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統合デザイン学科卒業制作インタビュー#03山口敏生さん

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山口 敏生(やまぐち としき)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
菅俊一プロジェクト所属
写真は、2年次に制作した「Landscapes in water」というzine作品のために撮影したもの。


_卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。

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『光の質感とスクリーン』という作品を制作しました。
形状や素材に手を加えたスクリーンに単純な映像を投影することで、その光に質感を生み出そうという試みです。

作品は、5つのスクリーンによって構成されています。円が敷き詰められた形状に紙を切り抜いたもの、傾斜をつけた台紙に半透明の仕切りを設けたもの、3種類の構成で凹凸を設けたものに分けられ、それぞれに映像を投影しています。


_この作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
テーマを決めるきっかけとなったのは「どこかを隠して見る映像」という課題で3年生の時に制作した作品です。映像デバイスの画面の一部を物理的に覆うことで、映像と画面の新しい関係性を考えるというテーマですが、この作品を通じて「メディアデザイン」という考え方に興味を持ちました。

 「映像を流す」という行為は、映像の内容(コンテンツ)と映像を流す場所(メディア)によって成り立ちます。例えばiPadに映像を流す場合は、映像(コンテンツ・データ)とメディア(iPad)という関係が成り立っています。「メディアデザイン」とは「メディアの形からデザインする」という考え方です。画面に映像を流すのであれば、その画面の形から考えるということです。
この作品の制作を通じて、iPadに穴の開いたカバーを被せるだけで、ボーダーが流れる映像が換気扇のように回って見えるという現象に可能性を感じていました。

また、動きにまつわる原理のリサーチを基に作品を制作する「動きの原理」という課題の作品では、透明な板に線を描き、ボーダーが流れる映像を投影することで、動きのある影を生み出すことを試みています。

この作品は端的に言えば、スリットアニメーションにおける「スリット」の役割を投影する映像に置き換えているのですが、ここでもスクリーン=メディアの形から考える、という姿勢を持って制作にあたっています。

以上のような作品を制作するうちに「投影」において「映像がスクリーン上で変換されて完成する」ような映像とスクリーンの関係性が作れたら面白いのではないか?と考え、4年生の4月あたりにはこのテーマでいこうということを決めました。


_テーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
「スクリーンによって映像を変換する」と言っても、テーマとしては抽象度が高く、やれることが無限にある状態でした。テーマの具体性を上げなければいけないと考えていた4年生の前期に、ちょうど「卒業制作のテーマについてリサーチし、展示作品としてまとめる」という課題がありました。この課題を利用して、私は「スクリーンによる映像変換」というテーマでたくさんのリサーチ・試作を行い、展示としてまとめました。投影の歴史を遡るために「マジック・ランタン」「映像のアルケオロジー」等の資料を読んだり、試作の面ではさまざまな素材に映像を投影したり、立体的な映像の投影に挑戦したり…...。これらの試作やリサーチを通じて「映像をスクリーンで変換する意味・意義」を明確にする必要があると思うようになりました。そして、展示を見直しながらテーマについて振り返った時、「質感」というキーワードにその意義を見出せるのではないか?と考えました。結果「スクリーンによって映像に質感を与える」という、さらに絞り込んだテーマを設定することができました。

夏休み以降は「質感」というテーマのもと、スクリーンによって映像に質感がもたらされているか?という基準で試作を重ねていきました。高速で試作→考察を繰り返すことの重要性を認識しており、4年前期にある程度たくさんの試作を行なってきたので、その過程が役に立ちました。3Dプリンターやレーザー加工機等の力も借りながら、ひたすらそのテーマで考えうる試作を行い、その中で良さそうなものについてその背景にある原理を考えて、さらに発展させるということを繰り返していきました。

具体的には、円が敷き詰められた形状に紙を切り抜いた作品を最初に制作しています。この作品では、切り抜いた紙を空中に設置し、円が蠢く映像を投影しています。そうすることで、スクリーン上(紙を切り抜いたもの)のあらゆる場所にランダムに円と円が重なる動きを発生させることで、そこに質感を生み出すことを試みています。

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当初は手法を応用して一つの作品を制作したいと考えていたのですが、毎週の授業でのフィードバック等も参考にしつつ、映像における手法の開発・研究的な制作過程そのものを作品としても良いのではないか?と考えられるようになり、幾つかの試作物を作品として完成度を高めて展示する、という方向性を持ちました。
結果的に、最終的に展示する作品を選定していきました。


_展示空間はどのように考えていきましたか?

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作品が5種類あったので、できるだけ統一した1つの作品であるという印象を与えたいと考え、什器を制作していきました。

特に凹凸のある3面については、プロジェクト内の講評時には、既存の机の上に凹凸のある塊をのせるという形態をとっていました。しかし、プロジェクターと平面との距離や作品の見え方について考えた結果、実際の展示では、3つある什器の水平の位置を揃えるために、凹凸のあるブロックを埋め込んだ板を什器の天板に使用しました。

また展示空間の設計にあたっては、実際に美術館やデザイナーの展示に行ったり、三澤遥さんの「waterscape」など展示の図録を参考にしながら考えていきました。特にこの作品では「光の質感」という繊細なテーマを扱っているので、展示台やプロジェクターの設置方法等は「できるだけ目立たず、作品自体にノイズを与えない」という基準で什器を設計しています。


_展示を行った感想を教えてください。
想像よりも多くの反響・反応がありました。一部の映像では見終わるまでに3分程度の時間のかかるものもありましたが、来てくださった方の多くがじっくり時間をかけて作品を鑑賞されていたのが、とても嬉しかったです。また作品自体が5つに分かれていますが、感想を言ってくださる方が「特に良い」と選ばれたものが1つに固まらず、ばらけていたのが印象的でした。それぞれ別の発見をされているところを見ると、展示する5つの作品の選定は間違っていなかったんだな…と思うことができました。また、投影されている光を液体や輪ゴム・微生物など「モノ」に例えている方も多く、「投影されている光が質感を持つ」というテーマが伝わっていることが確認できて良かったです。

一方で、展示をする為に考えなくてはならないことの多さも認識し、タイムマネジメントの重要性も感じました。試作のログや、投影映像とスクリーンとの関係性の説明など、改善すべきところも多く認識しました。


_この作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。 まずは作品を制作するにあたって行なってきた試作・ログをまとめることや、起きている現象・考察をテキストとしてまとめようと思っています。
その上で、ここで制作した作品はあくまで「手法の研究」として取り組んだものですが、この手法を応用し、実際の広告映像等に展開する可能性について探りたいと考えています。また「光の質感」というテーマについてももう少し深掘りしたいです。

これだけ長い時間をかけて一つの作品制作に取り組むということは本当に貴重で、これから先なかなかこのような機会はないと思いますが、時間を見つけて「研究的な制作」に取り組むという姿勢は続けて持っていきたいと思っています。

Instagram : @keyofom

(インタビュー・編集:海保奈那・河原香菜恵)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)でご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B(ピックアップ卒展!)

会期
3月13日(日)〜3月15日(火)
10:00 - 18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス アートテーク
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B

次回の卒業制作インタビューは…!

「変身フォント」
渡邊 美里(わたなべ みさと)
多摩美術大学統合デザイン学科5期生
中村勇吾プロジェクト所属


『変身フォント』という人が文字に変身するアニメーションを制作した渡邊さん。
それぞれのフォントが違った現れ方、変身の仕方、消え方をすることにこだわったそうです。
ほとんどアニメーションの制作に触れてこなかった渡邊さんはどのように進めて行ったのでしょうか?
卒業制作インタビュー第4弾は明日公開です!乞うご期待!


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