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統合デザイン学科卒業制作インタビュー#09松坂陽日さん

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松坂 陽日(まつさか ゆい)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
永井一史・岡室健プロジェクト所属


_卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。

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私は糸の素材研究として身近なものに糸を巻きつけてかたちどる立体作品を制作しました。
線で立体を作ることの面白さと、糸を巻きつけてできる濃淡や模様の繊細な綺麗さに注目した作品です。
白い糸で作ることでそのものの機能や色、素材感を消し、身近なものの形を改めてみることができると思います。
また、硬いものは硬く、色の濃いものは濃く見えるように糸の量を調節し、糸を使ってできるそのものらしさを表現しました。りんごは赤から黄色になるようなグラデーションがわかるように巻いています。カトラリーは硬いものなので、りんごよりも糸を巻きつける回数を増やし硬く見せました。同じ長細いものでも鉛筆には鉛筆なりの糸でできる模様があり、ビンにはビンの模様があります。モチーフの違いで模様が異なり、糸の一巻き一巻きが重なってそのものの形を生み出しています。


_この作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
私の所属する永井・岡室プロジェクトは卒業制作のテーマを決めるために
興味のあるテーマを見つける→実際に作ってみる→永井先生、岡室先生からの講評というサイクルを一定期間に3回行い、自分の興味のあることや、やりたいことを見つけていくという方法をとっていました。

私は1回目の講評では、白いものの繊細さに惹かれていたので、同じ白でもその種類は膨大にあることを比較しながら検証し、日々の中の面白い発見ができるような作品を制作する予定でした。しかし、1回目、2回目と制作し、講評をしていただく中で、私も先生方もやり方に首を捻るようになり、限界が見え始めました。その作品では白いものをとりあえずたくさん集めたり、白い素材で既存のものを作りどう見えるかという実験をしていました。

その実験として作ったものが白い糸で立体的に作った豆腐です。豆腐のパックに糸を平行に貼り付け、後でパックから糸を取り外すという簡易的な方法で制作したものでしたが、出来上がったものを見た時、私の目にはとても魅力的に映りました。糸で立体物を作る意外性と、糸だけでも豆腐の独特な辺の丸みや台形の広がる感じで「豆腐をかたどったものである」ことが分かるという面白さがそう思った理由ではないかと思います。

白い糸でできた繊細な感じと今まで取り組んできた自分のやりたいことが合っていたので、糸の豆腐で感じた面白いと思ったことを拡張し、他にも色々なものを制作したいと思いました。そして糸の素材研究や表現方法を探ることをテーマに決め、糸で彫刻のような立体物を制作することにしました。


_テーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。

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一番最初に糸で豆腐を制作し「なんかいい」と思った理由を分析しました。その結果、糸が自立して立体的に何かの形になっている面白さと、細い糸の繊細さが「なんかいい」に繋がっているのではと思い、糸の素材研究をして糸でできる表現の可能性を探る作品にしようと思いました。

まずは、糸の特性や巻くことでできる表現について考えました。巻く量の違いでできる濃淡の違いで色の違いや硬い・柔らかいなどの質感の違いを出せたり、巻き方でできる不揃い感や均質感などの表現ができるのではと予想し、実際に作業しながら具体的に見つけていきました。

次に何をモチーフにするかということを考えました。とりあえず手を動かそうと思い、糸の中から取り出しやすいという理由でチューブ型のハンドクリームのパッケージやネイルの瓶を制作しました。また人の手を石膏で型取り、作ったりもしました。手の制作は構造が複雑で難しかったことと、手ではなく製品を作った方がいいのではと思い、途中で断念しました。手の制作を進めながら、同時に糸の種類や太さを検証しました。15種類ほど糸を買い集め比較してみると白の色にも種類があったり、艶があるものやないものなど糸の種類によって様々な違いがあり、面白かったです。繊細な表現がしたいと思い、その中から白く細めで艶のある絹糸を選びました。また、糸の艶が消えないことと接着されていることがわからないようにするためにデンプンのりやウレタン、膠、瞬間接着剤など様々な接着剤を試しました。最終的に一番扱いやすく、適度に粘度があり、見えにくく、糸の質感をそのまま残すことができるという理由からスチノリを選びました。

この作品の作り方を簡単に説明すると、

1.モチーフに薄く油を塗る
2.紙コップに針で穴を開けそこに糸を通し、紙コップに接着剤を入れる(糸3.引くと薄く接着剤を纏った糸が出てくる)
4.モチーフに巻きつける
5.巻きつけ終わったら乾燥させる
6.カッターで切る(目立ちにくいところを探して)
7.中からモチーフを取り出す
8.接着剤でつなぎ合わせる

この順番で制作をしました。

作業での一番のこだわりは、接着剤の存在を消し、糸がナチュラルな状態でただ立体的に形を作っているように見せることです。適切な接着剤を選ぶとともに、紙コップで効率的に糸に接着剤をつける方法を開発しました。

