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統合デザイン学科4年生インタビュー#06本井菜津子

本井 菜津子 (もとい なつこ)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
菅俊一プロジェクト所属

ー現在の主な活動について簡単に教えてください。
今見ているものからわかる二次的な情報/印象について研究しています。例えば地図を見た時に、建物の名前や距離など何かしらの情報がわかると思うんですけど、そういう役割を他のものにも応用できないかと思って探っています。


ー好きなもの・興味のあることは何ですか?
あまり好きなものはないのですが、興味のあるものは色々あります。例えば、生態心理学のアフォーダンスの概念や、哲学の学問の現象学。そこからわかっていくようなちょっとした節々のことや、材料工学の物理的なものについての考え方が現実的に物について考える上で面白いと思っています。


ー「アフォーダンス」「現象学」「材料工学」について、それぞれ興味を持ったきっかけを教えてください。
まず、アフォーダンスは、2018年センター試験の現代文の第1問でアフォーダンスの問題が出題されたことがきっかけで知りました。そこでの意味が「物体の属性の中に物の扱い方がそもそも含まれていて、人はそれを読み取っている」っていう考え方で。人がわざわざ使いに行くのではなくて、ものにそういう情報が組み合わさっているっていうことが面白い考え方だなと思って、興味を持ちました。

現象学は、超越論的な視点で直接経験を語る部分に、人間と物性について考える上でとても刺激を受けました。哲学として論を発展させるためには言語的な強度が必要になると思うのですが、自分はその辺りの正しさよりも経験が言語で定義されることの方に関心を持ちながら勉強しています。邪道な学び方ですけど、面白いです。

材料工学は、細かい素材の性質から物体について考えようとする学問です。
生態心理学や現象学など、自分がこれまで学んできたものが抽象的だったので、現実的に考えられる材料工学に興味を持ちました。例えば、スプーンの形をデザインするのにも、どんな形にするのかや素材の力学的な特性を考慮することに不安がありました。それを払拭するために、物理学について調べていた時に、材料工学に出会いました。


ーその3つの学問分野にどうしてそこまで興味を持つのですか?
相互の関係性に興味を持っていることが理由だと思います。
1番最初のきっかけになったのは生態心理学概論Ⅰの双方向型の授業を受けていた際に、生態学的知覚システムという本から解釈した「ゴキブリの触覚のようなことを私たちは常に感じ取っている」という自分の表現です。ゴキブリの触覚=人間っていうと少しキツすぎますけど…(笑)でも、物事を感じとるときに、環境から何かを受け取る方法はどっちも同じようなところがあって。環境を感じ取る器官は人間の体全体なんですよね。単語は奇抜ですが、それが乖離しているようで乖離していないところが興味深くて。物の設計の巧みさは人間の読み取りの方法をどれだけ上手く扱えたかということでもあるんだなと腑に落ちました。


ー共通していることはなんだと思いますか?
人間と環境に関わるところです。距離感は少しずつ違うんですね。ものから考えはじめて、じゃあそれを道具にするとしたら、材料工学の考え方だなとか。人が使うということを考えたら、生態心理学だなとか。現象学なら、そもそも人とものが客観的にあったらどういう風になるかなとか。扱っているもの自体は「人ともの」とか「ものともの」なんですけど、ごちゃごちゃと視点を変えていくことによってどんどん面白くなっていく深みがありますね。


ー今までに制作した作品について教えてください。

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まず1つが、インフォメーションデザイン演習の「specific typography」という特殊な条件下で読む文字を作る課題で制作した『shape record』です。地元にある目久尻川の史跡の文章をコピーして昔川のあったところに配置するということをしました。文字サイズをここではあえて、かなり近付かなければ読めないような凹んだ文字で蝋の板に配置しています。川がかつてあった土地という歴史とのリンクの淡さ、史跡の延長であることという意味/物理の合成みたいなことがそこに置くことでできかけていたんじゃないかなと思います。
何かの状態であることで成り立つのは本来デザインとしては弱さではありますが、社会にある物を扱ったことでその辺りが克服されたのかなと思いました。カテゴリーはよくわからないのですが、この系統の物が嫌いじゃないなと気付けたことが嬉しかったです。

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もう1つは、ホイール課題で作った『breeze wheel』という作品です。
環境の物理的な何かを、さらに物理的に保存できたらいいなと思って。データっていうと、表に数値がたくさん並んでて量の多寡が分かることがメインだと思います。それも確かに一つの姿ですが、見た目で分かるということは印象的でそれ自体がいいと思えるきっかけになると思っています。そういう見た目でトリガーになるものを作れたらいいなと思って作ってみた作品です。

記録の残し方にも興味を持てたことがよかったです。『breeze wheel』の仕組みは、銅の針金の片側に鉛筆の芯が、もう片方に風船がくっついていて、風船の動きに連動して時計のように少しずつ円を描いて記録します。風船が風を完璧に記録しているわけではないんですけど、みてる時の価値みたいなものが風船だとしたら、それが直接記録されていく方法なのかなと思って。風を感じるというと、ただ触覚を記録することなのかなと思っちゃうんですけど、そうじゃなくて風船自体の動きを記録していくということが、見た目から考えたときのアウトプットの違いなんだと思います。


ー卒制はどんなものを作ろうと考えていますか?

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「柔らかいパワー」というテーマで制作しようとしています。
力が加わっている状態って、素材間同士で重力とかの力が加わっていると思うのですが、その動き自体がどれくらい重いのかは全く見えません。でも、見えないけれど、見ているとわかっちゃうというのもありますよね。そういったことがものすごく増幅されたら、新しい造形に繋がっていくんじゃないかなと思い、制作中です。圧縮から開放までの力の状態の変化をどう記述するかというのが、まだ難しいところではあるんですが、それが何かになったら面白いのではないかと思います。

(インタビュー・編集:野村華花)

Instagram: @natsuko_motoi


次回の統合デザイン学科4年生インタビューは…!

「楽しい」と感じることを自分なりに続ける。
井上葉月(いのうえ はづき)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクト所属

イラストの制作や写真に興味を持つ井上さん。
日記やアルバイト先のPOPにご自身のイラストを描いています。
そんな井上さんの制作に対するモチベーションとは何か。
4年生インタビュー第7弾公開中です!




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