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統合デザイン学科卒業制作インタビュー#06兵藤茜さん

プロフィール写真01

兵藤 茜(ひょうどう あかね)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
永井一史・岡室健プロジェクト所属


_卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。

02.惑星

03.月と太陽

『KAOKAO』というタイトルで、万物には顔が存在し、そこには必ず性格や個性があると主張するイラストレーション作品を制作しました。これは、本来顔のない植物や人工物、食べ物などに顔を描くことで命を吹き込み、人間と同じように感情を持って生きているという考えから生まれたものです。
主に植物・自然物・食物・人工物の中からモチーフを探しています。それらを種類ごとにまとめ、全部で24枚描きました。

例えば、自然物のジャンルから惑星をモチーフとして選択した例では、太陽系の惑星に顔を描き、ローマ字でそのものの性格や、普段何を考えながら生活しているのかを記しています。イラストから文字まで全て手描きにこだわりました。

展示会場には、A2サイズに印刷したイラスト24枚を壁に貼り出し、手に触れるものとして本も作成しました。また、A4サイズに印刷したものを用意し、お客さんが家に帰ってじっくり読めるように配布もしました。
制作段階で作品を見た人達に驚きを与えたいと思い、あらゆるところに見せ場ができるように仕掛けを散りばめています。

お客さんが壁に貼ってある絵に近づいてきて、顔があると気付く→種類ごとにまとめていると気付く→じっくり見てみると、性格が英語ではなくローマ字で書かれており、日本語で読めると気付く→イラストを見て「こんなに細かいところにも顔が描いてある!」と気付く→本のページをめくりイラストをじっくり見る→自分のお気に入りを見つける→配布用のプリントを持ち帰り、家で読んでみたり飾る。

これが私の理想の動線でした。実際に会場でお客さんの様子を観察して見ると、みなさん楽しみながら理想通りに見てくださる方が多く、嬉しかったです。


_この作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
きっかけは2つあります。
1つ目は、公園に遊びに行って友達と鬼ごっこをした後、帰り際にシロツメクサを見てみると、ペチャンコに潰れていた時。消しカスを無意識に机から床に払い落としていた時。お茶碗に残っている最後の一粒の米粒を食べなかった時。そんな、ちょっとした罪を犯した時に「痛かったよ!」「ちゃんとゴミ箱に捨ててよ!」「まだここにいるよ!」といった、物達からの声が聞こえてくるような気がしたことです。大学に入学する以前から「今こんなことを言われてそうだな」と想像をして、この子はどんな性格なのかなと想像していました。

2つ目は「顔」という言葉の意味を不思議に感じたことです。
私達が人と話をする時に、なぜその人の顔を見て話すのだろう、と考えたことがあります。そもそも、人を作り出しているのは顔ではなく、肉体や細胞、臓器です。特に、心臓が止ると人は死んでしまいます。そうすると、心臓が人間の本体だと考えてもおかしくないのに、なぜ心臓ではなく、顔を見るのか…...。と悶々と考えていました。

そして、私なりに出した答えが「顔」は人間の本体ではないけれど、その人を「象徴」する存在だ。ということです。その人の顔を見ると、どんな性格で、喋り方で、自分とは違った個性を持っていて…などと、その人の情報を代表している物なのだと思いました。つまり「顔」という言葉の裏には、「性格」や「個性」といった言葉も含まれていると気づいたんです。
この2つの考えを合体させて、感情のないものに顔を描くことによって、性格付けをしていくという作品につながり『KAOKAO』ができました。


_テーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
卒業制作を考え始めるよりも前から「顔」について興味があったので、大学2年生の時に同じクラスの友人達と「顔」をテーマにしたZINEを制作しました。それが、初めて自分の中にずっとあった気持ちを制作を通して表現できた活動でした。
そこで私は、「ヘンテコ形態観察記録」というタイトルで物に自分の影が反射してヘンテコな形に歪んだ様子を「〇〇形態」と称し、イラストと、そのものの特徴・目撃情報を紹介しました。

04.ZINE_水玉形態

例えば「水玉形態」は「特徴:お風呂に入っている時に視線を感じるなと思ったら、鏡を見てみて。逆さになった自分の顔が大量に観測可能」「目撃情報:水玉になった自分にじっと見つめられて少し怖いです」というように紹介してきました。
この作品が『KAOKAO』を制作する最初の要因です。

次に、3年生の時に受講した、イラストレーションの課題で作った「顔顔新聞」という作品が卒業制作の土台となっています。

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この作品は、幅広い意味で「顔」という言葉を捉えていて、自分で考えたキャラクターの生活に密着した記事を載せていたり、番組欄や、ヘンテコ形態観察記録をまとめ直したりしていました。

その中でも、「Leaf Face」という記事が「KAOKAO」の原型です。葉っぱのイラストと、性格をローマ字で描いています。この顔顔新聞も全て手描きで描きました。

06.顔顔新聞_Leaf Face

これまでの制作で、「顔」をテーマにすること・顔を描き性格付けしていくこと・全て手描きで描くことが決まりました。

そこから4年生の制作段階で、昔の西洋の博物画のような世界観を目指そうと考え、緻密に描写し「こんなところにまで顔が描いてある!」と驚きがあるように手を抜かずゆっくり描き進めていき、約3ヶ月で下描きから清書をしました。


_展示空間はどのように考えていきましたか?