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制作していく中で、糸の重なり合うことでできる模様の綺麗さに気づきました。そして濃淡を使ってさらに表現できるのではと思い、赤青鉛筆の赤色では糸を少なく、青色では多く巻きつけて制作しました。赤から青に切り替わるところがわかって面白いかなと思います。また自然のものであるりんごの赤から黄緑に変わるグラデーションを表現したいと思い、たくさん巻くところと少ししか巻かないところを作るなど濃淡を作りました。

手探りで作っていき、その途中でどうしたら効率良く綺麗に作ることができるのかを考えながら制作していきました。学校で作業をしたので一緒に作業していた友人にもアドバイスをもらっていました。巻き終わったものを切ってモチーフを取り出す作業が一番緊張しますが、うまくできているととても達成感があります。身近なものだと糸でできた形と頭の中のイメージの比較ができて面白いのではないかと思い、最終的には皿(2種類 大・中)、カトラリー(スプーン・フォーク)、瓶、林檎、ハンガー、洗剤の詰め替え用、色鉛筆(3種類)にすることに決めました。


_展示空間はどのように考えていきましたか?

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展示をして人に見てもらう時には糸で作る繊細さを見て欲しかったので、シンプルな空間にしようと思いました。
展示台の工夫として、作品自体は大きいもので約25cm×約15cmで、一般的な高さの机に置くと少しかがんで観賞しなくてはならないので、キッチンの高さを参考に見やすい高さを考えて設定しました。
作品の位置を高くしたことで来場してくださった方に顔を近づけてじっくり見ていただけました。
また、糸の重なりや模様が見やすいように展示台を黒のジェッソを使ってマットな質感にしました。

作品の配置の仕方も工夫しました。はじめは天板が60cm×90cmサイズの展示台に11点の作品を乗せていましたが、所属しているプロジェクトの講評時に先生方から「もっと空間を空けてゆったり展示した方がいい」とアドバイスを頂き、展示台を4つに増やしました。その結果空間に余裕ができ、作品ひとつひとつがしっかり構えているような印象になりました。 

また、作品の配置の仕方も工夫しました。紙コップの作品は3つあったので1つを前に、残りの2つを重ねて構成したり、ハンガーの作品では直角に曲がった棒を展示台に設置してそこに作品を掛けたりして、それぞれの作品から糸を垂らして少し解けているような様子を表現しました。置く位置や組み合わせてスタイリングするだけで見栄えが変わり、さらに魅力的に見えました。

光の当て方は、蛍光灯の部屋よりも少し暗めで自然光が入るの部屋を選んだので、天井からライトで作品を照らしました。糸の重なりの隙間でできる影を見せたかったので作品の少し後ろ側から照らし、網目が綺麗に見えるようにしました。


_展示を行った感想を教えてください。
自分の作品を見てこんなに喜んでいただけると思っていませんでした。在廊しているときは嬉しい言葉をたくさん聞くことができ、今まで頑張ってきたご褒美だなと思いながらこっそり聞いていました。

見つけた時はいいアイデアだと思ったものでも毎日考えたり作ったりしていると、どんどん最初のいいと思っていたことが失われていき、本当にこれでいいのか......?と自信がなくなってしまっていた時もありました。
しかし友人に相談し、アドバイスをもらったり、時には褒めてもらってモチベーションを保つことができ、自分以外の人の意見の大切さをとても感じました。

また、置いておいた感想ノートには「作業工程を見たかった」「どうやって作ったんだろう」と作り方に興味を持っていただいていたので、このnoteを見てもらえたらなと思いました。


_この作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。1・2年時はインターフェースやインタラクションの授業が好きだったり、3・4年時では永井・岡室プロジェクトに所属してアイデアや仕組みのようなものを考えることが好きでした。今までそういうことを選んで作品の制作を行なってきましたが、この作品を作り続けてみて、自分が造形の綺麗さに興味を持ち楽しんで作る事ができることが分かりました。接着剤の剪定や、巻いた後にモチーフを取り出す方法などの作り方を見つけるのに時間がかかり、完成が期限ギリギリになってしまってやりたいと思ったことができなかった部分もあるので、趣味として継続して作品を作っていきたいです。

その例としては、もう少し巻き方を統一させてモチーフそれぞれの違った模様が出るのかという実験や、違う巻き方を発見して模様の種類を増やしたいです。また、今回は比較的簡単なカタチのモチーフで作りましたが、複雑なカタチにしてみたらどうなるのか、どのくらいの大きさまで作ることができるのかなどを実験してみたいです。


(インタビュー・編集:海保奈那・河原香菜恵)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)でご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)

会期
3月13日(日)〜3月15日(火)
10:00 - 18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス アートテーク
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B

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