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エアロバイクと声援

主語は小さい方がいいという。
なので、世界地図の中でも極めて小さい領域を占める日本全体のことについて真剣に考えてみよう。

現在、我が国日本は、様々な問題を抱えている。
経済的格差の拡大、それに付随する貧困問題、止まらない政治家の汚職、少子高齢化とシルバー民主主義、環境問題にエネルギー問題、安全保障問題、移民問題、人材不足、パワハラ、セクハラ、etc…。

だが、何にも増して問題なのは、そうしたいくつもの課題に立ち向かっていく活力の不足である。
未来に希望が持てない。だから、活力が湧かない。そして事態は深刻化する。
こうした絶望のスパイラルが、我が国日本を根底から蝕んでいる。

だとすれば、どうにかして未来に希望を持つことが状況を打開する突破口となるはずである。
未来を背負って立つのは、若者である。
今、若者はどういう状況にあるのだろう。

先日の帰宅途中のこと。
近鉄阿倍野橋駅発、河内長野行きの準急に、6人の中学生が乗っていた。いわゆる不良っぽい少年たちだ。ニット帽にスニーカー、対面での談笑。深刻な厨二病の症状。シラフで酔っ払う彼らは、明らかに乗客の顰蹙を買っていた。

他の乗客の例に漏れず、私も素朴に「ぶん殴りてえ」と思った。
これが若者の現実である。日本は終わった。もはや、未来に希望など持てない。死にたい。

だが、彼らにも事情がある。
私もかつては彼らと同じく中学生であった。胸に手を当てて思い返せば、なるほど、ああなる気持ちも良くわかる。
彼らの胸の奥底に秘めた想い。絞り出される声なき声。身悶えしながらの祈り。切なる願い。
「ヤリてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

そうなのだ。
彼らは、持て余しているのだ。
周りにいる人々の顔色を気にすることすらできないほど、困窮しているのである。その、有り余るエネルギー(≒性欲)のやり場に。

思春期を迎えた少年は、大人とほぼ同じ身体に、幼児とほぼ同じ衝動を搭載している。見た目は大人、頭脳は子供、そんな逆コナン君みたいな生き物が、中学生というものである。飢えたライオンがウヨウヨ徘徊しているのと同じで、落ち着いて暮らせるわけがない。

「最近の若いモンは。」
いつの時代も、若者は年寄りの顰蹙を買ってきた。年寄りもかつては若者だった。彼らを「ぶん殴りたい」という想いの半分は、厨二の古傷が痛むからに他ならない。
若者は若者で、「大人はわかってくれない」と苦々しい思いを抱いている。
私も若い頃は、「あんなくだらない大人には絶対になるもんか」と考えていた。
それなのに、いつの間にかそこらにいる疲れた中年と変わらぬ感想を抱くようになってしまっていた。バカバカ。自分のバカ。

若者と年寄りの負のスパイラルに終止符を打つためには、何か手立てが必要である。
若者の有り余るエネルギーをうまく解消して、みんながニコニコ笑って暮らせる社会を実現するために。

「そのためにクラブ活動があるのではないか」
という反論もあるだろう。確かに、クラブ活動は少年達のエネルギー発散に一役買っている。
だが、クラブ活動には大きな問題点がある。「どうせサッカー部でしょ」問題だ。
クラブ活動を少年達のエネルギー解消問題の中心に据えると、女子の注目がサッカー部に集中し、モテる者とモテざる者の格差が著しく広がってしまう。
「あの娘も、どうせサッカー部の男子が好きなんでしょ。」
と、サッカー部以外の少年達はルサンチマンを増幅させ、フラストレーションを過剰に蓄積する。事態はより深刻化する。

徴兵制はどうだろう。
かつては徴兵制が若者のエネルギーを発散させていた。婦女子が「兵隊サン」と眼を潤ませて声援を送ってくれるオプション付きだ。クラブ活動と違って全員強制参加だから、格差も生まれにくい。おまけとして、安全保障問題にも大きく寄与する。これ、いいんじゃない?
だが、他国にどう説明するのか。
「なんでいきなり徴兵制にしたん?」
と聞かれて
「性欲を持て余したから」
と答えるのか? カッコ悪すぎる。

暗礁に乗り上げた。八方塞がりである。とりつく島もない。
エジプトの昔から続いてきた「最近の若いモン」問題は、やはり解決不可能なのか。

もう一度整理してみよう。
問題は、少年達のエネルギーをいかに発散させるかである。
一番手っ取り早い方法は、「走らせる」だ。「エアロバイク」でもいい。
とにかく、ゼーハー言わせて、エネルギーを消耗させさえすればいい。
次に、性欲をどう解消するか。
これは、身体的な局面ではなく、精神的な局面における性欲だ。「チヤホヤされたい」という思いをどう受け止めてあげるか。
現実のクラスの女の子にチヤホヤされることはもとより不可能なので、別の手立てが必要となる。
プロの女の子に声援を送ってもらえばいい。
タレントやアイドルなどプロの声援を録画して、走っている間に流せるようにする。
これで、誰もがサッカー部の少年達と同じ幸福を味わうことができる。

ここから合理的推論によって導き出される解決策が、「エアバイクと声援」である。
街の至る所にスタジオを儲け、エアロバイクを設置する。少年は個室に入り、推しを選んで声援を送ってもらう。
この個室では、声援以外にも特典インタビュー映像を観ることができる。インタビューの内容はもちろん、「汗かく男子はなぜカッコイイか」。
中学生はアホなので、それがヤラセだとは気づかない。女の子は金さえ払えば何だって言ってくれる。

男性アイドルも雇って、お忍びでスタジオに通わせ、その様子を自身のSNSで公開させる。出待ち目的の女子が常時スタジオの周りにたむろすることは言うまでもない。
少年達はその群れを掻き分け、スタジオに通う。スタジオを出る際、ひと汗かいた後の自分を女子に見てもらうという快感が病みつきになり、リピーターとなる。こうしてハムスターよろしく延々ペダルを漕ぎ続けることになるだろう。

中学生はお金がないので、利用料は無料。その経費は、彼らが発電した電力で賄う。エネルギー問題にも貢献して未来に明るい一石を投じてくれること請け合いである。

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