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統合デザイン学科卒業制作インタビュー#05葉競航さん

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葉競航(YE JINGHANG)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクト所属


_卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。

『THE GOD OF WEB-KARMA』という歪んだネットの現状を風刺した映像作品を作りました。

ソーシャルメディアのパワーがますます強くなってきている現在、1人の人間を簡単に引き立てることができる一方、一瞬で握りつぶすこともできます。
一部の人は、まるで神様を拝んでいるようにネットのアイドル、芸能人、インフルエンサーや人気者を極端に崇拝しています。
過度に自分の顔を修飾して豊かな暮らしぶりをアピールする人もいます。

またネットの情報を鵜呑みにし、そういった情報を盲信して他人を攻撃する人もいれば、言葉の暴力、サイバー暴力を振るう人もいます。

このようなインターネットの現状を見て、一人一人の執念・崇拝・アピールは宗教の流派のように存在しているにもかかわらず、その中身が空洞のように支離破滅なのではないかと思いました。

そこで、宗教の要素をネットと結び付けて映像に表現したいと考えました。仏教には、3つの煩悩があります。貪・瞋・癡という、人間の持つ根本的な3つの悪徳のことを意味します。


貪欲ともいい、むさぼり(必要以上に)求める心。貪欲のことを指す。

瞋恚ともいい、怒りの心。怒ることを指す。

愚癡(ぐち)ともいい、真理に対する無知の心。愚かな行為を指す。

私の着眼点は、ネットで起こっている様々な歪んだ現象と仏教の3つの煩悩との共通点です。
サイバー暴力、過度な修飾、極端な崇拝、盗作、この4つのネット現象は、煩悩から誕生したと考えています。この4つのネット現象を各々魔神化させ、架空の神様に起こしてみました。歪んだネットの現状を風刺し、作品をアニメーションで表現することに挑戦してみました。

家では仏教信仰のため、小さいときから仏教の影響を深く受け、興味を抱いています。今回の作品も様々な案を考えていましたが、自身の信仰も含めつつ、仏教文化と表現をもとに表すことにしました。これでより多くの人々の共鳴をそそり、考え直すきっかけになることを期待しています。


_この作品を作ろうと思った経緯について教えてください。

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今回の卒業展示では正直、何度も案を変えてきました。実際の方向性が見えてきたのは、もう2021年の10月あたりでした。

うちは仏教を信仰する家柄なので、わりと宗教の影響も受けていましたが、普段のデザイン制作には宗教を取り入れていませんでした。ただ、履修したイラストレーションの授業では仏教をテーマに400枚以上の作品を描き、模写でも自分がオリジナルで作った神様たちのイラストを制作しました。これも1つのきっかけで、6月に卒業展示の構想を考える時は、宗教を思考の視野に入れていました。

最初は架空の宗教系の本を作りたかったのですが、あまり深められなくて諦めました。それからまたいくつかの案を考えて10月にやっと、SNSの四大悪行と仏教の三毒をつなげてデザインを進めることに決めました。


_テーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
テーマを決めてから最初に考えたのは、ポスターを4枚作って、サイバー暴力、過度な修飾、極端な崇拝、そして盗作、という4つのネット悪行を宗教で表そうとしていました。

しかしそのうち、一枚一枚単体で作るとバラエティに富んだ装飾とデザインができなくなり、派手なビジュアル効果も実現できなくなると気づきました。そのため、中国チベットの「六道輪廻図」を参考に、4つの主要人物を1枚の図にまとめる事にしました。

六道
仏教において、衆生がその業の結果として輪廻転生する6種の世界(あるいは境涯)のこと。六趣、六界ともいう。

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所属しているプロジェクトの中間講評の際に下書きを提出したところ、先生方から動画で示すアドバイスをいただきました。そうすることでインパクトがあり、細部も分かりやすくなるというご意見をいただきました。しかし、ほとんどアニメーションの制作経験がなく、ゼロから勉強しても時間が足りないと悩んでいました。そこで多摩美術大学の情報デザイン学科の友人から動画制作を教わりながら、また自分はyoutubeとtiktokで動画の制作方法を勉強しました。

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作品に含まれる内容が盛り沢山なので、作品の細部を伝えるために冊子を4部作って、ネットの四大悪行を詳しく文字で説明を入れ、輪廻図全体の内容を説明する冊子を1部にまとめました。そのほかにも配布用のカードもリソグラフ(715Design Labo,lnc.)で印刷しました。

完成までの時間は大変でしたが、とても充実していました。何度も動画と音楽を調整して、最終的にこのような成果ができたことは、私も協力してくれた皆さんも嬉しく思っています。


_展示空間はどのように考えていきましたか?

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今回の展示空間の割振では、完全暗室で2人しかおらず、1人当たりのスペースも広く取れたことで、理想的な雰囲気を作ることができました。最初は大学の55インチスクリーンを借りて動画を流そうとしましたが、最終的に先生のアドバイスでプロジェクトによるオーバーサイズの投影にしました。

友人から投影用の大きな布を借りて、高さ3メートルのスペースに作品を設置しました。スピーカーも音楽を専門的に学んでいる友人が貸してくれたもので、布の後ろに設置して見えないようにしました。音楽はやはりスクリーンから出した方がいいということも実感できました。


_展示を行った感想を教えてください。
展示している間は、スクリーンの置き方やスピーカーの配置、映像の長さなども先生方のご意見で修正しました。

そして毎日たくさんの人が来てくれて、長い時間をかけてじっくり見てくださりました。スマホで録画したり、自分の作品を褒めてくださったときは、本当に大満足でした。最初に配布用のカードを100枚しか刷っておらず初日で全部配り切ってしまい、取り急ぎで300枚を追加で印刷したところ、最終日には全て無くなっていました。

展示をしている数日間はとても大変でしたが、このように自分の作品が認められて本当に嬉しかったです。


_この作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。
ずっと宗教や中国伝統文化の要素が好きでした。今後はこのような分野にとどまらず、引き続きいろんなジャンルにチャレンジし、自分の中にあるたくさんの可能性を生み出していきたいと思います。

Instagram : @zelzelzelzel

(インタビュー・編集:海保奈那・加藤百華)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)でご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)

会期
3月13日(日)〜3月15日(火)
10:00 - 18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス アートテーク
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B


次回の卒業制作インタビューは…!

「KAOKAO」
兵藤 茜(ひょうどう あかね)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
永井一史・岡室健プロジェクト所属


万物には顔が存在し、そこには必ず性格や個性があると主張するイラストレーション作品を制作した兵藤さん。
主に植物・自然物・食物・人工物の中からモチーフを探しているそうです。
この作品を作ろうと思ったきっかけは、ある思い出からだそうで......?
卒業制作インタビュー第6弾は明日公開です!乞うご期待!

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