07.展示風景

10.展示風景

まず、3年時に先輩方の卒業制作を拝見した時から、3号館の映像スタジオの広くて暗い空間で展示してみたいという気持ちがありました。スタジオでは暖色の照明を当てることができるし、空間が広いことから、規模の大きな作品を作ることができるからです。

そこから、私の作品のイメージが博物画だったので、博物館のような落ち着いていて知的な雰囲気とマッチするのではないかと考えました。

また、イラストには顔が描いてあるため、スタジオ以外の照明や空間だと、キャラクタライズされることもあり可愛くなりすぎてしまうかもしれないな、と予想していました。もちろん可愛いというのが大前提で大事な要素なのですが、ただ「可愛い」ということがやりたいわけではなく、あくまでも「博物画」の雰囲気に空間を作り上げていきたいと考えていたので、映像スタジオを希望しました。

スタジオの薄暗い雰囲気と博物館のイメージから、壁は黒で机はダークブラウン、紙は新聞紙のような質感のある「タブロ」という紙を選択し、「シックだけど可愛くて、かっこいい」空間に見えるように作り上げていきました。

08.展示風景

また、博物館の雰囲気を演出するため、壁に張り出したイラストの4辺に虫ピンを刺し、標本のように展示しました。

この展示空間を決めたのは設営の直前で、それまで壁や机を何色にするか悩んでいたり、さらにもっと前は、展示方法は壁貼りではなく吊るそうと考えていました。しかし、実際にスタジオの空間を見てみたり、先生に相談して最終の展示形態に決まりました。


_展示を行った感想を教えてください。
私の中で、卒業制作でイラストを展示するという事が「デザインの学科なのにデザインじゃないじゃん!」と言われそうで、受け入れられないのではないかという不安要素がありました。卒業制作の案出しの際に、”頭を使って考えるような作品を作るもの”と考えていたのですが、先生から「あなたは難しく考えるより、これまでやってきた制作を信じてやったほうがいいかもね」と言われたことと、最も得意な分野であるイラストを描きたいという思いから、イラストで卒業制作に挑もうと決めました。

実際に展示会場でお客さんの反応を見てみると、度々「可愛い~!」という声が聞こえたり配布用のプリントを嬉しそうに持って帰ってくださったり、写真を撮ってくださる方が多く、嬉しかったです。会場には感想ノートを設置し、多くの方からお言葉をいただきました。その中のいくつかをご紹介します。

「上手な絵、おしゃれな絵かと思いきや、全てに顔があるという設定がかわいいですね。ギャップ感がたまりません。」「身の回りのものに愛着がわきますね」「顔を描くだけでこんなに命が宿るとは・・・!」「手で描くという行為から愛がとても感じ取れました」「かおが、すしや、ひょうしきなどにあったのでおもしろいです」「SIRUNITOKETAKIMIGAKANASHINDENAKUTEYOKATTA!」「お寿司が一番好きでした。ご飯粒にも顔があるのがツボです」などという感想をいただきました。
私が伝えたかった事や、見て欲しかったところを見て下さっていたし、何より共感してくださった事がとても嬉しかったです。
自分の中にあった考えを卒業制作という規模の大きな展示で表現し、それを見た人たちに少しでも楽しい時間を与える事ができて、とても良い経験になりました。


_この作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。
キャプションの冒頭に「万物には『顔』が存在する」と書きました。「万物」と書いたからには、万物に顔を描かなくてはなりません。今回描いてみて改めて、世の中に溢れる物の中から、米粒一粒にも満たない量しか描いていないのだなと思いました。ですので、今後も『KAOKAO』の制作は続きます。ライフワークとして描き続けていき、いつか広辞苑くらい分厚い『KAOKAO ZUKAN』を発行できればいいなと思います。

また、それと同時に『KAOKAO』で少し展開した『TAIYOU TO TUKI』の話などは絵本などの原案としていいなと感じました。ただ、絵本は必ずしも子供に向けて作ったものではなく、大人も楽しめるような内容の絵本を作りたいです。

さらに、卒業制作を通して感じた事は、3年時に受講したイラストレーションの「1日1枚毎日描く」という課題に真剣に取り組んでいて良かったという事です。この課題を行なっていた時期が、リモート授業で外出することもあまりなかったので、自分と向き合う時間がたっぷりあり、イラストに集中できたということと、そのおかげでイラストが上達したことです。

この課題があったからこそ、卒業制作で満足のいくクオリティのイラストを提出する事ができました。ですので、これからも毎日ではなくともイラストを継続して描いて上達し、新しい作品を作っていきたいです。

Instagram : @55chon_chon

(インタビュー・編集:海保奈那・河原香菜恵)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)でご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)

会期
3月13日(日)〜3月15日(火)
10:00 - 18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス アートテーク
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B

次回の卒業制作インタビューは…!

「目は口ほどに、」
丸山 孝穂(まるやま たかほ)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
菅俊一プロジェクト所属


表面では人の目元を切り取った映像を、裏面では実際の撮影風景をセットで流している作品を制作した丸山さん。
「目は口ほどに物を言う」とは言いますが、本当にそうなの?という問いがこのタイトルに込めてあるそうです。
この作品を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
卒業制作インタビュー第7弾は明日公開です!乞うご期待!

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