言葉を言っていくという単純なルールに、とある魅力をみつけたそうです。その魅力とは何か?
卒業制作インタビュー第8弾は明日公開です!

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