メッキと環境汚染

生徒の居ない閑散とした校内で、黙々と実験助手の先生に手伝ってもらいながら、長年放置された化学準備室の試薬の棚卸しをしていました。

去年まで在籍していた先生がこの化学実験室と準備室をほぼ住処にしていたことで、他の先生が介入できないまま好き放題にされた汚部屋は、もうどこから手をつければ良いのやらというレベルでぐちゃぐちゃです。

とにかく生徒が長い間居ないこの休校期間に色々と片付けてしまいたいな、と思いながら棚から試薬を下ろしていた時。
パッと手に取ったプラボトルが経年劣化で大破し、辺りに黄色い結晶が散乱。
黄色結晶……硫黄とかならいいけど……。
恐る恐るラベルを見てみると、こんがり日焼けしたような薬品ラベルにはしっかりと「クロム酸カリウム」の文字が……。破損した試薬ボトルを持ちながら絶望のまま立ち尽くす僕。

絶望していた理由は至って単純。クロム酸カリウムや二クロム酸カリウムをはじめとする「六価クロム」系の試薬は、とにかく廃棄の処理が面倒なんです。

ーそもそも六価クロムとは?ー

クロムは元素記号Crで表される金属で耐食性が高く、鋼のメッキ処理等によく用いられるものです。六価クロムとは、このクロムという金属の酸化状態を示すもので、ほかに三価のものが存在します。

六価クロムには強い中毒性があり、六価クロムに晒される環境下で労作していると鼻の左右を隔てる壁に穴が開く鼻中隔穿孔という病気を誘発するほか、発がん性や皮膚への毒性などが示唆されています。

そのため、廃液や汚泥の処理にも非常に厳しい規制がかけられています。水溶液として処理する際の環境基準(水質汚濁防止法)としては0.5mg/l。仮に300gも暴露しようものなら、薄めて廃棄しようとすると600tの水で薄めて廃棄しないといけないのです。お風呂1000回分の水で希釈、途方もなさすぎる……。

そもそもなんで学校に六価クロムを500g瓶で買う必要があったのだろうか、過去の先生方に小一時間ほど問い詰めたい気分です。


まぁ兎にも角にも、この暴露してしまったクロム酸カリウムをなんとか必死に集めまくらねばならんのです。床に散乱したクロム酸カリウムの結晶を掃いて集めることはもちろん、水で浸したキムタオルで床に残っている六価クロムを溶液ごと染み込ませ、こちらもクロム汚泥としてかき集めました。

なんとか集め切り、掃いて集めた結晶はゴミ塗れになってはいるものの全量の95%ほどは回収。床に散乱していた残りの分は、ほぼ全部キムタオルに染み込ませることができたと思います。

試薬を入れていたプラ容器は破損して使い物にならなくなったので、褐色瓶に挿げ替えました。とりあえずこのゴミ塗れのクロム酸カリウムは薬品庫に封印、封印だこんなもの。


この事件のせいで予定していた棚卸しの2割も進まなかったことが非常に悔やまれます。


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